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月面探査、商業宇宙ステーション…各社の“本気”の展示が話題に。光通信のポテンシャルは?「Space Symposium」レポート

アメリカ最大の宇宙産業に特化したカンファレンス「Space Symposium(スペース・シンポジウム)」が4月4日から7日にかけて開催されました。

同カンファレンスは、地球観測事業から宇宙探査まで幅広い内容を扱っていますが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて2019年以来、開催を延期していました。今回は2年ぶりの開催となり、海外のパートナー企業とのミーティングのために参加することになったCSOの森によると、例年よりも各社が展示に力を入れていたようです。Space Symposiumで話題になったトピックや会場の様子を振り返ります。

オープニングセレモニーの様子 
©︎Space Foundation

前年度比で大幅な予算増額の請求をしたSpace ForceとSDAの動向に業界が注目

今回の来場者は約1.4万人。主催者によると、ブースを出展していた企業や団体は約200件に上ったとのことです。

Space Symposiumは宇宙軍の基地があるコロラドスプリングスで開催されるため、Space Force(宇宙軍)の関係者も多く参加しています。様々な分野のセッションが開催されていたなか、特に注目が集まっていたのは、Space Development Agency(宇宙開発局、以下SDA)のデレク・トゥルネア局長が登壇した「Leveraging the Synergy of Proliferated LEO and GEO Systems for National Security Missions(増大するLEOとGEOシステムの相乗効果を国家安全保障ミッションに活用する)」です。

SDAは、これまでアメリカのアメリカ合衆国国防長官府の傘下でしたが、宇宙軍のリソースを増強する目的で、宇宙軍の組織として再編されたという経緯がありました。4月6日には、ミサイルを追尾する衛星コンステレーションの構築を急ぐために、Space ForceとSDAが前年度に比べて50億ドル(約6,000億円)も多くの予算を請求することが決まったと発表されたこともあり、打ち上げ事業者や衛星事業者にとってはインパクトがある話題だったのではないかと思います。

進む月面開発。トヨタ自動車が月面ローバーのデモ機を初披露

展示ブースの注目は、「商業宇宙ステーション」と「月面探査」といったチャレンジングな分野でした。

2021年には、複数の民間企業が連合を組み、独自の宇宙ステーションの構築に取り組む構想が続々と発表されました。今回のSpace Symposiumは、構想が発表されてから開催される初の大規模なカンファレンスであり、各社が展示に力を入れていたようです。

Lockheed Martinの展示ブース。NanoracksとVoyager Spaceと 共同で、商業宇宙ステーション「Starlab」を構築する計画を発表しています。
Northrop Grumman Systems Corporationの展示ブース。 同社は月軌道ゲートウェイの居住用モジュールの開発企業に選ばれているほか、Dyneticsと共同で地球低軌道の宇宙ステーションについても構築の計画を進めています。
Blue Originと共同で商業宇宙ステーション「Orbital Reef」の構築を計画しているSierra Spaceの展示ブース(右)。©︎Space Foundation

月面探査分野で話題になっていたのは、月面ローバーです。トヨタ自動車のブースでは、同社がJAXAらと共同研究を進めている有人与圧ローバー「LUNAR CRUISER(ルナ・クルーザー)」のデモ機を世界で初めて披露していました。

2020年代後半の打ち上げを目指して開発中の有人与圧ローバー「LUNAR CRUISER」のデモ機

展示スペースの都合上、実演はありませんでしたが、動作可能なデモ機を展示するところに、その本気度がうかがえました。

さらに、Space Symposiumの開催期間中には、日産自動車の北米拠点、Teledyne Brown Engineering、Sierra Spaceの3社が共同で、NASA向けの有人月面探査車の開発に取り組むことが発表されました。アルテミス計画を率いているNASAと契約を締結できたという点より、大きな勝機を見出しているのではないでしょうか。

これらの展示に象徴されるように、月面探査やアルテミス計画での有人月面着陸に向けて、月面開発はさらに活発化していくと考えられます。しかし、当然ながら最初は月面に地上局やデータセンターなどの設備はありません。当面の間は、実験のデータを地球へと送信して、解析する必要があるでしょう。

現在は、地球低軌道の観測衛星が撮像したデータを地上でダウンリンクするのにも、現在宇宙で主に使われている通信方式である電波ではキャパシティが不足している状況です。ところが、本格的な月面開発が進めば、100機程度の端末が地球とリアルタイムに通信しながら、滞在する人々の仕事や研究を支える必要があります。地球低軌道においても、各社の商業宇宙ステーションに研究者や旅行者が常に滞在することになれば、求められる通信量はISSよりも大幅に増えるでしょう。そこで注目されているのが光通信技術です。

ワープスペースは主に地球観測事業者向けに現在開発を進める宇宙での光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の技術を応用し、月面開発に向けた光通信サービスを2030年に提供することを目指しています。2022年1月には、JAXAから月と地球を結ぶ通信システムの実用化に向けた検討業務を受託するなど、月面向けの光通信サービス提供に向けて具体的な検討を開始しています。このようなプロジェクトを通じて、Space Symposiumで頭角を現してきた様々な事業者とも今後連携をとり、私たちが宇宙における通信の面で貢献ができるようにしていきます。

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