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がんと自由診療:高濃度ビタミンC点滴療法について

※ 本記事は有料記事です。
※ がん自由診療の概略と私の考え方はこちらにまとめています。
※ 最終更新日 2024/7/10 (ver 1.0)


「高濃度ビタミンC点滴療法」とインターネットで検索すると、本治療を行っている日本全国多数のクリニックがヒットします。しかし各々のHPを見ても効果の根拠がはっきりと記載されていない、あるいは記載されていても効果があることに偏った情報しか書かれていないことが多く、患者さんが客観的な情報を得られないことが問題であると私は考えています。自由診療で多額の費用がかかる治療だからこそ、キチンとした情報提供を行い費用をかける価値があるのか患者さんが判断出来るようにすべきでしょう。

数百万かかる他の自由診療と比べ高濃度ビタミンC療法の費用は比較的安価と考え投与を検討される患者さんも多いと思いますが、1回数万円 x 数十回投与すれば、結果的に百万円単位の出費になりその総額は決して安いとは言えません。

今回は高濃度ビタミンC療法について医学論文を参照し、がん治療の専門家としてこの治療がどのような方に検討しうるのかについて、一般の患者さんにアドバイスする目的で本記事を作成しました。日本語で参照できる患者さん向けの情報としては一番詳しいものを作成したつもりです。もしこの治療を検討されている方がいたら参考にして下さい。

ただ冒頭のリンクで示したように私は自由診療に懐疑的な立場ですので、各文献の解釈については多少批判的な見方になっている点はご容赦ください。

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※ 記事内の(*1)などの数字は参考文献です。巻末に一覧を載せています。


記事の目次



【1】高濃度ビタミンC点滴療法とは?

ビタミンC (アスコルビン酸)は水溶性の栄養素で、人間の体内では生成することが出来ないため食物から摂取する必要があります。ビタミンCはコラーゲンを生成する際に使われたり、抗酸化作用によって細胞を保護したり、鉄分の吸収を促進したりする役割を持っています(*1) 。ビタミンCの欠乏により皮膚などの組織が脆弱化し壊血病を招くことが知られています。

1940年代、がん患者の中に血中ビタミンC濃度が著しく低い症例がいる点に当時の医師が着目し、ビタミンCががんの発生や増加を抑えるのではという仮説を立てました(*2) 。ビタミンCが癌に作用するメカニズムははっきりとは解明されていませんが、最近の研究では抗酸化作用を介したがん細胞増殖への影響、酵素を介したがん細胞の異常なDNA修飾の解除、がん周囲環境の低酸素に由来する増殖シグナルの抑制などが挙げられています(*3)。

また、最近では大腸腫瘍を発現させたモデルマウスに大量のビタミンCを投与すると、腫瘍の増殖を阻害したという報告(*4)などがあり、高用量のビタミンCが抗がん作用を持つ可能性が示唆されています。これらのことから、抗がん作用を期待し、がん患者にビタミンCを投与することにより余命を延ばすことを意図した治療として高濃度ビタミンC点滴療法が考案されています。

ビタミンCは経口的に過剰摂取しても腸からの吸収低下や尿排泄促進などが起こること、更に1日に数gの量を摂取すると下痢などの症状が出ることから大量摂取は困難です。そこで高濃度ビタミンC療法では点滴で大量のビタミンCを投与します。成人(15歳以上)におけるビタミンCの推奨量は100mgとされていますが、高濃度ビタミンC療法では通常数十g~100g (*5)を一度に投与します。

【2】高濃度ビタミンC点滴療法の効果は?

日本において本治療を行っているのは一部のクリニックに限られ、かつ自由診療として行われています。一方それ以外の医療機関に所属する多くの医師は本治療には効果が無いという認識を持っており、どちらの主張ももっともらしく聞こえるため、患者さんはどちらの話を信じたらよいのか分かりません。そこで今回は、最新の文献を元にこの治療の効果についての医学的な解釈を述べたいと思います。

医師によって高濃度ビタミンC療法が効く、効かないの意見が分かれている理由ですが、それは本治療の効果に関する報告結果がまちまちだからです。ある報告では効果があった、ある報告では無かったと記載されており、何が真実なのかが見えづらいのが問題です。多くのクリニックのHPには様々ながんに効くと記載がありますが細胞レベルや動物実験、エビデンス(科学的な根拠)が乏しい臨床文献などを根拠としていることも多いです。

日本緩和医療学会によるがんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016年版)には、一部有効な報告はあるが効果については臨床試験での結果待ちと記載されており、また米国国立がん研究所のHPでは各種がんにおける報告がまとめられていますが、様々ながんに効くとは書かれていません。そのため、クリニック記載の効果は過大評価である可能性があります。この記事ではその点について出来る限り中立な評価を行いたいと思います。

【3】高濃度ビタミンC点滴療法の副作用は?

