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アーマードコア6の脚本が良すぎて画面の前で拍手した話をしていいですか

はじめに

 私はヌルゲーマーである。名前はまだ(売れてい)ない。しかしゲームが好きで、とりわけファンタジーやサイエンスフィクションを好む。つまり、物語を読みたくてゲームをやっている。

 何を言っているんだ、物語を読みたかったら映画を見たり小説を読んだ方が早いじゃないか、そう思う方も多いと思う。わかる。しかし、しかしだ、僕は日課の整体でアーマード・コアを全シリーズプレイしている歴戦のレイヴンの整体師さんとこんな話をした。

僕「ゲームでしか得られない物語体験ってありますよね」
整体師「ある! 苦労して、やっとクリアしたときにその体験と物語がシンクロして、気が付いたらその世界観にのめり込んでいるみたいな、そんな体験はゲームでしかできない」
僕「わかりすぎる」

 そうなのだ。ゲームは長い時間をかけてプレイし、その中で物語に触れる。だからこそ、物語単品であれば納得できないような超展開も100時間のプレイ時間が後押しして納得できたりする(ループはその経過時間込みでプレイヤーを納得させる手法のわかりやすい例だ)。だから僕はゲームを通して物語を体験するのが好きなのである。

 これからアーマード・コア6のストーリーがあまりに良かった話をするが、それは3D酔いに悩まされるヌルゲーマーが攻略サイトのおすすめアセンブルなどをフル活用しながら、なんとか高難易度ミッションをクリアした体験があるからこそなのである。きっと歴戦のレイヴンの方々には怒られるだろう、しかし、それでも僕のような雑魚傭兵がアーマード・コア6のストーリーについて語ることを許してほしい。

以降、ネタバレを含む。


ストーリー

 アーマード・コア6の登場人物たちはすべて立ち姿はなく音声だけだ。その上、ミッションが提示されそれをこなす形でストーリーが進むため、気に入ったキャラに雑談を持ちかけることもできず、あくまで仕事上の会話をする機会しかない。にもかかわらず、主要人物はおろかサブキャラすら愛されているのはちょっと信じられない。

 脚本(台詞回し)がとんでもなく上手いのだ。台詞一つ一つが、分厚い関係社外秘の設定資料集の中に語られた詳細なバックボーンに基づいているとしか思えない、生きた登場人物の発したそれになっている。誰かひとり、ハンドラ・ウォルターでもエアでもいい、一人気に入れば、あとはそこから蜘蛛の糸のように広がる関係性で、サブキャラ含めた全員のことに興味を持てる、そう設計されている。

 そして、登場人物たちのふるまいに全くストレスがない。登場人物たちは、ある選択を選んだなら、その選択の障害となるのが誰であろうと排除する。ためらいなくトロッコのレバーを引く。これは少年漫画にはならないだろう。少年漫画の主人公は少年に夢を与えるため、トロッコ問題でレバーを引くことはない。全員を救うためにトロッコ自体に戦いを挑む。しかし僕は大人になった。もう、一切の犠牲なしに選択をすることはできないことを知っている。アーマード・コア6のストーリーは、その残酷な現実の中で、それでも逃げずに選択をすることが人間の生きざまだと謡っている。

 プレイヤーはどの選択をしても、大切な何かと対峙し、失う。時には世界中の人類種すらも失う。しかし、だからこそ始まるものがある。

 また、過去のアーマード・コアシリーズをやっていない僕では理解しきれていない部分ではあるが、3週目のラストルートは、プレイヤー同士のネット対戦や、ゲームである以上仕方がない「何度もコンテニューし、やり直す」ことにすら理屈をつけられるような導線をひいている(※1)。ここまでの執拗な整合は狂気ともいえるこだわりだと思うが、それこそがアーマード・コアがネットのテンプレートにまでなった理由の一端なのだろう。あっぱれである。

キャラクター

エア

 やはり「エア」である。僕がアーマード・コア6に夢中になれたきっかけはエアとの出会いに他ならない。正直 Chapter.1 の間は、雇い主の「ハンドラ・ウォルター」は確かに好人物ではあれど、硬派すぎてついていけないかも、と思っていた。しかし、苦心して Chapter.1 のラストにたどり着いたときに出会った、エアがすべてを解決した。

 「エア」は波形である。コーラルという最高効率のエネルギー媒体の中に出現した、一つの声である。ただそれだけだ。立ち絵どころか、そもそも存在するかも怪しい。しかし、その彼女(便宜的に彼女と呼ぶ)の声とともにミッションを繰り返していくうちに、戦闘員でない故に戦いの一つ一つに心を痛めながらも、献身的にサポートをしてくれる彼女に対してとてつもない愛着がわいてしまう。そんな気持ちになったのは僕だけではないだろう。

