お金≠幸。
金さえあればそれでいい、ずっとそう思っていた。
私は幼いころからずっと貧乏で、
つねに金欠だった。
『お金がないから、私はこうも不幸なんだ』
莫大なお金を持った今だからこそわかる。
私はお金がないから不幸だったが、決して金を沢山持っているからと言って幸福が集まるというわけではない。
金とはあくまで、一つの道具なのだと思う。
私は高層ビル24階から、ワイン片手に街の風景を見下ろした。
きらびやかに光るビルや車は、頭上の星屑よりもずっと眩しい。
私はため息をつく。
その美しさに見惚れたのではない。
これは青息吐息だ。
虚しい。
苦しい。
金が、虚しさを運んでくる。
どれだけ金があっても満たされない貪欲な心を、運んでくる。
……もう、やめにしよう。
私は窓に近寄り、体で窓に触れた。
このまま窓を割って下界に墜ちれば、私は死ねるだろう。
私はワイングラスを床に置き、深呼吸をし──
──思い切り、窓に拳を打ちつけ、そのまま全体重をかけた。
しかし、私は死ねなかった。
「クソッ」
高級品の窓は、人間なんかの力では到底割れない程、
硬く強かったのである。
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