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無症状の高リスク骨転移に対する予防的放射線照射, ランダム化第2相試験

J Clin Oncol .2024;42:38-46.

無症候性の骨転移に対し予防的にRTをしておいた方が良いかどうかという疑問はたまに遭遇する。骨関連イベント(SRE)が起きてしまうとガクッとADLが低下し、メインとなる化学療法の継続にも支障をきたす。最近はゾメタやランマークなどのBone Modifing Agents (BMA)の登場によりSREの発症も抑えられていること、また痛みが出ても早期に照射を行えば重篤なADL低下に繋がらず乗り越えられることもあり、果たして予防的にやっておいた方が良いのか、またそもそもどのような病変に予防照射をすべきかという判断はなかなか難しい。本論文はそんな疑問に答えるべく、高リスク骨転移に対して予防的にRTを行い、その後のSRE発症を予防できるかという効果を探索したP2試験。


対象患者は少なくとも1つ以上の高リスク骨転移を有する固形がん患者。
高リスクとは以下のように定義された。
① 2cm以上の大きな病変
② 寛骨 (臼蓋・大腿骨頭・大腿骨頸部)・肩 (肩峰・関節窩・上腕骨頭)・仙腸関節を含む病変
③ 長管骨皮質の1/3~2/3を占拠する病変(上腕骨・橈骨・尺骨・鎖骨・大腿骨・脛骨・腓骨・中手骨・指節骨)
④ 脊柱接合部の病変(C7-Th1, Th12-L1, L5-S1)と、後方要素(椎弓(根), 椎間関節, 横突起, 棘突起)を含む病変
また(競合する臨床試験があったので)oligometastaticな患者を除外するため、5個以上の転移がある患者を対象とした。複雑骨病変・整形外科的手術を必要とする例・対象病変への照射歴がある患者は除外された。

予防的照射方法は放射線科医に一任。患者は3か月毎に1年間follow upされた。主要評価項目はSRE (病的骨折・脊髄圧迫・整形外科手術・緩和的照射)
副次評価項目はSREに伴う入院, OS, opioid-free survival, PRO (BPI, EQ-5D-5L), AEとした。

結果

78例 (122転移病変)が登録され1:1に割付された。7例が逸脱し、予防的照射群 35例 (62病変) vs 経過観察群 36例 (49病変)が評価対象となった。患者背景は年齢中央値 65歳, 男性56%,  原発巣は乳腺23%, 前立腺23%, 肺26%, 頭頚部/皮膚 13%, それ以外15%であった。高リスクの内訳は①が約20%, ②が約40%, ③が約5-10%, ④が約30%であった。BMA使用患者は約5割。全身治療対象者が約9割だった。予防的RTでよく使用された照射法は27Gy/3Fr, 20Gy/5Fr, 8Gy/1Fr, 30Gy/10Fr等であった。

SRE発症割合(SRE病変/登録病変)は1.6% vs 29%で有意に予防照射群で少なかった。SRE発症者割合も同様に有意に少なかった。SREの内訳(episode数)は予防照射群では緩和的照射1回に対し、経過観察群では緩和的照射 8回, 病的骨折 4回, 脊髄圧迫 2回であった。SREの内、緩和的照射を除いた比較でも、予防的照射群が有意に良好な結果であった。SREの累積発症率も予防照射群で有意に低かった。

副次評価項目のSREに伴う入院は0% vs 11%で予防的照射群で良好。OSも観察期間中央値2.5年の時点で中央値 1.7年 vs 1.0年で予防的照射群で良好。多変量解析でも予防的照射は有意な予後因子であった。BPI (brief pain inventory) scoreは12か月の時点で予防的照射群で良好。それ以外の指標では有意差は認めなかった。opioid-free survivalも同様に有意差なし。AEはG2以上のAEが12% vs 3%で(特に悪心が)照射群に多かったがG3以上のAEは認めなかった。


当初Methodsを読んでいて、緩和的照射イベントを主要評価項目に含むのはちょっとどうかと思った。幾ら全身化学療法やBMAを投与していても骨転移は進むのだから、そんなん差がつくに決まっている。
しかし論文内でSREの内、疼痛に対する緩和的照射以外の項目においても予防的照射が有効であったことが示されていたのでそっと心の矛を収めた。臨床的には病的骨折や脊髄圧迫などの"取り返しのつかない"イベントを予防できるという事が一番重要であるし、予防として意味のあるendpointだと思ったからだ。
MSKのようなhigh volume centerで臨床試験の登録患者として注意深くfollow upされていても、SREの予測は難しい。だから予防的照射に意味があるということが良くわかる研究である。(逆に副次評価項目のopioid-free survivalに差が無かったことは、疼痛自体は痛みが出てからのRTでも取り戻せるイベントであることを間接的に示していると推察できる)

それと、本試験においてOSまで影響があったことは驚きである。P2なので確定的なことは言えないが、この理由は何だろうか。QOL自体に有意差が出ていないので(筆者らはQOL評価方法がまずかったかもとdiscussionしているが)、痛みなどでADLが悪化したことが直接OSに影響しているというわけではなさそうである。となると照射によって腫瘍免疫や化学療法への反応が間接的に促進された可能性も考えうるのか?(ICIにおけるRTのabscopal effectについては、最近は否定的な風潮だが……) 患者リクルートが大変そうだが是非P3試験まで進んで欲しいと思う。

この結果を臨床応用しようとしたときに悩ましいのは、bulky 骨転移があるような患者は大体複数あることが多く、その場合どの病変にRTすべきかという問題は生じそう。全部やるのは現実的ではないし、RTをすることで骨髄が疲弊するとchemoへの影響も出てくるからだ。場合によっては内照射(メタストロン)も一つの選択肢となりうるのだろうか。

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