二人芝居
性格が全く異なる二人が一つの場所で出逢い、紆余曲折を経ながら成長していく。そんな物語の構成方法がある。いわゆる「バディもの」だ。例えば、「おかしな二人」とか、テレビドラマの「ビーチ・ボーイズ」や「相棒」をイメージして貰えればわかりやすいだろうか。
スポーツの世界でも、そういうシチュエーションに出逢うことが時おりある。先日見た、中山大障害もその一つに入るだろう。
オジュウチョウサンとアップトゥデイト。昨今の障害レースを引っ張る優秀な二頭だ。
前者は現在の障害ホースチャンピオン。2016年の春に中山グランドジャンプを制すると、以降は破竹の勢いで障害重賞を制していく。この年は冬の中山大障害も制し、最優秀障害ホースにも満場一致で選ばれた。2017年も引き続き、連戦連勝。夏は怪我で躓いてしまったが、復帰戦の東京ハイジャンプも圧勝。2着に2秒以上も差をつけるという、とんでもない復帰戦だった。
一方、後者は「前」チャンピオンである。2015年の中山グランドジャンプと中山大障害の覇者。その葦毛から「障害界のゴールドシップ」とも言われている。だが、春秋のJG-1を制したあとは、なかなか勝ちに恵まれなかった。もたもたしているうちに、王者の座はオジュウチョウサンに奪われた。苦労の多い時期を乗り越えて、今年9月の阪神ジャンプステークスで8戦ぶりの勝利。止まっていた時計が、再び動き出した。
当日、有馬記念イブの中山競馬場は、意外と人が多かった。マイナーな障害レースではあるが、強い馬の強いレースが見られるならば…。そんな期待感があった。
パドックも上々の混雑だった。そのとき、改めて気がついた。アップトゥデイトの後ろを、オジュウチョウサンが歩いている。そうだった。この2頭は隣通しだった。
新聞を見返す。馬番7の殆どに◎が、同じく6には○が。よっぽどのひねくれものでは無い限り、予想屋の印はこれで落ち着いた。1着と2着は固い。これはもう、3着を当てるゲームでしかない…。
真っ白な毛並みを輝かせ、悠々とあるくアップトゥデイト。葦毛馬という補正要素が少しあるとは言え、どことなくリラックスしている。
一方で、オジュウチョウサンはピシッと背筋を伸ばしたような、端正な佇まいだった。チャンピオンとしての風格がある。
この2頭を比較してみるということを、よく考えたらあまりしたことがなかった。2頭ともオンリーワンの存在。枠が同じだからこそ、気が付くことである。
迎えた決戦の時。アップトゥデイトがレースを引っ張り、先行するオジュウチョウサンが勝負どころで仕掛け、ラストスパート勝負に持ち込む。確かに、その展開通りになった。でも、想定と違ったのは、アップトゥデイトの逃げが予想以上に大きかったのである。
最初の水ごう障害を越えたあたりから、2番手に10馬身以上のリードを保ち続けるアップトゥデイト。すぐにバテるのでは? という不安もあったが、なかなかリードは縮まらない。流石にオジュウチョウサンもしびれを切らしたか、大生垣障害を迎える手前で2番手に上がっていった。この時点で、レースは一対一の勝負と化したのである。
オジュウチョウサンは焦っていた。それはこのレースにおける、障害の飛越にも表れている。低く、危なっかしかった。躓いたシーンもあった。それだけ、前を追うことに必死だったのだろう。
最後の障害を飛び終え、ここからは平地コースでの足比べだ。ダートを横切ると、2頭の正確な距離がメインスタンドの観客にも伝わってきた。勝機はどちらにもある。粘る挑戦者、追いかける王者。中山コースの直線が短いことを恨めしく思うほど、濃密な追い比べだった。
勝ったのは、オジュウチョウサンだった。
ラスト50メートルで捉えきった。やっぱりチャンピオンは強かった。
でも、負け惜しみでも何でもなく、「競馬」に勝ったのはアップトゥデイトだと念を押したい。元チャンピオンとしての風格と、最強の挑戦者としての実力。その二つを兼ね備えた、唯一無二の一頭である。
勝ち馬として名前は残せなくとも、素晴らしいショーを演じた役者としてクレジットに残したい。この年の中山大障害は、二人芝居としてでなければ、僕は語り継ぐことはできない
どうもです。このサポートの力を僕の馬券術でウン倍にしてやるぜ(してやるとは言っていない)