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朝…目が覚めたら 第3話『外国人』編
現在8月の第3火曜日、時刻は23:30。
「男性化」は6月の第3水曜日、「女優化」は7月の第3水曜日だった。これまでの流れを考えると8月の第3水曜日、つまり明日私はまた変身する可能性が高い……のではないか?それも日付が変わる0時か、眠っている間か……。
うーむ。朝まで起きておくか?横になり考えを巡らせているうちに私は眠りにつき、翌朝を迎えていた。
起きてすぐさま違和感に気付く。手の色がいつもより濃い!いつもよりなんてもんじゃない。急いで1階の洗面所まで走る。
「Oh My Goooooooooood!!!!!!! (どうゆうことーーーーー!)」
鏡に映った私は、ドレッドヘアのアフリカ系アメリカ人(黒人)女性だった。
3回目にして、一番驚いた。だって私は海外旅行に行ったこともなければ、リアルで海外の方を近くで見たこともしゃべったこともなかったのだ。
この独り騒動で夫が慌てて起きてくる。
「××××? ××××? (どないしたんや? またか?)」
私を見るなりまた腰を抜かす夫。
「 This time, it seems that I have transformed into a foreigner...
(今度は外国人になってしまったみたい……)」
「×××××? (おま……何しゃべっとんかわからへんで?)」
「???」
私は夫の言葉が全く分からないし、夫も私の言葉がわからない。
どうやら私は英語しか話せないアメリカ人?で、夫は英語が聞き取れない関西人のため全く会話が通じないのだ。
お互いに合点がいった私たちは、そこからは身振り手振りでコミュニケーションをとった。案外通じるもんだ。朝のルーティーンなんて十数年変わっていない。夫を見送った後、子どもたちを起こしに行く。
今は夏休み中だが進学校に通う智也は補習でいつも通り登校、達也は児童クラブに行く。本来は私の仕事が休みだから欠席する日なのだが、今日は児童クラブでイベントがありイレギュラーに行くことになっていた。
今度英検1級を挑戦する智也とは、十分に話が通じたことがありがたかった。
「Are you a foreigner this time? What's going on,Mom……?
(今度は外国人かよ。どうなっとんねん、おかん……)」
「As for me, it's still good because I'm a woman♪
(まだ、女性だったから良かったわよ♪)」
「I envy you for being optimistic. Um…Bye!
(のんきで羨ましいわ。じゃぁ、行ってきます!)」
たっくんと悠紀には、智也から事情を説明してもらった。たっくんの児童クラブの送迎は私がするわけにはいかず、悠紀に頼むことにした。高校生の兄姉の送迎は認められているのだ。
さて……この二人とのコミュニケーションが問題だな……。たっくんは当然のことながら、悠紀は私と同じで勉強が苦手だから英語なんて話せるわけがないし……。
「Good morning! How are you? ……Takkun? Yuki?
(おはようございまーす! 調子はどう? たっくん? 悠紀?)」
元気良く言ってみる。
「××××? (お姉ちゃん、お母さんは何て言ってるの?おはよう?)」
「××××。(お! たっくん、すごいね! 合ってるよ! おはよう! 今日も元気かな? って言ってるよ! アイム、グッ! っていってごらん)」
「あいむ、ぐっ! (元気だよ!)」
「Really? I'm glad to hear that. (ホントに?うれしい!)」
悠紀がたっくんに英語を教えていることに私はものすごく感動した。そしてさらに意外なことに、悠紀と私はまぁまぁ普通に会話ができたのだ。
なぜ?……私の疑問をよそに、悠紀は何食わぬ顔でたっくんと朝食を食べていた。
***
悠紀がたっくんを児童クラブに送って帰ってきた。実は今日、兄弟が二人共いない滅多にないチャンスだからと、久しぶりに女二人で出掛ける約束をしていたのだ……。
「What will you do today……? (今日どうする……?)」
「Um,what do you mean? We're going out, right?
(え? どういう意味? 出掛けるんだよね?)」
「I've become such an abnormal situation, and I wonder if it would be better to cancel our plan ……(こんな異常事態だし、予定はキャンセルした方が良いのかなと思って……)」
「What? I was looking forward to going out with you, so I want to go out.(え? お母さんと出掛けるの楽しみにしてたから、行きたい!)」
結局二人で出掛けることになった。悠紀は私が外国人になったことを気にする様子もなく、むしろ楽しんでいるように見えた。
二人で服を買いに行き、普段は絶対に買わないような蛍光ピンクのキャミソールやエスニック柄のタンクトップを購入し、それに着替えて二人で海外旅行気分でランチへ行った。
「The burgers at this café are very good!
(ここのカフェのハンバーガーがすごくおいしいの!)」
アメリカンなハンバーガー専門店に着くと、木陰になっているオープンテラスに座りおすすめセットを注文する。弾力のある香ばしいバンズに肉厚のパテから滴る肉汁、こんがり焼けたオニオンとベーコン。フレッシュなレタスとトマト、そしてバーベキューソースのハーモニーは最高に美味だった。
オープンキッチンで鼻歌を歌いながらパテを焼く、髭を貯えた外国人の店員さんと目が合うとウィンクをしてくれた。悠紀が連れ出してくれなかったら、こんなに開放的で海外旅行をしている気分を味わえなかったことだろう。悠紀にこんな一面があったことが意外だった。
「Mom, I would like to study abroad and become an interpreter or translator. So I'm working so hard to learn English right now. I have foreign friends and I'm able to speak a little English.
(お母さん私ね、留学して通訳者か翻訳家になりたいんだ。だから、今、英語の勉強を頑張ってる。外国の友達もできたし、少し英語も話せるようになったの)」
「What? Really? I didn't know that at all. But when I see you speaking so much English, I can see that you are working very hard.
(え? そうなの? 全然知らなかった。でも、あなたがこんなに英語を話せるのを見ると、努力しているのがわかるよ)
この『変身』には困ったものだが、毎月変身をする度に、家族の意外な一面を知る。いつまでもこどもと思っていた我が子達が、自分の知らない間に自分の夢を見つけ、努力し、こんなにも躍進していた。
何でもわかっているつもりでいた我が子の意外な一面を知り、逞しく誇らしく思うのと同時に、少し寂しいとも感じてしまう。もちろん、嬉しいが勝つけれども。
『結局親ができることは、子の成長を見守り応援していくことだけだな……』
悠紀との楽しいミニトリップを終え帰宅する。夕飯にはややアメリカンなメニューを出してみる。夫は相変わらず英語は話せないが、関西人のノリでジェスチャーゲームのようにコミュニケーションがとれてしまう。こんな非常時でも、爆笑の渦に包まれる我が家は最高だと思う。
翌朝はやはりいつもの私に戻っていた。今後着ることもないであろう派手な服や、菜々緒(にしか似合わない)カラーのリップを箪笥や引き出しの奥にしまう。
『来月はまたどんな不用品が増えるのだろう』と自嘲する。
そしてまたいつもの朝の戦場に向かった。
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