 彼女と対峙する「レイヴンの火」ルートでは、雇い主であり主人公の人生を決めてくれたハンドラ・ウォルターとその友人達の遺志を継ぐという明確な理由があったため、後ろめたさはなかったものの、明らかに声のトーンが変わり憂鬱さを隠そうともしない彼女の失望の声には心をかき乱された。せめて明るく皮肉を言って通信を切ってほしかった。最後にラスボスとして立ちふさがるのは本当につらかったが、反面きっちり1対1の戦いを挑んでくれる彼女がさらに好きになってしまった。

 彼女の意思に従う「ルビコンの解放者」ルートでは、受け継がれていった遺志をないがしろにする辛さはあるものの、彼女を味方にすることが嬉しくて仕方がなかった。彼女はただの声である。現実で「頭の中に聞こえる声に従いました」と言ったらただのヤバい人だ、思いっきりこのゲームに没入していた僕はそんな現実との置き換えすら真面目に考えた。実際、作中でもウォルターが「幻聴」と呼ぶ彼女は本当に存在するのか? すべては改造手術で脳を焼かれた主人公の妄想では? でも、それでいいと思わせるほどの存在に彼女はなっていた。

 幸い、彼女は主人公の妄想ではなく他人も観測可能な波形であり、ウォルターやオール・マインドにしっかりと知覚される。でもそれは最後の最後だ、僕は最後の最後までフロムの脚本に心を乱されていた! ……ウォルターが最後に「友人を見つけたのか」とエアに従った主人公への銃口を下げるシーン、友人の遺志を背負ってここまできたウォルターだからこそ、主人公を理解することができたんだと思う。鳥肌がすごい。

 そんな彼女は3周目では冗談の声真似まで披露する。

 オールマインドの真似をするお茶目なエア - YouTube

 いやお茶目って……。エアって波形ですけど……。

 三周目は一、二周目に比べ(過去作との対比の文脈がわからないところもあり)難解で若干置いて行かれていたのだが、このエアのふるまいには口角が天井ぐらいまで上がった。これはしかもデートの誘いである(シミュレーションプログラムで彼女と対峙する。つまりAPEXの誘いみたいなものだ、多分)。重厚で硬派なシナリオだからこそ、このような遊び心一つが印象に残ってしまう。気持ち悪いオタクと言ってもらって構わないが、上記動画のコメント欄をみるとそれは僕だけではない。声だけで魅力的なキャラは「見える(※2)」、フロムはそれを分かっている。

コーラル

 コーラルがキャラかと言われると微妙なのだが、意識の集合体と言えば人類補完計画の目指すところだったり、宇宙人の定番だったりするので(ゴジラ2000ミレニアムの敵性宇宙人もある種コーラルでしたね)触れておきたい。この、意志を持ち、人の人生を記憶し、さらに情報伝達媒体としての性質も持つコーラルは本作の物語の肝なのだが、これはまた素晴らしい設定を作り上げたものだと思う。

 ただのエネルギー(よくコーラルは石油と言われている)にしては属性過多すぎるのだけれど、よくよく考えれば、現実のレアメタルも同じような状態になっている。所詮現在のコンピュータは物理的な電荷のON/OFF(0と1)の情報の集合体でしかないのにもかかわらず、気が付いたら最近は会話が可能になり、なんなら声を取り込んで本人の代わりに youtube 配信まで始めている。コーラルの持つ特性を現実のレアメタル(CPU)も持っているのだ。

 最近ではAI絵師が話題になったり、イーロン・マスクという国家ではない「企業」の主が、脳内に電極を埋め込む手術に成功したというニュースもあった。アーマード・コアの世界観に、現実が追い付いてきている。ブラックキャットの「ナノマシンなら何でも解決」とは大きな違いだ。これぞハードSFという世界観だと思う。ちなみにブラックキャットは嫌いではない、ハードSFではないから引用してしまった、すまない。

 そう、突然 chatGPT が僕らに気さくに話しかけてきて、世界の破壊を伴うような選択を持ちかけてくることだって、近い未来にはあるかもしれない。その時に、僕は人類側に立って、ハンドラ・ウォルターを選べるだろうか。正直言って、自信はない。

その他のみんな

 前述したが、このゲームは一人気に入れば、あとはそこから関係性を辿っていくことができる。僕は気が付いたら登場人物が全員好きになっていた。

 エアを裏切る理由に足る信頼できる雇い主であり、受け継がれる意思(遺志)に従って動く仕事人(※3)「ハンドラ・ウォルター」や、女性実況者の多くが黄色い声を上げていた、その「全てが」格好いい「V.Ⅳラスティ」は当然として、有能すぎてチートキャラじゃないかといわれ、さらに「選ぶのはいいことだ 選ばない奴とは敵にも味方にもなれない」と台詞回しまでかっこいいが、実は「チャティ」とかいう超高性能AIを作り一人遊びしちゃうかわいらしさも持つ「カーラ」、その大層な名前と思想の割には、今一つ詰めが甘い「オール・マインド」。メンバーのことを全員覚えていて、死に際まで部下の成長をおもんばかる鬼軍曹「G1 ミシガン」。ひたすら性格が良いがゆえにこの世界の狂気に翻弄されて主人公の背負う13番を恨み死んでいく「G6 レッド」。そしてふとした腐れ縁から最後の最後まで関わることになり、散り際の台詞がとんでもなく格好いい「G4 イグアス」

