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少年時代に憧れた宇宙。通信業界の成長過程を知る、知財戦略のスペシャリスト【就任インタビュー】

2022年3月31日、ワープスペースは新取締役2名の選任、COO(最高執行責任者)とChief IP&Corporate Strategist(主席知的財産・経営戦略官)の新設および各1名の選任を発表しました。

今回の記事企画では、多彩な4人のメンバーにプレスリリースでは語り尽くせなかった意気込みを語ってもらいます。

トリを飾るは、Chief IP&Corporate Strategistに就任した片岡将己です。知的財産権の専門家の視点から見たワープスペースの事業の面白さや新役職に就任しての意気込みを聞きました。

片岡将己氏【Chief IP&Corporate Strategist(新任)】

経歴:弁理士。AIPE認定 知的財産アナリスト。日系グローバル企業の知的財産部門責任者として、日本を含むグローバルの知的財産部門を統括。2017年末までソニーの知的財産センターに約12年間在籍し、日本、米国、欧州において戦略的な知財活動を推進。加えて複数のジョイントベンチャーやスタートアップ企業を支援するなど、幅広い経験を有する。2016年からは英国IAMメディアより世界の知財戦略家トップ300に選出されている。2021年4月入社、同月よりChief IP Counsel。

ライバル企業から技術を守る「知的財産権」

-片岡さんは、2021年4月にワープスペースにChief IP Counselとして参画され、知的財産に関する業務を担当しているそうですね。知的財産権とは、どのような権利なのでしょうか。

わかりやすく言うと、知的財産権とは、最初にある価値を創り出した人が、その価値を一定の期間、独占できるように国から与えられる権利です。例えば、技術は一から創るよりも、誰かが創ったものを真似た方が楽だし低コストですよね。他人がお金と時間をかけて開発した技術を真似て、ビジネスをすることが許されれば、誰かが新しい技術を創造するのを待つばかりで、新しいイノベーションが生み出されない社会になってしまうのです。そこで、知的財産権という法制度が編み出されました。

知的財産権には様々な種類があります。代表的なものとして、文章や絵、音楽、映画、その他のアートなどを守る「著作権」、物のデザインを守る「意匠権」、商品名やロゴなど、商品やサービスを特定する名前を守る「商標権」、そして開発した技術を守る「特許権」などがあります。知的財産権はこれらの総称だと思ってください。

一般的な事業会社の活動は、投資家などから資金を集めて投資し、より価値が高い商品やサービスを創り出して、販売する。そしてその商品やサービスの売上げの利益を、さらにまた投資する。この繰り返しです。ところが、投資して得られた結果を誰かに簡単に真似されるようでは、その事業は儲からなくなってしまいますよね。

他人に真似されることから技術を守るには、他人からわからないようにすればいいのですが、自転車のように商品を見れば仕組みがわかってしまうものもありますし、購入者が商品を分析すれば製造方法がわかってしまうものもあります。そのような場合も法的にライバル企業が技術を真似ることを許さない状況を作ることが重要です。

特にスタートアップは、潤沢なリソース持つ大企業にはない強みを他社から守りながら事業を成長させなければなりません。そのためには、戦略が必要です。例えば、強みとなる独自技術に知的財産権を取得して守ることも必要になります。投資を呼び込んで事業をスケールしていくためにも、事業の強みを簡単に他社に真似されないための仕組み作りは、非常に重要でしょう。

-エンジニアが自身で特許を申請するのは難しいものですか。

特許として認定される発明の条件は、すごく平たく言うと「世界的に見て新しいこと」と「世界的に見て簡単にできないこと」の2つです。まず、世界中で既に公開されている発明に照らして、自分が開発した技術の何が新しくて、どういうところが特許権として認められそうかを判断するのは、簡単ではないと思います。例えば、自分が開発した技術が世界中のどこにもないということをどうやって判断すればいいのでしょうか。こうして話している間にも、地球の裏側で同じことをやっている人がいるかもしれませんし、自分が気付いていないだけですでにどこかで発表されている技術である可能性だってあります。

