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スポーツは日本を元気にするのか、マーケティング視点で考察してみた

「スポーツは日本を元気にする」というフレーズを見聞きすることがありますが、みなさんはどう思いますか?

私はキレイゴトっぽくてあまり好きになれないフレーズです。これまでも災害時に「私たちのプレーが少しでもみなさんの勇気につながれば」という選手インタビューをよく聞きましたが、斜に構えて聞いていました。

ところがあるきっかけでその考えが変わるできごとがありました。今日は、私が身をもって感じた「パーセプションチェンジ」について書いてみたいと思います。

さて、コロナ禍です。多分に漏れず私も外出自粛でGWを終始自宅で過ごし、4月中も在宅勤務を余儀なくされていました。そのためテレビを見る時間が増えましたが、テレビ局も撮影ができないためか新しいコンテンツがどんどんなくなってきていました。
そんな中、GWの5/3に「神様に選ばれた試合」という番組を見たのです。

番組の構成は2本立て。
・被災地に届けたカズダンス 三浦知良 最も重い“ゴール”の真相
・東北楽天初の日本一!闘将星野仙一が涙、田中将大が激白した連投の真相」

2011年3月、東日本大震災から18日後のサッカー日本代表とJリーグ選抜によるチャリティーマッチと、大震災から2年後、東北初の日本一をかけたプロ野球日本シリーズ最終戦の2試合。その中の名場面の真相を紐解くという内容でした。

この2試合は当時私もテレビで観戦していて、よく憶えていました。
この番組を見つけた私は、在宅ストレスで面白いコンテンツを渇望していたこともあり、「おっ、見たいなこれ」とリアル視聴&録画オンしました。すると・・・

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心揺さぶられた~

そう、無茶苦茶面白かったんですよ。試合結果も見どころも知ってるんですけど、感動してしまいました。読後感、いや視聴後感って言うんですかね、なんかこうス―――っと視界がひらけたというか、ものすごくすっきりしたというか。さーて、俺もやろうかな、みたいな、ものすごく前向きな気持ちになったのです。
番組終了後の視聴者のTwitter投稿はこんな感じ。

番組を見ていない人にとっては、知らんがな、という話かもしれませんが、視聴者ツイートを見ても感動の声や前向きな声がいっぱいあって、みんな元気になってるなーって思いました。

俺も前向きで元気になってるし。。。

ん?んん?俺、元気もらってるやん!!!!!!!!

ちょっと気持ちの変化を整理してみます

番組を見終わって、スポーツは日本を元気にする気がしてきたぞ、なんで今までそう思えなかったのかと回想し始め、斜に構えるどころかピュアな感じで背筋が伸びていることに気づきました。

くだんのフレーズを好きじゃなかった私が、なぜ今回元気をもらったと実感できて、ポジティブに感じたのか、整理してみようと思います。

① 当事者だったから
3月末からここまで、コロナの影響で気づかないうちに私自身が沈んでいたのだと思います。在宅ストレスで面白いコンテンツを渇望していたっていうのもおそらくそういうことで。
かつての災害時は、被災したと言えるほどの当事者ではなく、かといって他人事というわけではないのですが、元気を奪われるところまでいってなかったのです。今回は元気を奪われるに至ったということですね。私も当事者だったのだと思います。

② 「諦めずに自分にできることをやる」が自分にも重ねられた
カズの方の話をします。カズは日本サッカーを世界の舞台へ導いた第一人者です。これまでの活躍や実績がすごいことは言うまでもありません。特に若い頃は大舞台になればなるほど輝く選手で、次への道を切り開くような試合で、その都度数々のゴールをあげてきました。

でもカズがすごいのはこれまでの実績ではなく、53歳の今も「諦めずに自分にできることをやり続けていること」なんだと思います。ただ53歳っていうのは超人。ちなみにカズはこの試合当時44歳。44歳でも充分超人ですけどね。

で、「神様に選ばれた試合」というのを紐解くと、「自分にできることをやり続けているカズのために、サッカーの神様があの状況(キーパーからのフィードを闘莉王が競り落とし、カズがキーパーと1対1になる状況)を用意した」と私は解釈しました。

あの状況、サッカー的に見てもなかなか奇跡的なんですよ。自陣から味方キーパーが近くに繋がずロングフィードする時点でマイボールを放棄していて、敵陣地でマイボールになったらラッキー、っていう賭けのプレーです。また、闘莉王が競った相手は当時の日本代表で一番空中戦の強い岩政で、闘莉王が競り勝つ可能性もあまり高くないですし、競り勝ったとしても闘莉王の落としたボールがあと1メートル長くても短くても、あるいはあと50センチ右でも左でも、あのシュートには繋がってないんですよね。

