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面白いのは、技術の“際”を知る瞬間。地球外生命探査から始まった、衛星エンジニアの道

第7弾となる今回のメンバーインタビューは、CTOの永田です。宇宙開発の道に進もうと決めたきっかけを聞いてみると、出てきた言葉は「地球外生命体」。自分の常識が覆されるような経験をしたい、最先端技術に挑戦したいという思いを原動力に、衛星の開発に取り組んでいると言います。そんな永田に、ワープスペースにジョインした経緯や今後の展望を聞きました。

衛星開発漬けの学生時代

- 早速ですが、永田さんの業務内容を聞かせてください。

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WarpHub InterSat」の肝となる、光通信の開発と設計をメインにやっています。全体の進行は、プロジェクトマネージャーに任せていて、僕は光通信にフォーカスして、方針を検討しています。加えて、CTOとして、技術の視点から会社の経営戦略を提案し、決めていくのが僕の役割です!

- これまで、衛星や通信関連の開発に携わった経験はありましたか。

学生時代から衛星の開発に取り組んでいました。では、まずは、ワープスペースの前身でもある、筑波大学の衛星プロジェクトの話からしましょう。

宇宙好きだった僕は、高校生のときに「大学生活は宇宙に捧げよう」と決めていたんです。それで、進学先を調べていたところ、筑波大学には、研究室や専攻、学年に関わらず、学部1年生から所属できる衛星プロジェクトがあると聞いて、入学を決めました。

プロジェクトに参加した当初は、まだ衛星を打ち上げた実績がありませんでした。なので、学内にノウハウがなく、手探りの状態でしたが、学部1年生から修士2年生までの6年間で、組み込み系や通信系、基板や構造、電源の設計、それから熱真空や振動、放射線の環境試験など、キューブサット開発のほぼ全ての工程を経験できました。2号機の開発では、学生代表を務めました。

衛星の開発は、ロケットの打ち上げの都合で、スケジュールを厳守しなければならないので、徹夜が続いた時期もありました(苦笑)。仲間と共に作り上げた衛星が宇宙で動いた瞬間は、きっと一生忘れられないでしょう。僕の大学時代の全てだと言えますね。

そのほか、学部では部品の放射線耐性や衛星の冷却技術に関する研究、修士・博士では大型衛星の熱制御に関する研究を行っていました。

火星探査機「Curiosity」で再熱した宇宙への好奇心

- 衛星プロジェクトへの参加は、入学前から決めていたとおっしゃいましたが、宇宙に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

父親は天文好きだったので、家には宇宙関連の本がたくさんありました。夏休みは、望遠鏡で火星をみながらスケッチをしたことも覚えています。宇宙の果て、宇宙の構造について父親と夜な夜な語り合った経験が宇宙への好奇心を駆り立てました。それから、プラネタリウムを自分で作ったことも。

- プラネタリウムを自作?

はい。工作が好きだったので、改良しながら、何世代か作りました(笑)。

中学、高校は、スポーツに打ち込んでいたので、宇宙からは少し遠ざかっていましたが、NASA・ジェット推進研究所(JPL)の火星探査機「Curiosity(キュリオシティ )」のミッションを知って、衝撃を受けました。

幼少期は、本で読んだ「地球外生命が存在しているかもしれない」という情報に大きな影響を受け、遠い宇宙に思いを馳せました。本気で地球外生命がいると信じていたし、必ず自分が見つけるんだと思っていました。ところが、中学、高校と大人になるにつれて、夢に溢れた話をする機会もなくなり、僕自身の地球外生命への思いもじわじわと小さくなっていました……。

そんなとき、NASAが本気で地球外生命を探しているという事実を知り、自分の中で小さくなっていた炎がぶわっと再び大きく燃え上がる感覚がしたんです!

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漠然とした憧れが、急にリアルなものに感じられて、僕も「人生をかけて、地球外生命体を探したい」と思ったんです。

- 少しわかるような気がします。でも、地球外生命体の何がそこまで永田さんの意欲を駆り立てているのでしょう?

人類は、まだ地球上の生命しか見たことがありません。地球上で起こっていることが世界の全てだというような感覚に陥っています。実際、僕もそうです。

けれど、もし、本当に地球外生命がいるという証拠が掴めれば、価値観が根底からガラリと変わりますよね。人生や生命に対する見方が変わる。歴史に名を刻んだり、すごい発見をしたりしたいわけではありません。“どんでん返し”というか、何かの真理に辿りついた瞬間の爽快感を味わいたいんです!

- 常識を覆されてみたいということですね。ところで、地球外生命体の探査といっても、生物学や物理学など、さまざまなアプローチがあると思います。永田さんが、衛星開発をやろうと思ったのは、なぜですか?

それは、なんといっても、地球外生命体が見つかったときには、誰よりも早く、知りたいからです。じゃあ、一番に知れるのは、どういう人なのか。考えてみると、やはり地球外生命体を探す探査機を開発したり、運用したりしている人だと思いました。加えて、もともと好きだったものづくりができることや自分の人生の目標に繋がることに魅力を感じて、衛星開発の道に進もうと決めたわけです。

ベンチャーでの経験は価値?それともリスク?

