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不釣り合いなガール

この日の中山競馬場は、パドックに人が集う時とそうでない時があった。前者は藤田菜七子騎手がレースに参加するときであり、後者は参加しない時である。

この日のメインレースは皐月賞トライアル、スプリングステークス。圧倒的1番人気馬はロードクエストだったが、圧倒的1番人気騎手は藤田嬢だった。跨がるとすぐに、暖かい声援とカメラのファインダーは彼女に向けられていった。僕もミーハーな心情が抑えられず、ついつい撮影してしまう。確かに、彼女が纏う素朴な雰囲気は充分好感を抱けるものだった。女性アスリートで言えば、サッカーの川澄奈穂美系統ではないだろうか。

その一方で、パドックに映し出されるオッズを見る度に首を傾げざるを得なかった。彼女が騎乗するモウカッテル(「もう、勝ってる」という意味)の単勝オッズは55倍だった。

この馬にとって55倍は高すぎるのではない、低すぎるのだ。前々走のきさらぎ賞は167倍(6着/9頭)、前走の弥生賞は322倍(9着/12頭)。要するに、普通の騎手が騎乗していたら、間違いなく人気では最下位を争う馬である。それが8番人気(11頭)まで押し上がってしまったのである。

モウカッテルで儲かってることを夢見て馬券を買っている人間は、殆どいないだろう。「久々に女性騎手が勝つ瞬間が見たいな」。そんなささやかな願いの積み重ねが、ギャンブルの摂理を狂わせていたのだ。

注目度が高まるにつれ、騎乗回数は増えていく。とはいえ、まだまだ新人騎手に有力な馬を預けようとする動きにはなっていない。素直に力量と馬質を考えれば、藤田騎手が勝つのは難解な話である。それは解っている、みんな解っているはずなのだが…。

さて、肝心のメインレース。モウカッテルは馬群の中団に食らいついていったが、直線でギアを上げれるほどの実力はやはり残っていなかった。第4コーナーで膨れてきた他の馬と被ってしまったのも痛恨だった。とは言え、最後に息切れしていた2頭を追い抜き、何とか面目は保てる結果にはなった。

人気と実力があべこべの難しい状況下でも、藤田騎手は誠実に、かつ最善を尽くして競馬をしていることは充分に伝わってきた。チャンスはまだまだ得られそうだ。地方競馬への積極的な遠征も勉強熱心で良いではないか。ますますファンになってしまいそうだ。

だからこそ、今の状況にもどかしさも感じる。彼女が乗る馬のオッズがもっと「競馬」に馴染む数字になって欲しい。そうなれば、もっと彼女を素直な目線で捉えることができるはずだから

どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)