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双子が紡ぐ土着的なサウンドが繰り出す癒しの世界: Ibeyi 『Spell 31』

ロンドンで活動するアフロ・キューバンのフランス人双子、Lisa-Kaindé(リサ・カインデ)とNaomi Diaz(ナオミ・ディアス)によるIbeyi(イベイ)の3rdアルバムがリリースされた。
Pa Salieu、Jorja Smith、BERWYN、Dave Okumu、Ben Reed、Owen Pallettをフィーチャーし、1st,2nd同様XL Recordings創始者のRichard Russellが全面プロデュースを務めた。
本作は「死者の書」からインスパイアを受けたもので、ルーツであるヨルバへの帰属意識とスピリチュアリティ溢れる彼女たちの世界観は、更に進化を遂げている。

本作のオープニングを飾る「Sangoma」はZulu語で信仰療法を行う者や占い師といった意味だが、この双子が「We'll be like Sangoma」と繰り返すことへの納得感は、アルバムを聴き進めるごとに深まっていく。

Pa SalieuをフィーチャーしたM3「Made of Gold」では、1stアルバム『Ibeyi』のリード曲「Oya」や2ndアルバム『Ash』の1曲目「I Carried This for Years」の冒頭でも使われていたような、霊的なブルガリアン・ヴォイスのサンプルが使われている。そこにPa Salieuの力強い主張とIbeyiのスリンキーな歌声が混ざり合う。
そしてMy Spell made of Gold(私の呪文は金でできている)と繰り返される。私たち誰しもが持つ、無意識下の土着思想が騒ぎ出すような楽曲だ。
Lisa Kaindéはこう語る。

私たちがスタジオで制作した最初の曲は、「Made of Gold」でした。バッキング・ボーカルのレイヤーを作っているときに、私たちの祖先とコンタクトを取っているような感覚がありました。私たちがレコーディングしているものは、ブルハス(注1)や私たちの祖先に古代の知識を求めているのです。「Made of Gold」は、私たちの祖先の知識、過去の真実、古代の力につながるものです。線は切れないし、失われることもない。これらの呪文に守られた私たちの3rdアルバムでは、その力との再接続を伝え、その魔法を新しい音楽に注ぎ込むことになります。
(注1) Brujas: スペイン語で魔女の意
https://www.indienative.com/2021/11/made-of-gold


M4「Sister 2 Sister」では、双子の個人的な違いや深い絆を探求している。パーカッション、シンセベース、「Ibeyi!」というチャントがメインのミニマムな構成からIbeyi流R&Bを感じる。MVは、Charli XCXやRex Orange Countyなども手がけるフランスのColin Solal Cardoが監督を務めた。


私は完璧である必要は無いと歌うM5「Creature(Perfect)」、アコースティックなバラードのM6「Tears Are Our Medicine」、スペイン語を交えて双子の神聖さを讃えるM7「Foreign Country」を経て、JorjaをフィーチャーしたM8「Lavender & Red Roses」に向かう。

この曲は悩める人を愛するときに誰もが経験する気持ちを歌ったものであり、愛する人が傷つき迷う姿を目の当たりにすることの痛みについて語られている。
その人に手を差し伸べ、強く抱きしめ、ラベンダーや赤いバラでその悩みを洗い流してあげたいと思うようになるが、実際は救うことはできない。もしその人があなたを暗闇に引きずり込むなら、あなたは自分を守り、その人は自分自身で強さと光を見つけなければならない。
ヨルバ族の伝統的な打楽器Bata Drumに乗せて、切なく強いメッセージが3人の美しい歌声で紡がれていく。
MVでは、IbeyiとJorjaはギリシア神話に登場する三姉妹「運命の三女神」を演じている。ギリシア神話では、人間の運命は、この三姉妹—モイラたちが割り当てる糸の長さで考えられた。まず「運命の糸」をみずからの糸巻き棒から紡ぐのがクロートーで、その長さを計るのがラケシスで、最後にこの割り当てられた糸を、三番目のアトロポスが切る。このようにして人間の寿命は決まるのである。

Black FlagのRise AboveをサンプリングしたM9「Rise Above」ではBERWYNがジョージフロイドの名前を挙げ、エネルギッシュに社会に拳を突き立てている。

ルーツ音楽と現代性の融合のスムースさが1st, 2nd, そして本作と次第に洗練されているように感じる。民族音楽だけでなくFrank Ocean, James Blakeにも影響を受けているというのも頷ける。
しかし初期の作品に見られるような、調和のとれていない不気味さ、不安定さも魅力のひとつだと思うので是非過去の作品も聴いてほしい。





参考


https://pointed.jp/2022/02/14/sister-2-sister/

http://www.ele-king.net/review/album/006032/


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