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テン年代のエロゲを振り返る(2016年編)

2010年に入ってからひたすらエロゲ業界は衰退を続けてきたが、2016年はエロゲ業界が下げどまった年として語られることも多い。「歴史に残る名作」として知られるような作品はない一方で、新興メーカー、新しい作風、新しいファン層が着実に育っていた時期でもあろう。

スマホとの共存を目指すエロゲ業界

2016年にもなるとスマホゲームはもはやオタク文化の中心といってもいい状況であり、エロゲ業界はスマホとの共存を求められていた。一方でGoogle Play StoreやAppStoreでは直接エロゲーを売ることは不可能であった。またストア経由でないアプリのインストールを認めているAndoroidでも、ストア外のアプリをインストールすることにはセキュリティ上の懸念もあり移植作はそれほど大きな存在感がなかった。実際、Amazon、楽天など大手IT企業は独自のアプリ市場を作成したりしていたが、多くが撤退してしまった。

スマホ向けのリリースとして、全年齢版の作品の移植はいくつか行わているが、スマホをターゲットとして新作がリリースすることはほとんどなかった。強いて言うなら天色アイルノーツの『天色*時計』などの時計アプリ、『どこでもアマツツミ』などのカメラアプリは存在していたがこれらはゲームとは言い難いだろう。

しかしテン年代初頭には10パーセントを切っていたスマホの普及率は2016年ともなると70%を超えており、コンテンツ業界は対応をせまられ始めていた。その結果としてか、2016年ぐらいからはエロゲメーカーも単なる移植ではないスマホ対応を意識し始めた戦略を取り始めた。

例えば、暁WORKSの『緋のない所に烟は立たない』はライトビジュアルノベルと銘打ちライトノベル一冊分程度のシナリオのノベルゲームをAndoroidに向けて無料リリースした作品である。この作品は後にリリースされるフルプライスのエロゲー『緋のない所に烟は立たない -緋修離と一蓮托生の女たち-』の序章に当たっており、Andoroid版はある種の体験版のような役割を担っていた。

Andoroidで体験版を配布するという手法は同じ年にはまどソフトの『ワガママハイスペック』やAugustの『千の刃濤、桃花染の皇姫 』などでも採用されている。

『千の刃濤、桃花染の皇姫 』については複数デバイス間でのセーブの連携を可能にするオンラインセーブ機能を付けたうえで、Andoroid版を製品版に付属させた。ただしAndoroid版では一部演出を簡略化し、さらにAndoroid版単体での販売はしないなど、あくまでプレイ用のサブ端末という扱いになっている。

一方で、ほぼほぼ失敗続きに思えた。エロゲメーカーのソーシャルゲーム参入に伴う成功例も見えるようになってきた。

特に『Fate/Grand Order』の成功には目を見張るものがある。本作は発売当初こそメンテナンスが頻発することで数多のサービス終了したソーシャルゲーム同様に先行きを不安視されていたが、現実の時間とストーリーを連動させた、第一部の完結編は高い評価を得た。そしてその後も支持を拡大し世界有数の売り上げを誇るゲームとなっている。

BLブランドを持っていたニトロプラスによる『刀剣乱舞』のサービス開始も2016年であり、こちらも女性層を中心に一大ムーブメントを作り出した。

一方でうまくいかった例も多数存在しており、実際2016年には『新訳闘神都市』がサービス終了していたり、エロゲ原作でないもののKeyの『Angel Beats!-Operation Wars-』もサービス終了していたりする。2016年にサービス開始した『蒼の彼方のフォーリズム-ETERNAL SKY-』も1年7か月でサービス終了してしまった。



新ブランドの勃興

冒頭でも述べたように、2016年は新ブランドが勃興してきた時期でもある。今までは新ブランドといっても既存のクリエイターの移動再編成的なケースが多かったが、同人出身であったり今まで市場に居なかったクリエイターを経由したヒット作が2016年には数多く出た。

例えばHARUKAZEは、『Humanity』などを作成したシナリオライターはとが2013年に創設したブランドであるが、その2作目にあたる『ノラと皇女と野良猫ハート』はテンポの良い会話劇を通して描かれる暖かいヒューマンドラマ、魅力的なグラフィックがあいまって人気を博し、続編やショートアニメの作成も行われた。