しかし、本当に難しいのは、ある発明について特許権を取得すべきか、取得する場合はどのような権利範囲とすべきか、その権利をどのように使って事業を守るかという戦略の部分です。どんなに優れた技術や発明も、権利の取得に戦略がなければ、全く価値が無い特許権になり得ます。ここは法律論の割合が非常に大きくなってきますし、実際に企業が特許権を行使する現場をどれだけ多く経験しているかによっても、大きく対応力が変わってくる部分だと思います。

つくばへの移住が、宇宙への憧れを思い出させてくれた

-そうすると、片岡さんも何か自然科学系のバックグラウンドがあるのでしょうか。

はい。大学院まで電気工学を専攻していました。卒業後は、当時のソニー株式会社にエンジニアとして入社して、携帯電話のアプリケーションプロセッサ内のロジック回路の設計や、ハードウェアとソフトウェアを含むシステムアーキテクチャの設計を担当しました。

幸運にも私の周りには優秀な先輩方が何人もいました。例えば、四六時中プログラムのことばかり考えているような。「本物のエンジニアって、こういう人なんだよな」と思いましたね。入社1年目に、尊敬する大先輩から「それで、片岡さんはどの分野で世界一になるの?」と言われた言葉が、ずっと頭に残っていました。エンジニアとして自分の分野では世界の誰にも負けないレベルを目指さなければならないというメッセージでした。

私はというと、そう考えると非常に中途半端だと感じていました。当時、最先端の通信端末の開発に参加しており、ヨーロッパやアメリカへも頻繁に出張して現地のエンジニアと一緒に開発を進めるなど、それなりに楽しんでいましたし、エンジニアを続けようと思えば続けられたかもしれません。でも、世界一になれるとか、自分が理想とするような「本物のエンジニア」になれるとも思えませんでした。情熱が足りない。自分自身の興味関心は、少し違っているのかもしれないとも感じていました。

そんなときに、会社で特許権について知り、「こんな世界があるのか」「これは面白い」と思ったのです。知的財産権を扱う専門家である弁理士は、大学で自然科学系の分野を学んだ理系出身者が約8割を占めているということも、私の背中を押しました。研究者や技術者の説明を理解するための前提知識が求められるとなると、自然と理系出身者が多くなるのでしょう。これなら私のエンジニアとしてのバックグラウンドが活かせますし、自然科学と法律を掛け算した知的財産権という領域にも強い興味を持ち、飛び込むことを決意しました。入社6年目の時です。知的財産部門に異動後、エンジニアからキャリアチェンジする自らへのケジメとして弁理士資格を取得しました。知的財産権を専門とするようになって、今年で16年目です。

-ワープスペースには、どういう経緯で参画されましたか。

私は子どもの頃、宇宙に興味がありました。小学校低学年の頃、近所で理科の教員をやっている方の家にあった望遠鏡で木星を見せてもらい、とても感動したことを今でも覚えています。中学生の頃には、担任だった理科の先生が教室においてくれた科学雑誌『ニュートン』をよく読んでいた記憶があります。大学では宇宙について学びたいと思ったこともあったのですが、国内だと大学が限られていましたし、当時私はちょうど無気力な時期だったこともあり(笑)、あまり真剣に向き合いませんでした。結果的に工学部を選んだのですが、その理由のひとつに、工学部で学ぶことでいつか宇宙に繋がるかもしれないという想いがあったことは覚えています。とはいえ、ワープスペースの皆さんの宇宙への情熱に比べれば興味レベルです(笑)。

その後は、先ほどもお話した通り、メーカーにエンジニアとして入社して、携帯電話を開発する部門に配属となり、そこで知的財産権に出会いました。そういう背景もあって、知的財産の仕事を始めてから、イギリスとアメリカに赴任していたときは、特に無線通信分野を担当しました。その傍ら、現地のベンチャー企業で、知的財産戦略や資金調達の支援をしていたこともあります。

