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古代ローマの<子ども遊び> | プリニウスの追憶

 都内を流れる河のほとりを歩いていると、突然、股間になにか硬いモノが直撃し、私は悶絶した。
 その場にうずくまり、足元を見る。そこには、異様に平らな小石が転がっていた。

「あ、あい、あいむそーりー!」

 声が聞こえ、私は顔を上げた。
 対岸にいる帽子を被った少年がつたない英語で謝罪し、ぴょこぴょこ首を突き出している。

 そういうことか。
 私は合点がいった。おそらく、あの少年が水面水切りをしようとしたところ、手を滑らせて暴投してしまったのだ。それが、たまたま通りがかった私の股間に運悪くクリティカルヒットした。そんなところだろう。

「ってこの下手くそが!」

 私は怒りに駆られ激昂し、落ちていた石を少年に向かって投げ返した。昨日上司に嫌味を言われ、機嫌が良くなかったのもある。
 ライナー性の石が少年の膝辺りにクリティカルヒットすると、彼は呻き声をあげてうずくまった。

「舐めんじゃないよ! 今すぐこの川を渡河し、君をローマに連れて行ってネロに差し出してもいいんだぞ!」

 私がそう唾を飛ばすと、少年は涙を流し、右脚を引き摺りながらその場を後にした。

 少年の後ろ姿を目で追っていると、 急に懐かしさが込み上げてきた。


 ふっ。
 私も幼少期には、ウェロナ(現ヴェローナ)のアディジェ川で水切りに夢中になったものだ。
 ローマの子供たちの外遊びは、“この世界”とさほど変わらない。
 ブランコ、凧揚げ、鬼ごっこ。枝で地面にお絵描き(迷宮のモチーフが多かった)、川では水泳に魚釣り、そして水面水切り。 女子たちの遊びはもっぱら「◯◯ごっこ」だ。

 くくくく。
 中でも最高だったのが、大人への悪戯だ。
 例えば、1枚の硬貨をどこかの街道に貼り付けて取られないようにしておく。そして物陰に隠れ、通りがかった大人が取ろうとしても取れない様子を眺めた。スカした大人が羞恥で頬を赤らめる姿は、最高に笑えたものだ。
 ああ、そうか。
 “この世界”ではそれを「ドッキリ」や「モニタリング」というのだな。


 パトカーのサイレンが聞こえたのは、その時である。


Fin.


Warning

「プリニウスの追憶」に登場する人物及び事象の一部はフィクションです。



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