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HER2変異固形がんに対するエンハーツ (DESTINY-PanTumor01試験)

Lancet Oncol.2024;25:707-719

DESTINY-Lung01試験 (単群P2試験)においてトラスツズマブ・デルクステカン (エンハーツ: 以下 T-Dxd)は前治療歴のあるNSCLCに対して、HER2遺伝子変異コホートにおいてORR 55%, PFS 8.2ヵ月、HER2過剰発現コホートにおいてもORR 約30%, PFS 約6ヵ月の結果を出した。

HER2遺伝子変異NSCLCに対してはDESTINY-Lung02で152症例への追加試験が行われORR 約50%, PFS 約 10ヵ月超と再現性のあるデータを出し本邦でも保険承認されている。HER2変異の大多数はキナーゼドメインの変異でexon 20挿入変異が最多(93%), 他exon 19, 21の置換など。細胞外ドメインexon 8の置換なども少数認められていたが、変異の種類や過剰発現の有無に関わらず効果が期待できる結果であった。

HER2遺伝子変異がん細胞は、必ずしもHER2蛋白を過剰発現しているわけではない。T-Dxdがそのような細胞に抗腫瘍効果を示す機序についてはまだはっきりと解明されていないが、活性化した異常HER2蛋白はHER2阻害剤との結合により受容体のユビキチン化・内在化を受けやすく、その結果ADC製剤であるT-Dxdがより優先的に取り込まれる、という機序が考えられている

ちなみにDESTINY-Lung03ではHER2過剰発現コホートに対してT-Dxd + durvalumabの併用療法や、1次治療としてT-Dxd+MEDI5752±CBDCAの有効性の探索が行われており、DESTINY-Lung04ではHER2変異症例に対する一次治療としてのT-Dxd vs 標準治療のPhase IIIが進行中である。

前振りが長くなってしまったが、今回はNSCLC以外のHER2変異固形がんに対するT-Dxdの効果について探索した研究である。最近はこういうbiomarker別のバスケット試験が増え効率的に治療開発が進むメリットがある一方で、本当に全てのがん種で同じ効果が得られているのか良くデータを吟味する必要がある。


DESTINY-PanTumor01試験は活性化HER2遺伝子変異を持つ固形がんに対する多施設共同バスケット試験である。活性化HER2遺伝子変異は事前に決めた複数の変異をNGSで解析。HER2蛋白の過剰発現や遺伝子増幅も同時に検査した。既に承認されているがん種(HER2変異肺がん・HER2過剰発現乳がん/胃/胃食道接合部がん)は除外された。

患者はT-Dxd 5.4mg/kgを3週毎に投与された。主要評価項目はBICRによるORR。副次的評価項目はORR(担当医), DoR, DCR, PFS, 6m or 12m生存割合, OS, 薬剤血中濃度, 安全性などであった。

結果

2020年12月~2022年5月まで、131人の患者がスクリーニングされ102人の患者が登録された。約60%が女性で年齢中央値は66.5歳。がん種の内訳は乳がん(20%), 大腸がん(20%), 胆道がん(19%), 食道・胃がん(9%), 尿路(7%), 頭頚部腺癌(6%), 小腸がん (5%)など。内18%が抗HER2療法を受けた既往があった。
HER2変異は51%がキナーゼドメイン, 33%が細胞外ドメイン, 17%が膜貫通部ドメインの変異であった。HER2 IHC score 1+以下は42%。HER2遺伝子増幅なしも44%含まれていた。前治療レジメン数の中央値は3だった。

観察期間中央値8.61mの時点で85%の患者が治療中止となっており、その内訳はPD 67%, AE 10%, 患者/担当医判断・その他が合わせて8%だった。
主要評価項目のORRは29.4%であった。median DoRは担当医評価で11ヵ月, median PFSは 5.4ヵ月, median OSは10.9ヵ月だった。薬物動態検査では治療薬に対する抗体は治療前も後でも1人も検出されなかった。

がん種別のresponse

がん種毎に治療効果が違う理由について、Discussionではペイロードとなっている化学療法剤に対する感受性が挙げられている。消化管がんの効きが悪いのはCPT-11などトポイソメラーゼ阻害薬の治療既往があるからとのことで、appendixのsubgroup解析もそれを示唆する結果となっている。ORRの足を引っ張っているのは主に胃がん・大腸がんなので、これらの症例を除外すればORR 5割は取れている印象。またHER2過剰発現の有無は関係なく効いているが、3+や2+の方が陰性と比べてより効きやすい傾向にある。胃がんにおいて膜貫通蛋白部の変異のresponseがやや悪い気がするが、治療歴の影響かどうかは不明。また大腸がんにおいてRAS変異は抗HER2療法の負の効果予測因子と言われているので、出来ればそれとの関連性も見たかった。
(HER2過剰発現大腸がんを対象としたDESTINY-CRC02試験の結果では、RAS変異型は野生型よりORRが10%程度落ちるようだが)

今後臓器横断的に日常臨床への導入も検討しうるpotentialはあるが、標準治療が終わりそうな段階でエンハーツ導入は正直きついので、早めのlineで使えるようになればいいなと思う。

そういえば本試験ではHER2遺伝子変異がんをどうやってスクリーニングしたのだろうか。HER2遺伝子変異がんは全体の数%程度と考えるがスクリーニングは131人しかやっていないと書いてあるので、恐らくHER2変異が事前に判明していた症例をスクリーニングしたと考えられるが……。がん遺伝子のパネル検査を自費か研究ベースで行っていた患者が登録されたのだろうか?そういう隠れたバイアスも少し気になった。

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