約7年間にわたった海外赴任を終え、2017年に帰国が決まりました。子どもの学校選び、ずっと離れていた実家へのアクセス、会社からの距離を考えて、つくば市に住むことに。そうしてつくば市に住み始めて、子ども達の送り迎えなどで車を運転していると、街の色々なところからロケットが見えるんです。

それを何度も見ているうちに、子どもの頃の宇宙への憧れが蘇ってきたんですよ! やっぱりここで何か宇宙に携われることをやるべきだと思い、まずは色々と勉強してみようという気持ちで、宇宙ビジネスに関連するイベントに顔を出すようになりました。

そこでワープスペースの会社紹介のプレゼンを見る機会があったのです。つくばが拠点で、スタートアップ企業で、しかも通信分野。自分の強みと合っているし、貢献できそうだなと。衛星が撮像したデータを地上にダウンリンクする通信回線は非常に細いので、今後の宇宙開発のためにそのボトルネックを解決しようというワープスペースのビジネスは、目の付け所が良いですよね。ユーザが解決したいペインポイントが明確になっていましたし、大企業にはない強みもきちんと持っており、夢とチャンスがあると思いました。

早速、CEOの常間地さんにコンタクトを取りました。最初は、ワープスペースの社員向けに知的財産権についてレクチャーすることから始まり、最終的にChief IP Counselとして入社することが決まりました。

-Chief IP Counselと今回就任されたChief IP&Corporate Strategistの役割は、どう違うのでしょうか。

Chief IP Counselとして入社した際は、ワープスペースの知的財産戦略の立案を任されていました。入社してから1年、一緒に働いているなかで、知的財産以外にも貢献できる領域が見えてきたように感じています。海外赴任中に担当した現地のベンチャー企業では、研究開発チームと戦略を一緒に考え、投資やパートナーシップの可能性がある企業へピッチしたり、技術開発を事業化させたりするような業務をしていました。海外のテクノロジー企業やVCとの個人的なコネクションもあります。だったら、知的財産の専門家としてだけではなく、より役割を広げて会社に貢献できるようにということで、Corporate Strategistという役職が加わりました。

-最後に、意気込みを聞かせてください。

多くの分野で、どういう知的財産戦略を取ればいいのかというノウハウがある程度は蓄積されているのですが、宇宙業界……特に宇宙空間での光通信分野では、まだ知的財産戦略の“ノウハウ”が確立されていません。そういう意味でも個人的には非常に面白い分野です。

ロケットや探査機、衛星のような宇宙物体については、宇宙空間に打ち上げられてしまえばその製品や挙動を自由に調べることはできませんし、他の産業のように民間企業同士が主体となって事業開発競争をして発展するという常識がこれまでなかったと思います。そのようなOld Spaceと呼ばれる世界では、例えば特許権を取得して事業優位性を実現する戦略の必要性自体が低かったのではないかと思います。

しかし、今や「New Space」と言われるように時代は大きく変わりました。民間企業が主体となって新しい宇宙事業が生まれる時代です。ワープスペースがやろうとしている事業は、いわゆる携帯電話の通信サービスに似ていると思います。私はその分野で10年以上経験を積み、世界の知的財産戦略を見てきました。その経験を生かしてワープスペースの知財戦略や経営戦略に貢献することが、私の重要な役割だと思っています。それが人類による宇宙開発への貢献になれば嬉しいですね。

今回は、知的財産戦略のスペシャリストである片岡に意気込みを語ってもらいました。技術が経営に大きなインパクトを与える宇宙ビジネスにおいては、知的財産に精通しているメンバーが内部にいることが強みとなりそうです。

新取締役に2名を迎え、2つの役職を新設し、パワーアップしたワープスペースの取り組みに引き続きご期待ください。

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