見出し画像

テン年代のエロゲを振り返る(2015年編)

※本記事はネタバレに配慮していません

2015年のオタク界は二次元アイドル+ソシャゲ―ブームの真っただ中にあった。特にアイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージだったりガールフレンド(♪)だったり3Dモデルを踊らせるようなハイクオリティなスマホゲームがこの時期ぐらいから徐々に増え始めている。

エロゲ的文脈でいえば、スマホ向けタイトルとしてFate/Grand Order(FGO)の投入とサクラノ詩の発売が二大ニュースであろうか。

2015年は高品質なスマホゲームが生まれたことによってエロゲ業界としてはさらなる苦境に立たされた年でもあるのだろう。しかし「サクラノ詩」のような意欲作も発売されると同時に、「冴えない彼女の育てかた」やFGOなどエロゲ文化を下敷きにした全年齢作品が盛り上がってきた年でもある。ある種ようやく長い「ゼロ年代」が終わり新たなエロゲムーブメントの萌芽が見られるそんな年でもあるように思える。

伝説の延期ゲーサクラノ詩発売

少なくとも10年越しのプロジェクトが再開したことは多くのエロゲファンに夢と希望を与えた。太陽の子、霊長流離オクルトゥム、末期少女病…。未発売やお蔵入りになったエロゲは数知れない。サクラノ詩も音沙汰のないゲームのひとつとして良く挙げられるゲームであり、本来の発売予定は2004年春であったが、延期を繰り返し2009年に体験版が出たものの、その後はSCA_DI氏が作っているような発言を繰り返すものの、あまり具体的な成果は出てきておらず、少なからぬ人がもう発売されないと思っていたであろう。

しかし2014年にはトレーラーサイトが作られ、2015年7月24日の発売が決定された。発売日直前にスクリプターが募集され、2015年9月25日さらなる延期をするといったトラブルに見舞われるものの無事に発売された

内容については多くの人が愛を込めた長文を綴っているのでここでは詳細を割愛するが、創作者が作品をつくり美を求める中で、幸福というものの在り方が探求される作品であり、長い製作期間に相応しい高い評価を得た。

恋xシンアイ彼女大炎上

おそらく2015年のエロゲ界におけるニュースとして大きかったのは恋xシンアイ彼女の炎上事件であったと思う。本作はUs;Trackによる処女作であり、「本企画は、極めて王道で恥ずかしいほどのド直球」とのキャッチコピー、人気絵師を起用した品質の高いビジュアルなどから王道的な萌えゲーを期待されていた。

炎上した理由はヒロインの一人姫野星奏のルートである。ルートの概要を説明すると、作曲家である星奏は、作曲に殉じるために、二回主人公の元から去り、そのまま再会せずに終わるという内容だ。主人公はヒロインが去ったがゆえに小説を書くことができる、また最後には再会を示唆するようなシーンが入るなどバッドエンドとは言えないつくりであるが、「処女と結ばれ生涯幸せに暮らすゲーム」を望むエロゲーマーをだまし討ちするような形となったことからかなりの非難を浴びた。ライターの新島夕も若干謝罪をするような形になってしまった。

創作家を題材ににするという観点ではサクラノ詩とも似た設定である本作であるが、評価は芳しくなかったようだ。

るーすぼーい久々の新作

あかべぇそふと2からは、G線上の魔王以来のるーすぼーい氏の新作「ぼくの一人戦争」が発売された。ストーリーとしては「会」と呼ばれる儀式のように巻き込まれた主人公が、「会」の呪いの力で、主人公は人間関係を破壊されることを通し、真剣に人間に向かい合うというストーリーであり、るーすぼーい氏らしいヒューマンドラマである。ストーリーはメインヒロインの一本道となっていた。普通のエロゲには出てこないであろう身体障碍者であったり、露骨に育ちの悪さのようなものを感じさせる人物が出てくるなどヒューマンドラマとしての厚みを持った新奇な感じのするゲームであったが、「会」にまつわる設定の不足などからあまり評価を受けなかった。

クリアできない恋想リレーション

個人的に印象に残っているのはLump of Sugarより発売された『恋想リレーション』だろうか。「妄想検索エンジン Doosle」というシステムを作った。具体的にはテキスト中にでてくる単語を保存し、それが選択の段階になると選択肢として使うことができるまた、単語保存の状態によって新たな選択肢が使えるといった仕様だが、ジャンプで攻略不可だったり複雑な分岐があるためあまりにもクリア出来ないことが話題になり結局パッチが出ることとなった