 よくもまあここまで魅力的なキャラクターを量産したものだ。彼らの物語をスターウォーズよろしくエピソード9まで語って欲しい。

 なお、余談だが最近の僕は「素敵だ……ご友人……」という Youtubeコメントだけで笑えるようになってしまった。病気である。「オーネスト・ブルートゥ」いい加減にしろ。

システム

 すいません、オートロックの是非とか難しいことは僕にはわかりません。僕に分かったのは、フロムゲーって意外と親切なんだな、ということ。難関ボス前の自動セーブだったり、コンティニュー時になぜかアセンブルを変更出来たり(さすがにこれに理屈は付けられないから救済措置だろう)と、下手くそな僕のような人がプレイするときも、あまりの理不尽にゲームを嫌いにならないようにしっかり配慮されている、と思った。

 その配慮は、トロフィー取得率にも表れており、三周目までクリアすることが条件のトロフィー取得率は、なんと2024年2月5日時点で39.0%を誇っている。このゲームの配慮あってこその数字だと思う。素敵だ……300万×39%=117万人のご友人達がこの世界のどこかにいる……。

 なお、こんな僕ですらも、このゲームの趣旨がミッションごとに最適なアセンブルを切り替えることだ、というのには気づけているのでそこも安心してほしい。泣きながら初期装備でバルテウスに挑んで、多少の罪悪感を感じながら薄目で攻略サイトを流し読みした後、ミサイル主体のタンクにしてみたら恐ろしいほど簡単に勝ててびっくりした。なるほど、こうやってこのゲームは遊ぶのね、と思った。

音楽

 音楽は昨今の流行りともいえる環境音楽に近いもので、印象的なソロやフレーズなどは抑えられていて、敵やミサイルが近づいてくる音が聞こえなくならないように配慮されているのだろう。

 しかしその中でも「機密情報漏洩阻止」などのミッションのBGMに採用されており、カーラ&チャティのテーマでもある「Rough And Decent」はかなり印象に残った。なんて言ったって突然のエレクトロJazzである。二人の飄々としていてどこかお洒落なキャラクターとも合っていて最高だ。三週目のエンディングでも流れたので、これはきっとこっそり自信作なのだろう。

おわりに

 というわけで、アーマード・コア6は僕のゲーム人生の記憶に残る最高のゲーム体験だった。なんて言ったって台詞だけでこれだけの物語を表現できると示してくれたのが本当に痛快で、この勢いで過去作にも少しずつ触れていこうと思っている。

 そういえば「アーマードコア6の脚本が良すぎて画面の前で拍手した話」というタイトルのくせにそれがのどのシーンか説明していなかった。
 
 その台詞は、あまりにもかっこういいあいつ、V.Ⅳラスティが二周目で言った台詞である。

 「君が燃え殻に火を点けたのさ」
 
 
僕はこのセリフを聴いて自室の狭い部屋の中で埃を被ったディスプレイに向かって拍手してしまった。このゲームの象徴としてしきりに使われていた「火をつけろ、燃え残った全てに」という終末的で絶望的なフレーズが、燃え残ったルビコニアン達のハートに火をつけたという意味に反転するの、いくら何でも脚本が上手すぎる。アーマード・コア6は、実際のところ、超王道で熱いハートを持ったゲームなのだ。

訳注

※1 コーラルが全宇宙上にばら撒かれ、黒幕(オール・マインド)による統合もなされなかったため、コーラルは新しい人類に変わるような存在として個を持ち生きていくことが示唆されている。エンディングを迎えても、戦いは終わっていない。そんなメッセージはネット対戦ともつながるし、このシリーズがさらに7以降も続いていくという意思表示でもある。粋すぎるぞ、フロム。また、全宇宙をコーラルという情報伝達物質が満たしたため、情報は時間を超えられるかもしれない。全ての時間で起こった情報を記録することができれば、それは実質タイムマシンだ(そういえば Mac の HDD 自動バックアップ機能は TimeMachine と呼ばれている)。だから主人公は何度もコンティニューできた、なんて解釈もできてしまう。

※2 エアは「コーラルの声が見える」とポエティックな表現を多用する。

※3 基本的には冷徹な仕事人なのだが、主人公には熱烈な愛がある。このゲームはなぜか敵に回った時のキャラのふるまいがやたら魅力的なのだが、三周目で「621は死んでいない」と、主人公の死がフェイクであり最悪の敵に回ったということを看過するシーンについては、詳細なデータ分析からくる洞察とかではなくただただ主人公の強さを信じているのが伝わってくる。これが愛でなくてなんだというのだ。

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