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作家ホイットリー・ストリーバーについて(2)

遭遇のもつ力は、自分が無力であることを認め、事柄全体を疑い続けるところからやってくる。なぜなら、疑問が深くなればなるほど、あなたはいっそう解決策を見つけようと骨折るようになるからだ。もしもあなたが彼ら[存在たち]に問いを発し続けるなら、彼らは、その問いがより挑戦的な、答えることができそうもないものになるよう、事態を変化させ続けるだろう。仮にあなたが「そうか、彼らはエイリアンだが、この惑星内部からやって来るのだ」と言い始めれば、あなたは途方に暮れてしまう。……私はしばしば問いが成り立つはずがないような状況に追い込まれた。あなたはそれに答えないではいられないが、答えることはできないのだ。それであなたはそれを抱え込む。あなたは耐えがたい状況に置かれ ─ ─そして成長するのだ。

ホイットリー・ストリーバー、1996年6月16日、ジョン・マックとのインタビューより

ホイットリー・ストリーバーについて注目すべき点は、彼はグルジェフ・グループで活動していたことがあるということだ。

グルジェフは二十世紀のロシア神秘家で、弟子のウスペンスキーと共に二十世紀の精神世界に大きな影響を与えた(現在心理分析などで用いられているスーフィズムの「エニアグラム」を西洋にもたらしたのはグルジェフと言われている)。

ジョン・マックの本(「エイリアン・アブダクションの深層」)によれば、ストリーバーは「訪問者(ビジター)」と呼ぶものとの遭遇の前、グルジェフ・ファンデーションを通じて変容の途上にあった。最初は強烈に恐ろしいものであったその存在相手の自分の体験について、グループの教師に話したとき、その教師はこう言った。「そうした人々との十五秒は、十五年の瞑想に匹敵する。君はとても幸運だよ」。

グルジェフの教えの中心は、「自己想起」と呼ばれる、常に自己に目覚めていることの修練である。前に紹介したエンリケ・バリオスの文章(「オンかオフか」)にも似たようなアイディアが出てくるのは偶然だろうか。


ストリーバーの具体的な接近遭遇の記録して最も検討に値するのは初期の三部作(「コミュニオン」(邦訳『コミュニオン―異星人遭遇全記録』扶桑社、1994年)、「トランスフォーメーション」(邦題「宇宙からの啓示」扶桑社、1995年)、「ブレイクスルー」(邦題「遭遇を超えて」翔泳社、1996年))である。



上記三部作を読んで思うのは、その書物のボリュームの割には、実際に「ビジター」と接触した場面の描写は少ないということだ。

明確なコンタクト体験の描写は彼が「UFOのようなものの小部屋に拉致された」と主張する1985年12月26日の体験がメインで、あとは退行催眠誘導による記憶喚起の中での描写とか、幽体離脱中の体験などの夢か現か分からないものが大部分である。

未知の存在につきまとわれたり、家の周りに気配を感じたり、ノック音が聞こえたりという間接的な描写は至るところに出てくるが、直接的に彼らとコミュニケートしたといえる部分は極めて少ないのである。だから読者は、「ビジター」が本当に実在するのか、作者の妄想が生み出した想像上の存在に過ぎないのかが判然としない。作者が異世界を扱ったSFホラー作家であるだけに猶更である。

ストリーバーは1985.12.26の体験以来「ビジター」に再び会うことを熱望するようになるが、同時に会うことを深く恐れてもおり、せっかく部屋に来訪したビジターに銃を向けたりもする。

彼の本を読んでいると、「ビジター」の側ではストリーバーの熱望に応えてコンタクトしようと努力しているのだが、ストリーバーの側のこのようなアンビバレントで感情的な態度がグレイとの明確な接触とコミュニケーションを妨げているような印象を受けてしまう。

ストリーバー自身、このように述べている。

わたしたちが追いつめられた動物のように理性を失った状態でビジターに対するのでなく、きちんと対処できるような平静な精神状態に行き着けたならば、かれらと接することから価値あることが得られはじめると思う。

「トランスフォーメーション」(邦題「宇宙からの啓示」)第3部「悪夢を超えて」より

だがストリーバーの反応は、人類が「グレイ」に対峙した時に感じる本能的な恐怖感の率直な表れとも思われ、そういう観点からするとストリーバーの体験は来るべき未来に地球外知性と種族間コミュニケーションすることになった場合の地球人類のひとつの典型的事例であるともいえる。

ヒューマノイドとは違って異なった進化系統(両生類?)の知的生物を目の当たりにしたときは、人類の恐竜に対する太古の恐怖心を呼び起こされるというのは十分にあり得ることだろう。

だからこそ、「グレイ」のイメージをアメリカのポップ・カルチャーに浸透させたのは(その主体が何であるにせよ)将来の接触のショックを和らげるための意図的なものではないかとの説に妙な説得力を感じる。

ストリーバーは、1986年12月23日に起こったコンタクトの際、
「あなた方をもっと恐れないようにするために、力を貸してほしい」
と伝えたという。

「コミュニオン」が出版された1987年1月後半に興味深い出来事があったとストリーバーは書いている。

マンハッタンの書店を訪ねたストリーバーの知り合いの出版関係者が、二人連れの客が入ってくるのを見て、彼らが迷わず「コミュニオン」が並べてあるところに行き、本をぱらぱらめくりながら、「おや、彼は誤解してる!」とか「そんなふうじゃなかった」などと話しているのを聞いた。二人の態度にはおだやかさやユーモアが感じられた。二人はものすごいスピードでページをめくり、速読しているらしかった。
このカップルは二人とも背が低くて1.5メートルくらい、スカーフを高く巻いて顎を隠し、大きな黒っぽい眼鏡で、冬用の帽子を目深に引き下ろしていた。
その知人が、二人のそばに行って、出版社の者ですが、と名乗って、この本に何か間違いがありましたか、とたずねると、二人は無言で見返した。
黒っぽい眼鏡の奥は、男も女も黒い大きなアーモンド形の目をしていた。
知人は強いショックを受け、一緒に書店に来ていた奥さんの所に行って、彼らの目が「コミュニオン」の表紙に似ていると話して、店を出るように急かしたという。

ストリーバーは、この二人が「ビジター」だったのではないかと考えているようだ。

つづく

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