なお一部界隈で用いられるネットミームを使用したことから微妙にニコニコ動画などでも話題になっていた。あとOPが良いので見て欲しい。

ゆずソフト堅調

テン年代で常に強いゆずソフトだったが、『サノバウィッチ 』は若いファンをさらに増やした一作だったように思える。『サノバウィッチ』はメインヒロインがオナニーをしているところを目撃するところを導入部分に持ってくるなど、エロゲーらしいコメディ要素を強めた作品であり、一部キャラクターがネットミーム化して人気となっている。フィギュアも複数体制作されており、ゆずソフトの中でも人気が高いように見える。

↓なぜかサノバウィッチのキャラクターが競技プログラミングをやるなりきりbotなども登場したりしている。

過去の作品を参照する作品群

2015年はリバイバルっぽいものも多い年だった。

『すみれ』は主人公がねこねこソフトの過去作「みずいろ」などを含めたギャルゲーをプレイしたことがある社会人という設定の作品である。作中におけるオンラインゲームはギャルゲーをモチーフにしているという設定で主人公とヒロインたちはそのオンラインゲームを通して知り合っていく。そのオンラインゲームではギャルゲーが鑑賞できるという設定になっており、、実際に作中で重要な意味を持つ「みずいろ」の日和ルートがまるまるプレイできる仕様となっている。

なお、スミレの前日譚にあたり、ナルキッソスの舞台となったサナトリウムを舞台にした、ナルキッソス -スミレ-も冬コミで頒布された。あまりに名作なので、プレイしてほしい。

またラALICE SOFTからは1991年に発売された「Rance III -リーザス陥落- 」をリメイクした「ランス03 リーザス陥落」が発売された。本作はランスシリーズとして初めてボイスを起用したことで話題になった。

Keyからは2010年に放映されたアニメのゲーム化である『Angel Beats! -1st beat-』が発売された。6部作予定で主要メンバー全てに対して順に焦点を当て行くはずだったが2020年現在2部作以降は出ていない。

内容よりも、プロテクトを使って違法コピー品を使った人間を騙したことが話題になっていた気がする。

予約特典のMillion Starはいい曲。

その他

カスタムメイド3D2は2015年に発売され現在に至るまで拡張パックが発売されていて、3Dエロゲとしてはかなり長寿の部類に入るだろう。2018年に公開され話題となった「カスタムキャスト」のベースにもなっている。

その他に評価が高いのは二人の主人公を通した能力バトル群像劇『ソーサリージョーカーズ 』、3部作の『時計仕掛けのレイライン』シリーズの最終作『時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-』、ALICE SOFTの新ラインであるファンタジーRPG「イブニクル」、Liar soft の『フェアリーテイル・レクイエム 』、ロープラながらも美しいグラフィックと読み応えのあるテキストを提供する『美少女万華鏡 -神が造りたもうた少女たち- 』、ゆずソフト同様若いファンが増えたPULLTOPの『見上げてごらん、夜空の星を』などがあげられるだろうか。

同人ゲームではDLSiteのランキングでも未だにトップの売り上げを誇っている『奴隷との生活』が発売され、話題になった。

全年齢作品の中ではアニメ化もした『シュヴァルツェスマーケン 紅血の紋章』、『STEINS;GATE 0』などが人気が高い。どちらも、スピンオフ作品であるが、安定した人気を見せていた。


クラウドファンディングブームの光と闇

2014年ぐらいから徐々にブームになっていたクラウドファンディングだが、この時期になるとだんだんとオタク界隈でも根付いていき調達額も大きなものとなってきていた。例えば、Dies iraeのアニメ化プロジェクトのクラウドファンディングが9600万円を集めたことなどは印象的だ。

他にもナルキッソスの10周年クラウドファンディングをはじめとしてSekaiProjectが翻訳にかなり本腰を入れ始めた時期でもある。最近はクラウドファンディングなしでの翻訳リリースも増えてきているが、2015年当時はクラウドファンディングで資金を募ってから翻訳というのが一つの定石であった。

クリスマスティナの体験版が中国で話題になったりしているようだが


ねこねこソフト(片岡とも?)の世界進出が始まったのはこの年といえるであろう。ハリウッドを一時期目指していたとも先生がこのような形で世界進出するのはなかなか印象深いものがある。

英語リリースがすっかりと定番になったFrontWingも2014年12月にクラウドファンディングを行って、即座に目標を達成していた。

一方でクラウドファンディングの持つ危うさが露呈したのが「猫撫ディストーション恋愛事象のデッドエンド」のクラウドファンディングであろうか。

「猫撫ディストーション恋愛事象のデッドエンド」は2010年に発売されたゲーム「猫撫ディストーション」の3つ目のFDに当たる作品であり、ミニマム2500円の支援によって製品がもらえるクラウドファンディングを行い、300蔓延ほどの資金を集めた。しかし発送された製品は10分ほどで終わる内容でCG数も少なく。特典の発送に際してもトラブルがあったようで、軽い炎上状態となっていた。なお10万円の支援によって「次回作シリーズに意見を反映する権利、次回作のベータ版を体験する権利が与えられたのだが、WHITE SOFTは次回作を作成せずに解散している。

