「だから人間は滅びない」(天童荒太)


その書名にドキッとして思わず手に取った。天童荒太氏と言えば作家として有名だが、これは新書の本だ。いろんな期待を持って読み始めると、衝撃的な書名とは裏腹な、暖かな人たちの厳しくも優しい取り組みが紹介されていた。

この本は、社会起業家と言われる社会問題に目を向けた取り組みを行っている人たちと天童氏との対談で構成されている。「災害」「農業」「貧困」「子育て」などに関わる取り組みが紹介されており、どれもとても興味深く読んだ。この本を通してそれらを知れたことは、私にとってまた新しい財産となった。


紹介されている取り組み

「チャンス•フォー•チルドレン(CFC)」
経済的な事情を抱える家庭の子どもたちに、学校外教育の機会を提供するバウチャー(クーポン)を配布する活動。

「女川向学館」
震災後の宮城県女川町で放課後学校を開校。

「農家こせがれネットワーク」
都会で働く農家出身のこせがれを実家に戻す活動。

「HandBike Japan」
日本で唯一の手で漕ぐ三輪自転車「ハンドバイク」専門ブランド。 

「ドゥーラ協会」
出産直後の女性をケアするプロフェッショナル集団。

「アッシュ•ペー•フランス」
国内で約90店舗を展開する服飾•インテリアブランド。

「NEWSED」「地域作業所hana」
障害者通所施設を生産拠点とする、廃材を利用したデザイン雑貨のブランド。 

「四賀クラインガルテン」
滞在型市民農園「クラインガルテン」「田舎の親戚制度」の運営。

「すぎとSOHOクラブ」「NPO埼玉ネット」
同時に被災することのない離れた地域同士が、連携して災害への取り組みを行う。

 

私の稚拙な感想

天童氏の作品は恥ずかしながら今まで読んだことがない。初めて読んだのが、彼のイレギュラーな仕事ともいえる本書だった。彼が作品を書く際の大きなテーマは「人はなぜ人を傷つけてしまうのか」であり、その対岸にある「人はなぜ人を救おうとするのか」と述べている。そのテーマを追い求める中で、今回の対談連載となったようだ。

天童氏は「これからの世の中を支えていくのは、人間が本能として持つ「善意」という資源ではないのか?」ということを述べている。本書で紹介されている人たちは皆、人が好きで人に喜んでもらうことを報酬だと感じている。貨幣経済の論理では到底持続できないような活動を行っている彼ら、しかしそこには「喜び」という報酬があると言う。

天童氏からは「私たちはあまりにも貨幣経済に毒されているのでは?」という問いもあった。何でもお金に換算して考えてしまう。効率と利益の追求。そこからこぼれ落ちる人たちや物事を見ないようにする社会。人間の価値すらお金で換算されてしまう。それで人間は幸福なのか?

「お金がないと食べていけないし、やりたいこともできなくて幸せじゃない」真実そういう社会でもある。しかしそういう社会に疑問を感じる人が増えているのでは?社会起業家が増えていること、大企業で働くことへの疑問、生きることそのものの価値観の転換。その大きな流れは、東日本大震災が起こったことで加速度的に進んでいる気がする。

誰もが彼らのようにリーダーシップをとり、何かを始めることは難しいかも知れない。しかし彼らのような問題意識を持つ人が増えることが、社会を変える大きな力になるはずだ。そのためにこの本を、是非多くの人に読んでもらいたい。

私の文章に少しでも「面白さ」「興味深さ」を感じていただけたら嬉しいです。