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群青色の海とアベリアの花が似合うひと--<3>詩人のミューズ田村和子“あっけらかん”の美しさ

小説や絵本などの物語の中で描かれている女性像をとおして「美しさ」について語る連載。「女と本のあるふうけい」を運営する秦れんなさんが、こんな女性って、いいよね!と感じる瞬間を、ブックキュレーションをしながら紹介します。

最終回となる今回は、晩年でも挑戦する姿勢と、著者と和子さんの別れについて。

* * *

◆『いちべついらい 田村和子さんのこと』
著者 橋口幸子

70歳のハープ

心のリハビリ期間とも思える、晩年の著者とのふたり暮らしの時期に、和子さんはハープを習い始めます。

「ちいさな肩で支え、抱くようにしてハープを弾いた。指の力が衰えていたから大きな音は出なかったが、ゆっくりでいいんだといいながら、熱心に練習をしていた。」

稲村ケ崎の家で、たどたどしくハープを奏でる小さな和子さんのうしろ姿、カーテンに透けるやわらかな光が差し込んでできる陽だまり、風がはこぶかすかな潮のにおい、それらを見たことなんかないのに、まるでわたしの記憶のように、その光景がありありと目に浮かんで、涙が出そうになります。

わたしは70歳でも、挑戦し続けることができるだろうか。どんどん衰え、弱くしぼんでいく体で、明日は今日よりもっとよくなる、と思うことができるだろうか。

和子さんは体力が衰えていって二年ほどしかハープを続けることができなかったそうですが、休み休み、何時間も練習を続けていたといいます。
新しいことを学び、発見し続ける喜びを失わない人はいつまでも輝き続けます。ハープを奏でる和子さんの横顔はきっと美しい娘のように、きらきらしていたことでしょう。

群青色の海とアベリアの花が似合うひと

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