それがカズのところに転がってくるっていうのが神がかっていて。でもカズがそういう星の元に生まれたのではなくて、カズに神様が舞台を用意したという方がしっくりきます。そしてそれをゴールするところは、運とか神頼みとかではなく、練習の積み重ねで得られる技術、カズの実力です。

諦めずに自分にできることをやり続けるというのは言葉でいうほど簡単ではないです。それはカズを見ていたらよくわかりますし、自分の経験からでも大体わかっているものです。

一方で、自分にできることでいいんだと思えることはとても勇気づけられます。極端にハードルを上げる必要はないんだと思えることによって、よーし!自分も!と前向きになれるのです。

今回私は改めて、自分にできることをやるカズの姿にうたれ、自分もできることをやろうと前向きな気持ちになれたんだと思います。

③ 圧倒的な共感と一体感
震災から2年後、マーくんの熱投で初の日本一を飾ったあの試合はとにかく圧倒的な共感と一体感がありました。あんなことはもう2度と起こらないと思えるくらい。

・東北の復興とともに歩んだ楽天イーグルスはその年、初のパ・リーグ優勝を果たし、初の日本一をかけて日本シリーズを戦っていた。

・田中将大はシーズン24勝0敗という前人未到の成績でリーグ優勝に貢献、日本シリーズ第2戦でも完投勝利で無敗記録を続け、チームを勢いづかせた。

・3勝2敗で日本一に王手をかけた第6戦、田中将大が登板するもついに初黒星。翌年からメジャーリーグに挑戦すると噂されていた田中にとって、日本での最後の試合になると思われた。

・最終第7戦。前夜160球を完投した田中が前代未聞のベンチ入り。試合は3-0、楽天のリードで最終回を迎える。

もうね、スタジアム全体が、そしてテレビで観てるファンからファンでない人たちまで含めてみんなが、最後マーくんが出てきて抑えて勝つというストーリーを待ち望んでいるというか、一緒に描いているんですよ。

そのストーリーは選手やファンにとってみたら震災から始まって長い月日をかけて一緒に作ってきたからめちゃくちゃ重いし、フィクションと違って野球には嘘がないからさらに重みがあるし、そこに立ち会っているファンひとりひとりもストーリーの一部になっていて。

で、ついにマーくん登場。ファンキーモンキーベイビーズの「あとひとつ」の大合唱がはじまって、もうみんな号泣。そして最後の15球。苦しんでヒット2本打たれたものの、無失点に抑えて優勝決定。映画かよ。いや映画ではなくこれは完全にノンフィクション。映画を超えて人の心を動かしたと思います。

私は、今回もまた7年前と同じように感動してしまいました。みんなが望んだストーリーに共感と一体感を持って。リアルタイムじゃないのに、テレビの編集力ってすごいですね。

起こった出来事自体がそもそもすごくて感動的なのに、それを映像として記録し、当時は表面化していなかった前後の事実関係と因果関係を取材し、ストーリーを強固にして編集する。星野監督の心の変遷などがまさにそれでした。

嘘偽りや不必要な扇動があれば瞬時に興ざめすることもありますが、今回は作り手側の純粋な思いが見えるようで、作り手自身の感動体験を心から視聴者に届けたいという熱が伝わってきた気がします。

まとめ(パーセプションチェンジさせるにはここが大事!)

長文にお付き合いいただきありがとうございます。
私は今回スポーツ番組というコンテンツに、元気をもらい、「スポーツは日本を元気にする」に共感できるようになりました。カズやマーくんがすごすぎるからそりゃ感動するよな、と単純に片付けがちな話ですが、ここはマーケティングプロデューサーらしく、最後のまとめとして、パーセプションチェンジが起こる重要ポイントを整理して締めたいと思います。

●WHO(ターゲットは誰なのか)は大事だが、メッセージやコンテンツを届ける『タイミング』『ターゲットのコンディション』がさらに大事。

WHAT(何を届けるか。メッセージやコンテンツ)は大事だが、それがターゲットに『自分ゴト化されるか』がさらに大事。

WHATは大事だが、それを作るにあたって『嘘偽りがないこと』『作り手に愛と情熱があること』がさらに大事。

人の心を動かすのは共感できて自分ゴト化できるストーリーです。私はカズのストーリーをみて「しんどいけど自分にできることからやろう」と自分ゴト化することができました。

人の心はそのストーリーを欲している状況であればあるほど動きます。私はコロナの影響で元気をなくしていたコロナ当事者でした。元気になれるストーリーをひそかに欲している状況だったからこそ、普段では起きない心の変化が生まれました。

また、そのストーリーに嘘偽りがあったり、作り手の愛や情熱がなかったりすれば、すぐに私はそれを見抜いてしまい心揺さぶられることはなかったでしょう。

身をもってパーセプションチェンジを経験し、そんなことを確信した、いい機会でした。以上、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

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