まどソフトの三作目にあたる『ワガママハイスペック』も萌えゲーとして評価が高い。5分のショートアニメやコラボカフェなどを通した積極的な宣伝が目についた作品でもある。

新ブランドRASKの『Re:LieF   ~親愛なるあなたへ~』も同人サークルを基に突如現れた新ブランドながら、パッケージ版がプレミア化するほどの大ヒットを飛ばした。ストーリーは社会人の学生やり直しものにSFを絡めたもので、高齢化するエロゲーマーの心を良くとらえたように思える。ビジュアル面でもにクロノミツキ氏の原画は独特で、彩色もエロゲ業界にはない重厚な感じで目を引く。

(余談だが2016年には『Relife』という、これまた社会人の主人公が学生生活をやり直すアニメがやっており、たまに混同される。このような学生生活やり直しものが流行るということに、ハルヒぐらいから始まった萌アニメブームの世代の高齢化を感じなくもない)

また若手ブランドLoseの『まいてつ』も2020年現在も末永く愛されているゲームである。鉄道知識や地域振興を主体にした新規性のある展開は、既存のエロゲーファンだけでなく鉄道ファンに対しても広く受け入れられた。システムとしてはE-moteを全面的に採用して、良く動くことが特徴。

聖地とコラボするイベントも行われており、リアルイベントを重視する若いオタクの需要をうまく取り込んでいたように思える。一方でエロゲというセンシティブな題材故にコラボには問題が起こることもあり、『くま川鉄道応援切符』のコラボの際には販売中止となる事件も起こった。

このような事件があったとはいえ、全年齢版がSwitch、PS4、Steamでもリリース、2020年においても『レエル・ロマネスク』が『まいてつ』と世界観を共有するアニメとして放映されるなど長く愛されている作品である。(残念ながらLoseは解散してしまうがそれはまた別の話である)

マーケティング的にもDMMなどではDL販売の顔的存在になっており、広告などによく登場する。遊び放題の目玉作品だったほかにも、500円など大胆な値引きもしていたため結構な人が所持している作品でもあろう。とりあえず「レイル・ロマネスク」は名曲だと思う。


こちらは新ブランドとは言い難いかもしれないが、ぱれっとクオリアから発売した『オトメ*ドメイン』などもミドルプライス帯の中では注目を集めた。本作はいわゆるお嬢様学園潜入物の男の娘もので、完璧な女装主人公である飛鳥湊が、少し残念なお嬢様をが支え、問題を解決していくというストーリー。完璧系主人公でかつ、ヒロインと並び立つ美貌を備えた湊くんは男性ながら抱き枕カバーも発売されるなど、カルト的人気を誇っている。

また近年になって『白昼夢の青写真』で注目を浴びたLaplacianの処女作『キミトユメミシ』も2016年の発売である。

『LAMUNATION!』はVisual Art's の新ブランドWhite Powderから発売された作品。作品は人気の原画家を採用したことで、それなりに話題となり売れたようだが、洋画パロディの過激なギャグの連発と、なんでもありともいえるしっちゃかかめっちゃかともいえるほどのシュールなシナリオは人を選ぶものであり、ライターのけっぽしによる個性的(?)な言動が話題を集めたこともあって、軽く炎上を起こした。

一方でグラフィックデザインやムービー作成などの経験を持っていたけっぽしのデザインセンスはエロゲ業界において一定のオリジナリティを持っており、OPムービー・グッズなどは割と好評であった。

実際、発売当初は不評に見えた『LAMUNATION!』は翻訳もされ、次作『キラキラモンスターズ』も発売されている。このような事実から言って、旧来のファン層とは異なったところで独特の立ち位置を築きつつあるのかもしれない。

『Lamunation!』に限らずこの時期に入ってきたブランドはスマホなどを契機として流行り始めたフラットデザイン的な意匠をうまく取り入れることに成功しているように思える。例えばこれらのメーカーのホームページは旧来のメーカーと比べるとかなりよくできていることが多い。(最近でも活動しているメーカーはかなりリニューアルされたが、かつてはFlashなどに依存したコンテンツも多かったり、やや古臭さを感じるデザインのものが多かった。)

White Powderの炎上も先進的にSNS戦略を展開した副作用という側面もあるだろう。(Webマーケティング業界では、「悪名は無名に勝る」という側面もあり、炎上はインプレッションを増やす意味でむしろウェルカムだという話も聞く。)


