『ナナメの夕暮れ』若林正恭

私は久しぶりにこの手の本を読んだ。

「この手の本」というのは、いわゆる芸能人が書くような自己啓発的な内容、ウケを狙った内容、自らのセンスを見せつけるような内容のことである。

もちろん、そうではないから読後感を書こうとしているのだが、こうなったにはきっかけがある。

私は先日、羽生善治の『決断力』を読んだ。なんだ、こういうのは飽き飽きするな、と思いながら読んでみたのだが、いかんせん、素晴らしいことを書いている。簡単に言えば「直感」と「決断力」についてであるが、深くは入らない。

しかし、彼の将棋に対する心眼は間違いなく、物事を捉えている。もちろん、彼は書き手として生計を立てているのではないから、そのことは留意すべきではあるが中々、深いことを言っている。そんなことがあったので、「この手の本」でも読んでみようかと思い、私がよく聞くオールナイトニッポンのパーソナリティであるオードリーの若林を指名した。

もちろん、彼も書き手のプロではない。しかし、彼が現実に直面した肉迫は伝わるであろう。彼は素直である。我々はそのまま文を読めばよい。もちろん「簡単」に読めるし、すぐに読み終わる。

彼の文をどの程度読み取るか人によるだろうが、一つ小林秀雄がいいことを言っている。読書をするにあたり、文から人を見よというのだ。彼は「全集を読め」というのだが、その分、若林は読みやすかっただろう。ラジオで10年以上素直であった彼を、文で見るだけなのだから。

彼をありていに「共感する」などと言わない方がよいのだろう。共感というのは聞こえはいいが、彼自身を捨象することになる。

むろん、年代にとって読み方は異なる。彼に救われる人も間違いなくいるだろう。ただ、「正しく」読むという工夫、これは読書の姿勢として忘れるべきでないと、小林秀雄は言っている。


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