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和レゲエ数珠繋ぎ-第34回- Oja

関東圏在住、Oja (オジャ)と呼ばれてます。
都内にて “ワモノミクス”  “Lovers Rock 2nd tide” 等、DJイベントを開催。
和モノ、レゲエ意外も雑食的音楽志向。
@ojadaviola にて他にも気ままなレビュー有り。気が向けば是非お立ち寄り下さい。

紹介アーティスト   根津甚八
紹介曲    火男  (アルバム全体を推奨)
1982年 発売


定番中の定盤。現在ネットでも数多くレビューされているこの名盤。今回はあえてアルバム全体を深く掘り下げて、何故凄いのか?謎解き。日本語レゲエへの意気込みは制作の過程の舞台裏に。

プロデュースも務めたチト河内を中心に、その他の演奏布陣もアルバム制作前年に活動休止した、トランザムのメンバーがベース。レゲエも熟す日本布陣でも充分なところに、予算を注ぎ込んだ伝説の南仏 Miraval Studios録音( Sting,, Sade, UB40など数々の録音、ブラッド・ピッドの再建で現在も存続する名門 ) によって更に凄い布陣に。

■ 手練れのバック陣
海外制作で目を引くキー・パーソンが2人。
まずはドラムス担当の Richard Bailey。兄と共に アフロ・ロック/ファンクの OSIBISA で活動始動。以後、セッション・ドラマーとしても活動した豊富なジャンルの功績の中で、密かにレゲエの仕事でも名を記している。10代で Bob Marley & The Wailers のレコーディングやツアーに参加したのを皮切りに、絶頂期の Steel Pulse との仕事も。意外な所では、兄の Robert BaileyNow GenerationGeoffrey Chung と共にアレンジャーとして参加したLOVERSの名盤、Sharon Forresterの「SHARON」この繊細なアルバムでも4曲程ドラムを担当している。
もう1人はベースを担当した クマ原田。2人は
この『火男』制作時には 英国にて The Breakfast Band のメンバー。それ以前に多国籍大所帯の Gonzalez に 参加していた経歴なども一緒。 奇しくも クマ原田 在籍時の Gonzalez もバンド全体で Bob & The Wailers のツアーに参加している。
レゲエを主戦場としない2人とは言えど、『火男』制作時には、本格的経験値は充分だったか? 歌謡曲風味ではなく、ジャマイカの標準的流儀にも依存していない『火男』全般で感じられる独特なアフタービートは、この2人のキー・パーソンが奏でる音をベースに成立していると言って過言ではない。

■ 独特なリディム
そもそも、昭和歌謡の和レゲエの範疇に入る楽曲は、当時の貧困な情報の中で行き着いたオーソドックスなレゲエ・リディムのパターンを踏襲している場合が多いかと。偶拍数に入るギター・カッティングと3泊目に入るドラム・アクセントの基礎的パターン。この両方かいずれかを強調したリディムに、かつシンコペーションも意識する事で、異様に音の隙間を感じるアレンジが多い。
ところが、この『火男』で音の決め手なっているのは、もう一つ大切な要素となる太くうねるベースライン。録音でもベース音を前面に立てた、地を這う様な印象の重低音域により、隙間を感じないグルーヴを形成。それでいて、不足するレゲエ・リディム特有の刻みは、不思議と音量の奥に潜んだギターやキーボードのアフタービート・アクセントでしっかり補われている。其々役割が計算しつくされたアレンジ。
一方、叩いた音の粒立ちよりも、ベースの重低音と渾然一体となっている印象のドラム。高音部と低音部を、遠くにあるいは近目に、聴かせたい部位毎にメリハリを感じる音。恐らく収音マイクの配置などにも充分な技法が凝らされ秀逸なミキシングがされているかと。
82年制作当時を考えると、一般的に日本人に身についている意識 “ヨイショ” のリディム感 = クワを振り降ろす時の様な頭泊集中のダウンビート・リディム ( 他、宴会の揉み手ビート等 ) では、到底たどり着き難いグルーヴ感を感じるアルバム。( むしろこの意識が音に隙間のある踏襲パターンを産むのか? )
最も隙間だらけの裏拍追随に日本語が乗った時の意外性。この和レゲエのエセ感も決して捨てがたい。 こちらは、一風変わった形式の音頭的解釈にも通じるのか? ホンモノで無くても、リズム歌謡ならではの愛嬌には特別感が。

■ アルバム全体で和レゲエ
完璧すぎない事を愛嬌とするなら、このアルバムもボーカルの音程は危うく点睛を欠いている。それでも収録曲殆どが和レゲエの魅力溢れる珍品。野太いビートを貫いた粒揃いな楽曲に殺られる。どれが好みかは個人差あるかと思うので、気になった方はお試しを。実際入手しやすい廉価盤範疇。
シングルカットされた古典カバー曲「上海帰りのリル」が意外にもレゲエ・アレンジでリニューアルされきた事の再認識。 地味な楽曲ながら、これをレゲエに落とし混んでくるこだわりが、このアルバムの非凡さ。
根津甚八は他のアルバム『ル・ピエロ』『PLAY IT AGAIN』等でもレゲエを取り上げている。音の完成度は『火男』を超えてないものの、個性派役者のレゲエへの熱中具合はひと時では無かった様で…。

収録曲
A1,TAXI-DRIVER
A2,MACHINE
A3,野良犬 PART II
A4,南回帰船
A5,火男-HIOTOKO
B1,宵待ち
B2,上海帰りのリル
B3,GINKA
B4,ACTRESS

最後に今回の投稿、非常に意気に感じて参加させてもらいました。 拘っている人達の共感が増幅するプロジェクトが良いですね。
和レゲエ数珠繋ぎ』きっと末永く連鎖する名曲話の数々。 これからも愛読させてもらいます。/ Oja

♨︎
Ojaさん、ありがとうございました!
しっかり解説頂き参考になります。

もう私がなにをいうまでもありませんが、探検隊目線での共有したい情報を3点書いて終わります。

1つ目は第33回から続くサンプリングレゲエの観点。

前述のシングルカットされた「上海帰りのリル」のイントロは、日本のヒップホップアーティスト「ECD」の元ネタに使用されていること。

楽曲は、16枚目のアルバム「FJCD-015」収録の「メッセージ・イン・ア・ボトル
まんまループなので聴き比べるとおもしろいです。
※動画はなかったのですが下記リンクの視聴をどうぞ。
→このリンク先の9曲目

2つ目は
その「上海帰りのリル」の裏面であるB-SIDEには上田正樹作曲の「しゃんそん」が収録されていてお得感が高いこと。

アルバム・火男には未収録。

よく売っています

3つ目は作詞作曲を担当しているメンバーと和レゲエについて。

第0回で例に挙げた泉谷しげるや、第4回BORO和レゲエはお馴染みの河内兄弟など、重要人物たちが担当。ここまでの数珠繋ぎを見て、クレジットを眺めると納得のメンバーです。回を増すごとにキーワードが揃ってきました。今後の数珠繋ぎにもご期待ください!

そして最後に余談ですが私、根津甚八と同じ誕生日です。

♨︎
今年の更新はこれで最後となります。

関わっていただいている皆さま、読んでいただいている皆さま、本当にありがとうございました。

来年もマイペースに更新します!

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