AKABEiSOFT2プロテクト事件

エロゲーは違法アップロード、ダウンロード行為(割れ行為)による被害を多く受けてきた。メーカーの中にはコピープロテクトを導入するメーカーもあったが、プロテクトは比較的に破られてしまうことが多く、むしろ正規品を購入したユーザーに対して、プロテクトの誤爆を起こしてしまう可能性があること、ウェブ認証の場合サービスの継続性が疑われること、また中古での売買が難しくなることなどの理由から、あまりユーザーからは歓迎されない一面も未だにある。

AKABEiSOFT2の代表、三舛啓は割れ行為に厳しい立場をとっており、幾度となく新方式のプロテクトを導入してきたが、そのたびにプロテクトを破られてきた。そして2016年、海外製ゲームにも搭載され、ハッカーも一度はクラックを諦めたDenuvo社製の強力なプロテクトを導入することを検討したことが話題を呼んだ。

具体的には「PURELY×CATION」に導入されたが、こちらはオープンソースの吉里吉里ベースだったためクラックされてしまったようだ。

(そもそも使われていなかったとの真偽不明の情報がある。Denuvo社製のプロテクトははデバッガーをアタッチすることを防ぐなど解析行為に対する防御手段を施すことで強力なプロテクトとなっているはずなので、たしかに下のツイートが正しければ、ゲーム本体がDenuvoで保護されていないという可能性もある。)


またPlayDRMを導入したあかべぇそふとすりぃから発売された『手垢塗れの天使』は発売から1週間程度クラックされることはなく、一度は三舛氏は勝利宣言を出すまでに至ったが、最終的にはクラックされてしまった。

さらにはクラックの有無に自身の進退をかけ、最終的には代表取締役を辞任するといった騒動にも発展した。


2020年現在においても絶対割られないようなプロテクトというのは存在していないようだが、オンラインゲームの浸透に伴って割れ行為自体が業界の収益を損なう問題行為として注目を集めることは減った。現在もフルプライスのエロゲーでパッケージ版からのインストールに対して、ウェブ認証を入れているメーカーは少ない。

一方でSteam,DMM、DLsiteなどプラットフォーム経由のDLゲームの存在からウェブ認証自体は普及しつつあるように見える。またクラウド上でゲームをプレイするサービス(OOParts、DMM)も登場しており、これはそもそも原理的に割れ行為が不可能になっている。

Steam上での展開増加

2016年頃から、Steam上でビジュアルノベルが翻訳され幅広く売られるようになってきた。

その中でもKeyは2015年からクラウドファンディングを利用し、大きなリスクの伴う長大なゲームの翻訳版をリリースすることに成功してきた。例えばCLANNAD Steam Editionはクラウドファンディングを資金源にして翻訳を行っている。さらに2016年には15周年記念作と銘打って発表され長らく音沙汰のなかった『Harmonia』がSteam上で先行販売された。Steam版は英語版のみの販売であり日本語版が発売されるのは、同年のコミックマーケット91であった。DL販売や海外販売に対して実験的な試みを行っている様が伺える。

この年にはminoriからは『すぴぱら』、FrontWingからは『グリザイアの楽園』他には『ルートダブル』『ファタモルガーナの館』などが翻訳されリリースされている。

現在は様々なメーカーがSteam上での展開を行っているが、2016年ぐらいは大きな転換点であったように思える。

その他

・2016年3月末を以て老舗エロゲーメーカーElfの公式サイトが閉鎖した。ただし、DMMが版権を買い取った結果、2021年になって『同級生』のリメイクが作られるなど、コンテンツ自体は生きながらえている。また『BALDR FORCE EXE』などの移植でも知られるアルケミストも破産した。

・アニメ業界的には『君の名は』の大ヒットにより新海誠が一躍時の人となったことが大きなニュースとして挙げられるかもしれない。新海はエロゲのOPを作っていたことでも知られているが、もともとゲーム業界の人間にあり、エロゲ業界の人間と形容するのは誤りであろう。とはいえ新海自身も「気持ち的にも技術的にも自作・minori作品間には相互にフィードバックがあ」ったと書いており、エロゲに関わった人間がメジャー化していく一例としては挙げられるだろう。

・2016年発売予定だった『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO
』のリメイク版の発売は2017年に延期した。

