窓を開けよ

庫内灯が蛍光色をしていないのは反則だと思う。その中でも、つめたい色にするべきだ。大きくひろげたとびらから冷気が流れ出す。エアコンの効いたこの部屋でその寒暖は境を曖昧にして、冷気は白く染まったりなんかしない。ドライアイスに水をかけてよく遊んだなあ。ひやされて白くなった空気が沸き立って、薄いヴェールのように流しにひろがる。そしてすこしずつまぎれて、私のまわりに溶けていって、ドライアイスに触れた水がこおりになって流しにのこる。とびらを開け放してしばらくすると、冷蔵庫はいつもより大きくヴヴーンと言い始める。がんばってるな。冷蔵庫ががんばればがんばるほど、吐き出される空気の量は増えて、その温度も上がる。すこしあたたかい空気は冷蔵庫の後ろでふわふわしているようだ。庫内は部屋と同一の、エアコンにひやされてそれなりに快適な温度の空気で満たされていく。トマトもなすもパックに入ったみそも、とてもひえていたんだろう、汗をかいてきた。昔、飼っていた白い小さな金魚のことを思い出す。水を替えるために水槽の水を洗面器にうつした時、ギリギリまぼろしじゃない形を保って、ほうっと浮かんだかすかな背中をすこしつまんだことがあった。そんなことをしたのはその一度きりだった。彼女のことが大好きだった。あのとてもしずかな、蜜月みたいな、加虐。

記憶があいまいだけど、トマトもなすもピーマンも、冷蔵庫に入れてからずいぶん経つ。今も彼らはみずみずしく、とてもよくやってくれている。あたたかい色に照らされたあか、むらさき、みどり。いつたべようかと、流しに立ってチラ見する。部屋は全然あつくもさむくもならない。エアコンからは快適な温度の空気が吐き出され続けている。

閉塞されて、つめたく保たれていた、暗い個室。とびらを開くとこんなにあたたかい色の明かりが点く。そんなのおかしいだろう。冷気が流れ出している気配はもう感じられない。もうすぐ7月になるから、外はずいぶんと暑くなってきたけど、そうでもない日もある。隣の家の、開いた窓を見る。部屋は閉め切って、外にもあまり出ないから、そういうのわからないんだよね今窓を開けたら気持ち良いだろうとか。エアコンはいつも除湿に設定していて、ベランダはいつも水たまりができている。窓を開ければ、そこで生まれた蚊がやってくるだろう。今日の虫刺されは、1。さっき蚊を殺した。

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