刑務所わず(堀江貴文)

堀江氏にまつわる騒動や刑務所に収監されていたことはテレビ報道で知っていたが、氏にあんまり良い印象を持っていなかったので、その後の彼がどうしているのか知ろうとも思わなかった。そしたら先日堀江氏が「しくじり先生」に出演しているをたまたま見た。内容をあんまりよく覚えていないが、さすがに話が上手だし、未知の世界である刑務所内の話はとても興味深かった。そして今度は図書館でこの本に出会う。

「しくじり先生」のことを思い出し、半ば興味本位で借りてみた。彼一流の軽いタッチで書かれていて、暗くなりがちな内容のはずなのに読みやすい。社会問題として考えさせられるような内容もあり、なかなか侮れない一冊だった。


獄中でも発信しつづける強者

この作品は「刑務所なう」「刑務所なう2」に続くシリーズ完結編となる。

堀江氏はできれば初めから通して読んで欲しいと書いていた。私も他の2冊を読むべきなのだが、「刑務所わず」での感慨が新たなうちに記事にしたかった。皆様は「刑務所なう」からどうそ。

私は知らなかったが、堀江氏は収監されている間も、スタッフへの手紙を通じてメルマガ運営、雑誌連載をしていたらしい。「堀江氏の発信することへの意欲」と「世の中が堀江氏を求めていること」にビックリ。今後は彼の言動に注目してみようかなと思った。


刑務所の人間関係

今まで刑務所が出てくる映画や書籍に、あまり接したことがなかった。女性刑務官が書いた本を読んだことはあるが、「とにかくあらゆる人間関係が大変」という印象。堀江氏も「結局どんな社会でも人間関係が大事」と書いていた。

この本は西アナブルズ氏による漫画もついているので、堀江氏が刑務所で出会った人々をよりイメージしやすい。先輩に気を使ったり、理不尽な思いをしたり、いろいろ大変なことがあっただろうが、そこをサラリと書いている。刑務所故の特殊性はあるとしても、普通の社会の人間関係と苦労のツボは変わらないかも知れない。


衛生係という仕事

堀江氏が配属された工場は、高齢者や障害者が集められたところだった。氏に与えられてたのは、彼らの介護やサポートをする「衛生係」の仕事。この配属、役割が氏の刑務所内での経験をさらに興味深いものにしている。

介護の仕事は刑務所の外でも、精神的にも肉体的にも大変なのに待遇は良くないという、なんとも理不尽な状況。刑務所内では報酬の部分は関係ないとしても、キツい仕事には変わりない。それを法律を犯した故の懲罰とはいえ、日常の仕事としてやっていたわけだ。氏を見る目がちょっと変わる。


幸せの閾値

この本は刑務所で過ごした最後の時期を書いたものなので、外との違いに戸惑う氏の姿は書かれていない。むしろ刑務所生活に馴染みすぎた自分に、危機感を覚えたりする描写がある。自由が制限された環境ではやはり、価値観の変革が起こるようだ。

特に甘党でなかったのに、楽しみが食事だけである場所では「お菓子」は重要な幸福の要素となる。ちなみに食事は、ご飯の質以外は意外に美味しいらしい。

長野の刑務所に収監されていたのもあり、冬の寒さは堪えたようだ。それも支給される衣類や毛布、暖房の有無でしのぎやすくなることに幸せを覚える堀江氏。寒さって一番耐えられんかも…。

最も大変そうだったのが、毎日入浴できないこと。私は入浴行為が好きではないが(早く済ませたい!)、毎日お風呂に入れないのは嫌かも…。特に頭が痒くなるらしく、そうなるとイライラして精神的に堪えそうだ。…毎日入浴できる有り難みを噛み締めよう。


懲役と言う懲罰の妥当性

堀江氏の配属された工場の同僚?たちは、障害や高齢で外に出ても自立した生活が難しそうな人ばかり。自立が難しいと再犯に繋がりやすい。むしろ「刑務所に入るために罪を犯す」ような事態を招いてしまう。堀江氏は、「彼らには司法の裁きではなく福祉が必要だ」と言っていた。

また薬物所持や性犯罪については、堀江氏も「こいつら懲りてねぇ…」と言うように、ただ服役させるだけでは再犯は防げないと思われる。彼らについても「服役ではなく更生施設への入所」が必要なのだが、受け皿となる場所が限られているのが現状らしい。


出所後の差別

服役の前歴がある人に対する偏見と差別、これが彼らを再犯に走らせる大きな要因だと堀江氏は言う。長野刑務所が初犯の人だけが収監される場所であることもあり、堀江氏が刑務所内で出会った人の多くは「普通の人」だったとのこと。犯罪を犯す犯さないの差は、きっとそれほど大きなものではないのだ。いろいろの状況が変われば、自分もあちら側の人間になりうるとも言える。

堀江氏は元受刑者について、しきりに「差別の目で見ないでほしい」と言っていた。堀江氏自身は出所後も仕事があり仲間が待っていた特殊な例だが、他の受刑者はそうでない人が多い。そんな彼らを、さらに追い詰めるようなことはしないで欲しいと言うことだ。LGBTの話もそうだが、差別は知らないことから生まれる。この本が多くの人に読まれることで、元受刑者への差別が少しでも減ることを願う。


まとめ

最後に差別について書いたが、どんな差別も多くの人が被差別者の実態を知ることでなくすことができると思う。しかし…1人の人が経験できることには限界がある。それを補ってくれるのが、書物や映像作品である。

それでも世の中で起きている全てのこと、全ての人の存在を知ることはできない。こうなってくると、差別撤廃のために必要なのは「自分と異なる人、知らない現象に対して許容する心、相手の気持ちに対する想像力」ではないだろうか。自分の価値観、経験から得た知識が全てだと思わず、何事にも謙虚な気持ちで接する。…私に1番欠けているかもしれない姿勢だな。最後にそんなことを思った。

私の文章に少しでも「面白さ」「興味深さ」を感じていただけたら嬉しいです。