・ぱれっとの『9-nine-』シリーズやKeyの新作『Summer Pockets』のティザーサイト公開などのイベントも2016年。

・BALDRシリーズの正統続編である『BALDR HEART』『BALDR HEART EXE』が発売。個人的に滅茶苦茶やっていた。

・エロゲソングのオムニバスライブ『EGG -Extra Games Garden 2016-』が開催。アンソロのCDの収録曲が名曲ぞろいなのでおすすめ。

・佐藤ひろ美が歌手を引退。

・ゲームをスマホから取り戻してくれるはずだった『うたわれるもの 二人の白皇』が発売。2000年に発売した『うたわれるもの』の完結作として堂々としたセールスと評価を得た。なお2019年には『うたわれるもの』のソシャゲの作成が決定しており、ゲームをスマホから取り戻すことには残念ながらつながらなかった。

・『Rewrite+』が発売した。『Rewrite』と『Rewrite Harvest festa!』をセットにしたほか、本編Rewriteに対して、演出強化、EDに対する加筆が行われた。そのほかにもTVアニメ『Rewrite』の1stシーズンが放映。アニメオリジナルの「篝ルート」に基づく進行となった。評価はあまりされていないように思えるが、アニメをきっかけにファンになったとの声も聞かれる。

・マブラヴシリーズのアニメ『シュヴァルツェスマーケン』が放映し、ゲーム版も発売。『シュヴァルツェスマーケン』というドイツ語がおかしいのではないかとやや炎上(?)した。

・『カタハネ』のリマスター版が発売。メーカー倒産に伴い名作として知られながらも長らく入手困難であったが、手軽に入手できるようになった(DL版やメガストア版があったため入手困難ではなかった。サウンドトラックはやや入手困難だったが、この年の再発売で現在は入手が容易になっている。)。百合ゲー『SeaBed』なんかもこの年に発売されている。

・『ひまわり』などで知られるライターごぉによる新作『ISLAND』が発売。タイムトラベルを題材とした壮大なSF設定が高い評価を得た

・『ナルキッソス -ゼロ-』『ナルキッソス -姫子エピローグ-』なども発売している。ナルキッソスシリーズの前日譚的な役割。(なんとなくもっと前に発売しているイメージがあった。)

・AbemaTVで『School Days』をクリスマスに放送するという奇習が始まったのがこの年。


・取り上げられなかったが評価が比較的に高いのは、『凍京NECRO』、『アマツツミ』、『あけいろ怪奇譚』、『枯れない世界と終わる花』などだろうか。どれもやってないです。。。

・ゆずソフトからは『千恋*万花 』が発売。『天神乱漫』をほうふつとさせる和風伝奇っぽい設定で、ゆずソフト作品の中では比較的人気が高い一作であるように思える。2020年時点で合計セールスが10万本を突破しているようだ。

同じく萌えゲー二大巨頭の様に数えられるSAGA PLANETSからは第20作にあたる『フローラル・フローラブ』が発売されている。SAGA PLANETSは『はつゆきさくら』『金色ラブリッチェ』などシナリオ面でも高評価を受けたものが話題になりやすいので、あまりこちらは話題に上がる印象がない。

・ほかにも渡辺遼一氏による四季シリーズ(?)の第三作『あきゆめくるる』が発売されている。『はるまで、くるる。』の発売が2012年、『ふゆから、くるる』が発売されるのは2021年になるので息の長い展開である。

・田中ロミオx松竜という『CROSS✝CHANNNEL』の伝説コンビによる『少女たちは荒野を目指す』が発売。美少女ゲーム制作を題材にした本作はアニメ化も行い大々的に宣伝されたが、アニメ以上の内容があまりなくあまり評価されていない。

・『学校のセイイキ』が発売。堀江昌太によるOP/EDが人気。

・2016年はPSVRの登場に伴ってVR元年とも呼ばれている。3DエロゲのVR対応なんかは本年にも登場していたようだ。


・『ラムネ2』の発売に伴って『ラムネ』が無料配布されたりしていた。

・クラウドファンディングを使って、音が出るIoT抱き枕カバーなどというものが作られていたりもした。



(ヘッダー画像はnakashi さんのものをクリエイティブコモンズライセンス(CC BY-SA 2.0)に基づき使用させていただきました。クロップを一部施しています。加工したヘッダー画像についてはCC BY-SA 2.0 が適用されます。)

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