腹膜播種を伴う胃がんにおけるClaudin-18, HER2, PD-L1の発現ステータス
Gastric Cancer. 2024 May 9. doi: 10.1007/s10120-024-01505-6.
新しく胃がんの一次治療に加わったゾルベツキシマブ(商品名: ビロイ)における臨床的疑問といえば、他の一次治療レジメンとの使いわけであろう。特にClaudin (CLDN)-18陽性かつPD-L1陽性の腫瘍に対して、どのレジメンを使うのかが悩ましい。
今回の文献はその前段階として各biomarkerの発現状況を病理学的に検索した研究。腹膜播種検体と原発巣の検体が揃っているのは珍しいし貴重なデータである。やはり過去の遺産というのは大事にすべき。
病理サンプルは2000年~2021年の筆者ら大学のアーカイブが用いられた。原発巣および腹膜播種巣のペア検体を有する胃がん84例(生検78例、手術標本16例、剖検6例)を用い5つの主解析を施行した。
① 原発巣および腹膜播種巣のCLDN18 statusの比較 (N=84)
② 原発巣腫瘍内のCLDN18のheterogeneity (N=22)
③ 生検検体と手術検体のCLDN18の発現比較 (N=16)
④ 生検回数とCLDN18陽性割合 (N=78)
⑤ 原発巣のHER2, PD-L1, CLDN18との発現相関性
CLDN陽性割合のcut-offは40%(FAST試験)と75%(SPOTLIGHT試験, GLOW試験)を用いた。CLDN免染は43-14A抗体, HER2は4B5抗体, PD-L1はSP263抗体を使用した。HER2とPD-L1は原発巣のみの評価とした。
結果
84例の原発巣の内78.6%がdiffuse type, 21.4%がintestinal typeであった。CLDN発現割合は40%以上が57.1%, 75%以上が28.6%であった。CLDN発現と性別・年齢・部位・組織型との関連性は認めなかった。(が、部位Lでは陰性が多い傾向だった) CLDN陽性例と陰性例でOSに差は無かった。化学療法前後の9検体では、化学療法後の方が陽性割合が高かった。
① 腹膜播種検体では44.0%が40%以上、20.2%が75%以上の発現を示し、一致率は40% cut-offで79.8%, 75% cut-offで75%であった。原発巣と腹膜播種検には正の相関関係を認めたが、腹膜播種検体の陽性率は原発巣より低かった。
② 原発巣の表面・中心・浸潤先端部のCLDNの発現を比較すると表面>中心>浸潤先端部の順で陽性割合が低かった。
③ 生検標本と切除標本の間に有意差は認められず一致率は40% cut-offで87.5%, 75% cut-offで81.3%だった。
④ 生検数とCLDN18陽性割合について、1生検あたりの平均は3回だった。40% cut-offで陽性割合は3生検以下の群で65.4%, 4生検以上の群で46.2%。75% cut-offでは3生検以下の群で32.7%, 4生検以上の群で26.9%だった。
よって生検の個数で陽性割合に差は認めなかった。
⑤ HER2およびPD-L1との相関について、HER2, CLDN18, PD-L1の間に有意な相関は認めなかったが、HER2- & PD-L1 CPS<1の群にはCLDN18陽性が多い傾向にあった。
臨床の参考になる研究結果である。特にHER2のように生検の数によって陽性割合が変わらないという点は朗報。またそれほど突出しているわけではないがHER2, PD-L1陰性例にCLDN陽性例が多いという点は、治療選択肢を選ぶ際の一助となるか。
GLOW試験やSPOTLIGHT試験におけるCLDN18の陽性割合は38%と報告されており今回は28%。少数例のため有意差が出ていないがdiffuse typeはintestinal typeより陽性割合が低いようだ。また原発巣より遠隔転移巣の方が低いとも報告されているとのこと。HER2, PD-L1も原発巣と遠隔転移巣の免染一致割合は概ね70%前後と報告されているので、可能なら原発巣を染めた方がよさそうだ。
興味深いのは胃原発巣の組織で深くなればなるほど陽性割合が下がる点。胃壁内で陽性割合が下がったにも関わらず、原発巣と播種結節との比較では一致率75%まで回復している。胃壁で上皮間葉移行(epithelial-mesechymal transition:EMT)して貫通した後、播種の段階でまたCLDNが発現するのか、もしくは主に陽性細胞が播種結節を形成するから、結果として一致割合が回復しているのか。こういう疑問点が研究されると今後、腹膜播種特異的な治療を開発するヒントになりそうだと思った。
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