いつかの日記(5) (コーヒー、違和感の記述、スペース)

一言二言日記つづき。

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声が通らない。飲食店で注文するのが苦手である。聞き返されつつも喫茶店でアイスコーヒーを頼んだつもりが、アイスコーヒーとホットコーヒーの両方が運ばれてきた。アイスとホットのハーフサイズ(といってもそれなりの量)のセット、というメニューがあって、それを頼んだと思われたらしい。全然構わないが、そんな温冷交代浴みたいなメニューあるんだねとは思った。最初に出してくれた水とあわせて三種の飲料をばらばら飲んでいたら何が何だか忙しく、しばらくして、常に意識のどこかに浸水した胃がある状態となった。コーヒーのハーフアンドハーフ、美味しかったが楽しみ方を掴みきれず。

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書き手が何かに強く心動かされハッキリとときめいた事柄と同じかそれ以上に、微かな不快感や嫌悪感を覚えた事柄にふと言及した箇所が、いつまでも印象に残ることがある。エッセイなどを読んだときの話です。

個人のネガティブな感覚、それも火にかけ始めたフライパンからじんわりと上がってくる最初の湯気のようにささやかな「兆し」程度のものを捉えた描写に出会うと、その人の感受性のタモの網目の形を見るようだ、と思う。
どこへ行って何をして何を見た、といったことは皆、その人を通過していったものにすぎない。通過の後ざらりと残った薄い違和感や感情の澱が、しばしば控えめに、でも見過ごすことはできないものとして確信を宿した言葉で記されているのを読むとき、その人の極めて個人的なスペースを垣間見た気持ちになる。

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「スペース」を国語辞典で引いたら(英単語spaceの意味ってことだけど。国語辞典は三省堂のスマホアプリを使っている)、①一定の平面内のあいている部分。余地。余白。②紙面。誌面。③間隔。字間。行間。④宇宙。とあって心が弾む。
スペース、と呟くだけでいとも簡単に「何もないところにあるもの」を指さすことができる。「平面」が感じさせる無限性に触れることができる。目の前の無と宇宙の彼方を繋ぐ抜け道のような言葉。

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昔からあらゆることを日課にしようとして続かないでいるが、何回も何回も、なんとなく自ら途切れさせておいて、思い出したようにまたやりたくなることは同じ。なんでもない何かを書くこと。何度も同じ場所に戻ってくるのだったらそれはもう、ずっと続いているってことでいいのでは?と思ったら急に気が楽になり、こんな感じで、今書いている。気が楽になった、ってどこに向けて何を気にしていたのか。自分に細かくツッコミを入れながら一つ一つ自意識を解体していくしかない。書くことはセルフ漫才、セルフ解体ショー。客席の自分に向けた自作自演のshowを、窓を少し開けたままやる、みたいなことが必要。

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つづく。

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