- 永田さんが、ワープスペースへのジョインを決めたのは、どうしてですか。

大学4年生の夏に、衛星プロジェクトの顧問をしていた亀田先生と行った、アメリカで開催されたカンファレンスの帰り道のことです。亀田先生から、「会社を立ち上げるから、CTOとして参画してくれないか?」とプロポーズを受けました!

- えぇ! 大学4年生というと、周りは就職活動や大学院入試の真っ最中ですよね?

先生からお誘いを受ける前までは、修士課程、もしかすると博士過程に進学したあとは、大学や宇宙機関で、研究者として働くような計画を立てていました。なので、「修士過程の片手間で、衛星開発の経験を積めるならやってみたい」くらいに思っていました。

亀田先生がおっしゃっていた「部品コストを下げることで、宇宙産業の裾野を広げたい」という思いに強く共感しました。個人的にも、宇宙産業の活発化が、地球外生命体発見を後押しすると考えたのです。

それで、2016年の冬に、ワープスペースにジョインしました。そして、語らずにはいられないのが、大学を休学して、フルタイムでのジョインを決めたときのことです。

それは、会社のビジョンが「宇宙空間の通信インフラを構築する」で固まったタイミングでした。探査機自体の開発だけじゃなく、探査機が取得したデータを地上に下ろすための通信回線は絶対に必要です。

僕たちのような民間企業が宇宙空間でインフラを作り、それを利用してもらう形を取れば、探査機はミッションに集中できるので、負担を減らせます。まさに、僕がやりたいことでした。

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- 当時は今のように、宇宙ベンチャーがニュースになることも少なかったですし、かなり思い切った決断のように感じます。迷いや不安はありませんでしたか。

リスクは感じませんでした。やったら、やった分だけ、普通の人が手に入れられない経験を積めるので。けれど、もちろんワープスペースでの取り組みに時間を割いた分、他に時間をかけられなくなる。それをリスクだと考えるかどうかですよね。僕は、ベンチャーで経営に関わるのは、他の人がなかなかできないことで、研究の時間を割いてでも、チャレンジするべきことだと思いました。

ベンチャー企業が宇宙開発に取り組む意義

- ワープスペースの光通信サービスが実現することで、宇宙業界には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

地球観測衛星が次々に打ち上げられていますが、実は通信がボトルネックとなり、思い通りに画像を撮影できない、もしくは画像を地上に送信できないこともしばしば。通信を気をかけながら、撮影の計画を立てなければいけない状況です。

将来的には、私たちが地上で4Gや5Gを使うときの「つながっている意識はないけれど、つながっている」という感覚で、シームレスな通信を提供したいと思っています。例えば、ドローンやIoTは、通信面で気を遣わなくても、動作します。目指すのはそこです。

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- 光通信の商用利用は世界初です。これまでにないサービスを作るのは、簡単なことではありませんよね。CTOとして、どのようにプロジェクトをリードしていこうと考えていますか。

やはり、CTOとして、光通信技術の最先端を睨みながら、開発の大方針を定めることが重要です。それだけではなく、ユーザーのニーズを正確に掴むことも重要です。そして、それに応えられる技術開発を行うことも大事です。技術面は、すごくチャレンジングですし、開発期間やスケジュールもチャレンジング。

でも、実現したいことと技術のギャップを知る瞬間は、楽しいです。「これ以上、小型化できない」「削減できない」とわかると、面白くなっちゃうんです。だって、これは、技術の際……その分野の最先端を見ているのと同じなので!

世界の競合の動きを見ていると、何年に何がどこまで実現されるのかが見えてきます。どうすれば、競合よりも早くローンチできるのか、より良いサービスを作れるのか。ワープスペースの最適解を常に探しています。

- 最後に、ワープスペースの行動指針「Compass of Behavior」について、お聞きします。永田さんが大事にしているのはどれですか。

Our Compass of Behavior 
01. Leap
02. Goal oriented
03. Decide with fact
04. Chase one chance
05. Resilient spirit
06. Respect your crew
07. Love family
08. Adventure
09. Be attractive

こうして見直してみると、全部いいなと思ってしまいますが、一番は「04. Chase one chance」です。

エンジニアは、成功の可能性を少しでも高く狙おうとする……いわゆるワンチャンを回避しようとするところがありますよね。一度打ち上げると、なかなか修理ができないという特殊な宇宙業界のエンジニアは、成功確率が高くて、安心なところを狙う傾向がある方が多いように思います。この姿勢がこれまでの日本の宇宙開発の発展を支えてきたとも言えるのですが、 我々ワープスペースはスタートアップ企業。これまで成し遂げられなかったことをやるべきです。

ワープスペースの衛星はどこかからか委託されて作っているわけではなく、自社のサービスを作り上げるためのものです。だから、サービス全体を見渡しながら、リスク評価をしていく必要があります。

従来の安全な設計を全て受け入れていると、どうしても時間がかかってしまいます。だからといって、もちろん安全性も捨てられない。重要なのは、スピードとリスクを天秤にかけながら、選択していくことです! ベンチャー企業が宇宙開発に取り組む意義は、そこにあると思います。

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