pMMR/MSS直腸がんに対するTNTにおける、ICI上乗せ効果 (TORCH試験)
J Clin Oncol. 2024 ;42:3308-3318.
切除可能直腸がんに対するTNT (Total Neoadjuvant Therapy)は、日本ではまだこれからといったところだが、世界では標準治療になりつつある。この方法の最大のメリットは何といってもclinical CR (cCR)を得た患者のwatch and wait (WW)戦略であろう。手術なしでがんが治ってしまうのは本当にすごいことで、今後この戦略は日本においても重要な潮流になると考えている。
今回はそのTNT戦略においてICIをどのように組み込むかという戦略を確認したPhase II試験。dMMR/MSI-High結腸直腸がんにおいては、ICIを術前に組み込む治療戦略はほぼ確立しつつあり、様々なICIで臨床試験が行われている。日本でもVOLTAGE 試験が過去に発表され、良好な成績を得ている。最近では抗PD-L1抗体+抗CTLA-4抗体の併用療法による臨床試験も行われている。
今回はpMMR/MSS直腸がんを対象として施行されたPhase II試験の発表結果で、Phase IIIを計画する上で適切なレジメンを選択するといった趣旨。pMMR/MSS直腸がんながら、良好な奏効が得られており今後の開発が期待される。
TORCHは、中国の6施設で行われた前向き多施設無作為化非盲検第II相試験で肛門縁から12cm以下のStage II-III直腸癌を対象としている。pick-the-winner形式でPhase IIIへの候補を探索する目的。
A群はIMRTを用いたShort CRT (SCRT) 25Gy/5Fr → CapOx+ toripalimab(抗PD-1抗体)による化学療法6cycle, B群は2cycleの化学療法→SCRT→4cycleの化学療法というスケジュールで各々1:1に割当てを行った。TNT後4週間以内に腫瘍再評価を行いcCRが達成された患者にはWW。Non-cCRもしくは再増大を認めた場合には直腸間膜全切除 (TME)を受けることが推奨された。
主要評価項目はCR割合(cCR+pCR)、副次評価項目は毒性、コンプライアンス、手術合併症、長期転帰など。
結果
2021年5月~2022年9月までに130例の患者が集積された。患者同意撤回・dMMR判明等で121例が適格とされA群62例, B群 59例が割り当てられた。
年齢中央値は55歳, 男性約7割, 約8割が肛門縁より5cm以内で、約9割がStage IIIであった。
SCRT完遂割合は100%で、A群, B群各々87.1% vs 91.5%が5cycle以上の化学療法を受けた。6cycle完遂したのは74.2% vs86.4%であった。≥Grade 3のAEは45.2% vs 42.4%に認められ、主に血小板/好中球数減少であった。術前に2例が交通事故・脳梗塞で各々死亡したが、治療との因果関係は否定的。
術前治療終了後の再評価にてA群 27例 (43.5%) vs B群 21例 (35.6%)がcCRを達成した。しかし各々16例は手術を希望された。Non-cCRの患者の内、各々5例が括約筋温存術不能と判断されたためTMEを拒否。A群1例, B群2例がPDのため手術に進まなかった。
観察期間中央値19ヵ月の内、WWを行われた30/32例はcCRを維持。各々1例が10ヵ月・7ヵ月時点で再増大しTMEを受けた。手術を受けた74例の内pCRが確認されたのはA群 50% (20/40例), B群 50% (17/34例)であった。主要評価項目であるCR割合は各々56.5% (15 cCR+20 pCR/62例) vs 54.2% (15 cCR+17 pCR/59例)であった。両群とも事前に設定された閾値25%を満たしていたが、両群間に有意な差は認められなかった。多変量解析では若年が独立したNon-CRリスク因子であった。
括約筋温存術はA群 29例 (72.5%) vs B群 28例 (82.4%)で施行。Major pathological response (≤残存腫瘍10%)は各々67.5% vs 70.6%。術後合併症はA群2例、B群1例で、膣瘻1例と吻合部瘻2例を含むGrade 3-4の合併症を認めた。手術関連死亡は認めなかった。観察期間終了時点で各々82.3% vs 86.4%が肛門括約筋温存を達成していた。
これまでのTNT戦略によるCR割合は大体25~30%というところであった。
本年のASCOでも日本のENSEMBLE-2試験の結果が発表されたが、こちらもCR割合は36%と発表されている。それらと比較すると今回の54-56%という数字は非常に良好な結果と言える。pMMR/MSSでも抗PD-1抗体の追加でこれだけの上乗せがあるという点は驚きである。
中国のPhase IIということでやや疑念も無くはないが、Discussionにもあるとおり2023年のESMOでPhase IIIのUNION試験が発表されており、この試験ではSCRT→CapOx+camrelizumab (CAM) 2 cycle → TME → 術後CapOx+CAM 6 cycle → CAM1年メンテナンスというレジメンでCR割合 39.8%と報告されている。術前の化学療法が2 cycleしか入らないことや、その分手術までのintervalが短くなっていることなどを考慮すると、今回のようにしっかり6cycle入れればこれだけのCR割合が出ても不思議ではない。
こうなるとむしろ直腸がんは術前に重きを置くべきで、術後補助は不要なのではと考えたくなる。ただ企業戦略としては肺がんのように術後のICI追加で稼ぎたいだろうと思うので、今後直腸がんでも術前+術後にICIを入れる臨床試験が増えてくるのかもしれない。