この事件は、続々とプロジェクトを成功させつつあったクラウドファンディングという手法に対する信頼性に対して疑念を抱かせたであろう。

ソシャゲブームとFGO爆誕

ソシャゲもスマホの普及とともにアプリゲームとしてクオリティが上がっていく。ここに爆誕するのが今を時めくソーシャルゲームFate Grand Orderである。サービス開始初期は延々とメンテナンスをやっており稼働時間よりもメンテナンス時間が長いことが話題になった。多くの人間はこの段階で数多の泡沫ソシャゲを想像したであろうが、その後は順調にファンを増やしていき2019年には711億円を売り上げるなどソーシャルゲーム界において頂点に君臨する作品となっている。とくに2016年12月に配信された第一部の終章は高く評価された。FGO以降はソシャゲにおいてもシナリオに一定の重要性が付与されたとの評価を受けることがある。

他にもゆずソフトからスマートフォンゲーム『カコ☆タマ』が稼働したり、ageが「マブラヴ オルタネイティヴ ネクストアンサー」を稼働開始したりしている。


2015年はかつてのエロゲーメーカーたちが本格的にソーシャルゲームやモバイルゲームに参入し始めた年であったといえよう。

スマホ向けでいうとどちらかというとチュンソフトなどのノベルゲームの系譜に乗るであろうが「レイジングループ」はスマホを最初の発売プラットフォームとし高い評価を受けている稀有なノベルゲームである。


アニメ

「うたわれるもの偽りの仮面」、及びにCharlotteという奇しくも葉鍵の二台巨頭による、非エロゲ原作なアニメが作られた。偽りの仮面については原作からの多少の改変はあったものの、主題歌以外はあまり話題にならずに終わった印象がある。


Charlotteについては久々の麻枝准の新作であり、能力バトル的要素を押し出した学園もの。本作ヒロインの友利奈緒は絶大な人気を誇った。(翌年には友利奈緒のコスプレをした4人組がセキュリティに競技会に出て文部科学大臣賞を受賞するなどの珍事も起きた。https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1602/02/news132.html

一方で、野球・バンドなど麻枝准作品のお約束的な部分にかなり時間を割いたのにもかかわらず、設定の根幹に見える部分に関してあまり尺を咲かなかったことが批判を浴び、麻枝准作品らしく極めて意見の分かれる作品となっていた。

エロゲ原作ではないが、丸戸史明が原作であり、ギャルゲーを作る話である「冴えない彼女の育てかた」のアニメ化や、STEINS;GATEのシナリオライターである林直孝氏脚本のオリジナルアニメ「プラスティック・メモリーズ」などもこの年。

音楽

花咲ワークスプリングのOPが映像含めてとても良かったり、全体的ムービーにの品質の向上が目に見えてきた年でもあるように思える。

他にも「すみれ」の「Sleeping Pretend」や妹のセイイキの「ホントノトコロ」は名曲。fengはつぶれてしまったが…。

「恋せよ乙女! 」で米倉千尋がエロゲソングを初めて歌ったことなども印象的。

その他

・Extra Game Garden(EGG) 2015が開催。このコンピレーションCDが良い。
・西沢はぐみ引退。
・ネットフリックスが日本でサービス展開開始。ストリーミングがかなり一般化してくる。オタクたちもかなりdアニメストアなどを使うようになっていたのではないだろうか。
・暁の護衛やレミニセンスのコンビで知られるトモセシュンサクx衣笠彰梧によるライトノベルようこそ実力至上主義の教室へが刊行される。

https://www.bbc.com/news/magazine-30698640 日本の二次元ポルノを問題視したBBCの報道が話題になる。画像に映っているのは「ここから夏のイノセンス!」。

・完全に個人の思い出話だが、「美少女ゲームとはなんだったのか
──『AIR』発売から15年、萌えと批評を総括する徹底討議
」が開催された。往年のオタクたちが東浩紀と徹夜で『AIR』をプレイするというかなり気持ちが悪い(誉め言葉)イベントだった。このイベントがきっかけでtwitterアカウントを作った覚えがある。


※ヘッダー画像はRyo FUKAsawaさんのものをクリエイティブコモンズライセンスに基づいて、使用させていただきました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?