ベランダで、君と日向ぼっこをしよう
実家のマンションは南西向きの7階にあって、丘の上に建っている。春のこの時期は、部屋に光が入り始めるのは15時すぎくらいだけど、ベランダに出ると12時ごろから日向ぼっこができる。
この家のベランダは、洗濯物を干すスペース、物置スペースの他に、両手で持てる父の盆栽が20鉢くらいと、2人がけの小さな木のベンチが置けるくらいには広い。
昨日は夜ふかしをしてしまったから、朝うまく起きれなくて午前中はパジャマのままうだうだした。
見兼ねた母が、「天気もいいんだし外にでも出たら?」と言うので、ようやく顔を洗って身なりを整えて、ぶどうジュースが入ったガラスのコップとスマートフォン、本を一冊持ってベランダの木のベンチに座る。
とりあえず一息、ふわっとその場にいるだけになって、目で空を見て、顔にかかる髪で風を感じて、五部袖の白いブラウスから飛び出た両腕で太陽の温度を感じた。どうも実家に帰ってきてから、五感をこれでもかと使っている気がする。
今日は気温が25度を超えているらしい。ぽっこりなんて可愛らしい感じじゃなく、どーんっと突き出たお腹に日の光が直接当たって、「あったかいね」と話しかけた。
春の風は強くて、木が揺れて、洗濯物が揺れて、開け放ったままの窓からレースカーテンがベランダ側にやってきて揺れた。木の影も揺れたし、私の透けた白いひらひらのブラウスの裾も揺れた。
本当に、心の底から風が気持ち良い。それだけでこんなに幸せだなあと思うのに、あれが欲しいこれが欲しいと幸せを求めて欲が出てしまうのは何でなんだろう。
日焼け止めを塗っていない両腕は、強い日差しでどんどんあったまっていく。片腕を触ってみると、感じてる温度に反して案外ひんやりしていて、「冷たくてふにふにしてて気持ちいい」とよく触る夫の声が蘇る。
こんな風に、風を感じて日向ぼっこができる時間が毎日持てたら。3人で暮らす家選びのことに思いは巡る。やっぱり家は風が通って日があたるリビングがないと。
母がベンチで座る私の足元にしゃがんで、
「ママは日向ぼっこしてるんだって、ばあばは掃除機をかけるよ」と君に向かって本当に愛おしそうに話かける。それを見て、たまらなくなる私。
母は、里帰りをしてから私のお腹に話しかける時に、自分のことを “ばあば” と呼ぶようになった。
早く君を “ばあば” にも会わせたいな。
ぶどうジュースが入ったコップは空になって、グラスに注ぐ光の影が木のベンチに透けた。太陽がスマホの画面に反射して、光の筋がチラチラする。持ってきた本のページにも薄っすらと光と影のコントラストができて、最高の日向ぼっこだったよ。
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