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宇宙空間光通信の展望:Chapter 1 「宇宙空間光通信の概要」


宇宙空間での光通信概要

  • 宇宙空間における通信技術は、宇宙開発や地上の通信ネットワークにおいて不可欠な役割を果たしています。衛星と衛星の間を繋ぐ衛星間通信や、衛星と地上との間の主要な通信手段は電波を用いたマイクロ波通信でした。しかし伝送されるデータ量や、データを取得するまでの即応性に対するニーズが高まるにつれて、電波通信の限界が浮き彫りになってきています。

  • 現状の電波通信に代わる新しい手法として、空間光通信が注目を集めています。レーザー光を活用して高速かつ高効率なデータ通信の実現に加えて、より高いセキュリティや通信端末の小型化、通信時の省電力化等も可能になります。

  • このシリーズでは、宇宙空間光通信の基本的な概要と特徴について詳しく説明し、さらに宇宙空間光通信が持つ高速通信やセキュリティの利点、技術や装置の一般的な概要にも触れながら、宇宙光通信の未来における重要性についてご紹介していきます。

宇宙空間光通信の特徴

従来の電波通信と比較した際の光通信の特徴は、大きく4つ挙げられます。一つずつ見ていきましょう。

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  1. 高速・高容量通信:光は電波よりも高い周波数を持ち、幅広い帯域で通信できるため、大容量データを電波よりも速く送ることができます。

  2. SWaP(サイズ、重さ、消費電力)の軽減:光通信に使用される通信端末は軽量でコンパクトなため、衛星をはじめとする宇宙機に組み込みやすく、効率的な設計が可能です。電力消費が少ないため、宇宙機の電力供給への負荷を軽減できます。

  3. ライセンス/調整業務:従来の電波の場合、干渉を防ぐために国際電気通信連合という国際機関によって周波数の管理がされており、この調整業務に衛星1基あたり約2年かかってしまいますが、光であればこの調整業務が不要です。

  4. セキュリティ: 光は指向性が高く、他の方向への漏洩が少ない特性を持っています。これにより、通信セキュリティが向上します。

宇宙空間光通信の技術と装置

宇宙空間光通信は、以下の技術や装置を組み合わせて実現されます。

1.   レーザー送信装置: 高出力のレーザーを使用して光ビームを生成し、データをエンコードして送信します。これにより、遠距離通信が可能となります。
2.   レーザー受信装置:高感度の受信装置を使用して、送信された光信号を検出しデータに変換します。
3.   光変調器:データは通信信号として光ビームに変調されます。光変調器はデータ信号を光ビームに組み込むために使用されます。
4.   データ処理と制御システム:高速なデータ処理と制御システムがデータの送受信や誤り訂正を管理します。
5.   ポインティング制御:光通信は指向性が高いため、送受信ビームの正確な位置合わせが必要です。ポインティング制御システムがこれを実現します(ジンバル、MEMSミラーなど)。

宇宙空間光通信の応用例

宇宙空間光通信は、将来の宇宙開発、衛星通信、宇宙ミッションにおいて重要な役割を果たす技術です。主な応用例としては次のようなものが挙げられます。

  • 地球観測:近年、地球観測データの重要性は様々な分野で認識されはじめているものの、解像度や取得までの即応性がネックとなり利用事例が限られていました。その中でセンサー機器の向上により、光学だけでなく合成開口レーダ(SAR)やハイパースペクトルなど、高解像度のデータを取得できる衛星の基数は増加してきています。しかし、データレートの制限により、地上にすべてのデータをおろせずないことが、利活用の拡大に制限をかけ、さらなる市場の成長を妨げています。更に、防災や安全保障において一刻を争う場面では、現状の通信方式では数時間以内のデータ取得も困難でした。当社のサービスでは、中軌道に衛星を配備し、光通信を利用したデータ中継を行うことで、1Gbpsを超えるデータ転送を実現し、1時間以内にお客様の手元にデータ届けられるようになります。

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  • 宇宙状況把握(SSA):地球軌道上には既に50万個程度の宇宙デブリが存在すると言われています。周回する衛星との衝突や、それによるデブリのさらなる増加など大きな脅威となっている中で、宇宙の状況を逐一「見える化」することが重要になっています。万が一デブリが衛星に衝突したときなど、いざという時の対応速度を高めるためには、軌道の状況をリアルタイムにモニタリングすることが必要です。そこで光を活用したデータ中継を利用しすることで、即座にモニターデータを取得できるようになります。

  • 宇宙ステーション:今後民間の宇宙ステーションが増え、月ゲートウェイの建設が進むと、宇宙空間で化学や医療等の様々な実験が行われるようになります。これらの実験データは随時地球上で解析する必要がありますが、膨大なデータを、高い機密性を保持した状態で伝送する必要があります。光通信は傍受可能性が限りなく低く、高容量伝送も可能なため、このような通信に最適です。

  • 月・火星探査:アルテミス計画をはじめとして各国で月や火星への無人探査が開始され、有人探査もまもなく再開される予定です。地球と月との間には384,400キロ以上の距離がありますが、本格的に探査がはじめられたときに、探査機を的確に操縦し、宇宙飛行士と緊密にコミュニケーションをとり、貴重な観測データを地球へと伝送していく必要があります。このような長距離通信にも光通信は適しており、従来の電波よりもはるかに効率的な通信網を構築できると言えます。

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このように、宇宙空間光通信は、高速性、高帯域幅、セキュリティ、抗干渉性などの利点を提供し、宇宙通信の未来を大きく変える可能性を秘めています。

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