ビタミンCは一般的に過剰摂取しても副作用が少ないとされています。
しかし腎機能が悪い方においては過剰投与により腎不全を招く可能性(*6)や、頻度は少ないものの尿路結石を引き起こす可能性(*7)が報告されています。高濃度ビタミンC療法においては大量のビタミンC製剤を点滴に溶かすため、製剤に含まれるナトリウムが高用量になったり、浸透圧が上昇したりすることで吐き気や不快感、頭痛などを引き起こす可能性が示されています(*8)。

またグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G-6-PD)欠損症の患者は溶血を起こすリスクがあるため、ビタミンCを大量に投与すべきではないと報告されています(*9)。

これらのように、全く副作用が無いわけではないことに注意が必要です。


【4】高濃度ビタミンC点滴療法の臨床データ

本項では皆さんに高濃度ビタミンC療法に関するデータをお示しし、その解釈についてお伝えしたいと思います。基礎研究の報告は幾ら並べても実際の患者さんの効果の検証には役立ちませんので、患者さんベースの代表的な臨床データを中心に解説します。

データは主に年代順に並べて解説しています。先に結論をご覧になりたい方は本項を飛ばして【5】をご覧ください。掲載図表は論文を元に作成しています。


① 進行がんにおける高用量ビタミンCサプリメントの症例報告

  Chem Biol Interact.1974:9;285-315.

この論文は50例のがん患者に大量ビタミンCを投与した症例報告です。ビタミンCは点滴+経口 (点滴は10g/日で最長10日間, 経口は10g/日で内服可能な限り)で投与され、総投与量は80g~2860g と記載されています。対象患者50例は年齢もがん種も様々な集団です。
結果は、治療に反応なし 17例、症状緩和効果 10例、腫瘍増殖速度低下 11例、腫瘍抑制 3例、腫瘍縮小 5例、腫瘍出血・壊死 4例。副作用としては下痢・腹痛などが認められました。筆者らは効果については有望な可能性があるが、大規模検証試験が必要と結論付けています。

※※※ 解説 ※※※
本文献は症例報告であり"投与した中に効果を認めた人が居た"という内容です。比較対象がなく、治療と効果の因果関係が不明瞭な点に注意が必要です。治療以外の因子が影響した可能性や、参加した患者がたまたま良い経過を辿っただけである可能性もあります。そのため治療効果があるとは結論付けられません。

② 末期がん患者におけるアスコルビン酸支持療法

  Proc Natl Acad Sci USA. 1978: 73;4538–4542.

この論文はビタミンC投与した100人の末期がん患者と、比較対象として条件が似た過去10年間の1000人の患者データとを比較した症例報告です。がん種は様々です。ビタミンCを10g/日投与した患者群は、比較群と比べ生存期間が4.2倍長かった (210日 vs 50日)と報告しています。

各日数時点における生存患者の割合。例えば100日生存した患者割合はビタミンC投与患者で53%, 非投与患者で12%であったことを示しています。

※※※ 解説 ※※※
①の報告より効果の期待度は高いのですが、比較患者を過去のカルテから引用しており、元々の患者状態が同程度であった保証がなく、純粋に治療効果の比較になっているかどうかが不明瞭です。(筆者らはそのあたりも考慮して患者選択したと記載はありますが)がん種も状態も違う雑多な集団同士の比較であり、かつ過去の症例との比較では新しい症例の方が治療効果が良く出ることが往々にしてあるため、ビタミンC療法の効果の根拠としては今一つ弱いと言えます。

③ 末期癌患者への高用量ビタミンC療法の二重盲検化比較試験

  N Engl J Med.1979;301:687-90.

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