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冷凍金魚

今日は少し怖くて大切な話をしよう。

幼い頃、私は金魚を四角い水槽で飼っていた。出目金じゃなくて、普通のお魚タイプのオレンジ色した金魚は、餌をあげればバクバクと食べて、いつもフンをくっつけて泳いでいた。
3年くらいでどんどん大きくなって、でっぷりと貫禄がある泳ぎをしていた。

生き物を飼うのには、責任がいる。
命を扱うことになるのだから、当然だ。

でも、小学校4年生くらいだったかな、私は金魚を生きているものというよりも、泳いでいる物体として見ていたかもしれない。

いつも通り学校から帰ってきてしばらくして、水槽が空っぽになっていることに気づく。
「あれ?金魚、どこいっちゃったんだろう・・」
水槽の周りを見ても見当たらない。1匹で飼っていたから共食いされたわけでもない。ブクブクと空気を放つ機械と偽物の海藻が揺れている水槽を私は何度も見た。
昔、ちっちゃい金魚が、自分で跳ねて水槽の外に出て死んでしまったことがあるから、10分置きくらいに水槽の周りを探しては「いない・・」と不安になるばかり。

「お母さん、金魚がいない」

2時間後くらいに帰ってきた母に、申し訳なさそうに私は言った。驚いた母と一緒に探したけれど、やっぱりいなくて、夜までずっとそわそわしていた。

「お父さん、金魚がいない」

夕食後、父が帰ってきてそう言ったら、「ここにいるよ」と私を台所に連れて行って、冷凍庫の扉を開けた。丁寧にラップに包まれた金魚が冷凍庫でシャキッと凍っていた。

「朝起きたら水槽の外に出て死んでたから、凍らせておいた」

昨日まで餌をあげてすぐそこで生きていたそれが、食べ物と一緒に冷凍庫に凍ってるのはかなり怖かった。死んだものがそこにいる。普段自分が食べている鯖や豚肉が一緒に凍っている、身近な冷凍庫の中に。

「冷凍庫に死んだ金魚がいた!お父さんが凍らせてた!」

って母と一緒にちょっとした騒ぎになった。

正直、死体が冷凍庫のなかにあるようなホラー体験で、気持ち悪いなと思ってしまった。私はこの時、金魚は「生き物」であるということをちゃんと理解したし、冷凍庫で凍っている鯖や鶏肉も、食べ物だけど「生き物」なんだと理解した。

父は金魚をちゃんと「生き物」として見ていたんだと思う。私がお墓をつくってあげたいだろうと腐らないように洗って保管しておいてくれていたらしい。
次の日は休日で、父と一緒に冷凍金魚を土に埋めにいった。

命あるものを育てるって、責任が伴う大変なことだね。



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