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舞台『大阪環状線 大正駅編 〜愛のエイサープロポーズ大作戦〜』

大阪松竹座にて上演されていた『舞台 大阪環状線 大正駅編 〜愛のエイサープロポーズ大作戦〜』がとてもよかった。

以下、ご覧になっていない方には伝わらない話とネタバレが満載ですので、ご了承ください。

地元・大正で吹奏楽部の顧問を務めている高校教師の亮太(今江大地さん)は東京で女優として活躍する幼なじみの美咲(阿部純子さん)に好意を寄せている。美咲はIT社長の徳俵誠司(間慎太郎さん)と婚約を発表したばかりのタイミングで、亮太に「話があるから帰ってきてほしい」と呼び戻され故郷に帰ってくるのだが、その話というのが廃部寸前の吹奏楽部のコンサートに出演してもらいたいという内容で、美咲は憤慨してしまう。もちろん本当は他に伝えなければいけないことがあるのに、なかなか言い出せない亮太。果たして亮太は美咲に思いを伝えることができるのか?

物語は亮太が美咲に思いを伝えるまでの過程と吹奏楽部の部員のそれぞれの悩み、そして部の存続を目指しクリスマスコンサートを成功させようと奮闘する姿が描かれる。
大正という地域に沖縄文化が深く根付いていることもあり、劇中では沖縄の民族舞踊・エイサーがいたるところで登場する。
誰にでも親しみやすいキャラクターと物語、そしてコメディの要素とミュージカルの要素をふんだんに織り込みながら、舞台は進んでいく。
この物語でとりわけ私が好きなのは、「言葉では伝えられない思いを音楽に乗せて伝える」場面が多いところだ。物語の終盤、吹奏楽部のクリスマスコンサートの冒頭部分を亮太が自ら演奏し美咲に思いを伝えるという場面がある。
その後にちゃんと言葉にして伝える場面も描かれているのだが、ここぞというタイミングで亮太は自身の吹くトランペットの音に思いを乗せる。
吹奏楽部の話でもあるので楽器を演奏する場面がたくさん出てくるし、最後にはクリスマスコンサートを実際に行うのだが、この楽器演奏が吹き替えなしで演者の生音で行われていることにまず驚いてしまった。舞台はナマモノなので、音の響きは毎公演違うものになっていたと思うし、演者が生で演奏するという緊張感が物語の説得力をより強いものにしていたと思う。素晴らしかった。
「言葉にしたらこぼれてしまう思いを、音楽やダンスのような表現であれば伝えることができる」というメッセージを一貫して感じた。もちろん、劇中には「言葉にしないと相手には伝わらない」というような台詞も何回か登場するし、それも一つの真理だ。でも言葉にならないこそ、訳もなく走り出してしまったり踊り出してしまったり歌が口からこぼれ落ちたりする。吹奏楽部員の空晴(小柴陸さん)の告白が成功して二人で社交ダンスを踊り出すシーンや冒頭の『クリスマスイブ(きっと君は来ない……)』にそれが溢れている。
空晴が吹くトランペットの音が震えているのは、そこに秀仁(伊藤真央さん)がいるからだ。音はその一瞬の気持ちの揺らぎすら素直に映してしまう。
言葉にできない思いや言葉にするとこぼれ落ちてしまう思いはだからこそ他の表現を探すし、本来ならば何の意味もない音や体の動きに意味を持たせることができる。
音楽やダンスや舞台やその他のエンターテイメントの存在意義とはそういうことなのではないか。
再三繰り返しているが吹奏楽部のクリスマスコンサートの場面がこの物語のクライマックスであり、とても素晴らしいものだった。単純に演奏とエイサーが素晴らしいというのもあるが、物語を追ってきた観客にはこのクリスマスコンサートの意味が何重にも響いてきた。

コロナ禍の今、エンターテイメントの必要性が問われる時代だが、エンターテイメントの存在意義とはそういうことだよなと改めて思った。いつも始まりはただ一つの思いでいいのだ。そういうメッセージだと私は受け取った。

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