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大腸癌肝転移に対する局所治療の方針決定に、造影CTに加えて造影MRIが必要か? (CAMINO試験)

Lancet Oncol 2024; 25: 137–46

一般臨床において大腸がんの局所治療の方針決定には、通常造影CTに加えて造影MRIがルーチンで撮影されている。これは単純にMRIがCTと比較しコントラスト分解能に優れていることから、CTでは検出が難しい小病変でも検出出来るためと理解している。この論文のabstractに「大腸がん肝転移局所治療の術前に造影MRIをルーチンに撮影すべきかは、ガイドラインで結論は出ていない」と記載があり、日本の大腸がん診療ガイドライン2022年版も見直してみたが確かに術前にCTに加えてMRIを撮影すべきという直接的な記載はない。というかCTとMRIをセットで撮るのが当たり前すぎてCQにも上がらないくらいの様子である。なるほど確かに、と思いつつ、実際MRIを追加することがどのくらい治療方針の変更に反映されるのかが気になり本論文を読んでみた。


本研究はオランダ、ベルギー、ノルウェー、イタリアの計14の施設において、CTで局所治療の候補となった大腸がん肝転移患者を対象に行われた。局所治療は切除・焼灼療法・およびその両方の併用を含む。CTで治癒切除の対象とならない患者は除外された。
患者は全て腹部造影CTの撮影後、肝造影MRIを撮影された。CTは少なくとも門脈相を含み、MRIは少なくともT2, DWI, ガドリニウム造影T1を含んだ。
局所治療はCT撮影後10週以内に施行され、MRIはCT撮影後4週以内に施行された。画像はCT結果をmaskされていない放射線科医によって日常診療の中で読影された。局所治療方針は集学的治療チームにより、まずCTのみで病変の局在・数・切除(or 焼灼)範囲について検討され、次にMRIも追加した状態で同チームによって検討された。Primary outcomeについては独立したexpert panelでも評価された。

Primary outcomeはMRIによる局所治療計画の変更(治療範囲の拡大/縮小、切除⇔焼灼の変更、局所治療中止など)。secondary outcomeは治療計画と比べた実際の治療の変更、術中造影エコーの使用、follow up期間の肝転移再発。
治療変更症例の期待値を10% (95%CI 7-14%)と設定。

結果

2019年12月~2021年7月の間に325例がスクリーニングされ、内298例がintention-to-image解析(登録患者全て)に組み入れられ、247例がimaging-per-protocol解析(protocol逸脱なく治療を施行した症例)に組み入れられた。

患者背景は男性約60%, 原発巣はS状結腸が約30%で最多。初発の同時性肝転移が84%, 再発例が13%。40%が化学療法施行。CT→MRIの期間中央値は2週, CT→治療の期間は約6週であった。CTでの最大病変のサイズは中央値22 mm, CTでの転移個数は中央値2個であった。

Primary outcomeは298例中92例 (31%)で観察された。40例 (13%)が範囲拡大、11例(4%)が範囲縮小、34例(11%)では局所治療中止され、理由として内8例がMRIで良性と判断、15例が導入化学療法が必要と判断された。
独立したexpert panelでは101例 (34%)が治療計画変更と判断された。集学的チームとexpert panelの比較では66例 (22%)が判断一致, 35例 (12%)がexpert panel変更で集学的チーム変更なし, その逆は26例 (9%)であった。

多変量解析で治療変更に関与する因子を調査したところ、年齢、BMI、PS、原発巣局在、過去の大腸がん手術、同時性肝転移、大腸がん診断から肝転移の診断までが12か月以内であること、転移巣の最大径、個数、分布などが有意に関連する因子であった。

MRIによる治療変更に関連する患者背景の単変量解析結果

肝造影MRIに基づいて局所治療計画を変更する確率予測とその分布を作成したが、治療変更可能性5%未満の患者はごく少数だけであり、本予測モデルは日常診療には役立たないと判断した。

post-hocで行った費用対効果の樹形図では造影MRIを撮影した方が一人当たり430ユーロの節約になるという結果であった。

費用対効果試算結果

結果的にはMRI撮影で31%もの症例の治療方針が変わり、やはりMRI撮影はほぼ必須ということが分かった研究であった。特に肝切除は非常に侵襲の大きい手術であり、無駄な治療は避けるべきである。MRI撮影が必要となる症例を事前に判別するための予測モデルは、本研究ではうまく構築できなかったようだが、最後の費用対効果の試算を考慮しても全例ルーチン撮影ということで文句ないだろう。

本研究の患者背景は最大径中央値22mm, 肝転移個数中央値2個と、それほど多くない(いわば臨床的には綺麗な)集団である。私の実際の臨床経験ではもっと肝転移個数が多い症例をよく見るので、そのような症例やconversion症例ではなおさらMRIは重要な役割を担っているものと考えられる。

本文内にはもっと結果が載っていて、背景が脂肪肝だった場合はどうかとか色々研究されているが、まとめるのが面倒くさかったのでばっさりカットしてます。ご興味のある方は原著をどうぞ……。


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