アジアの火薬庫にされた台湾

■曖昧な台湾の立場
 20世紀からアメリカは、中国市場を有望と見ていたが、アメリカが望んだ利益は得られない。21世紀になり中国の覇権が拡大すると、中国がアメリカに挑戦していることが明確になった。中国は建国時からアメリカに挑戦していたが、アメリカは中国を甘く見ていた。中国の軍事力・経済力が弱いからだ。

 アメリカは21世紀になり、中国が南シナ海で覇権を拡大したことで危機感を持つ。さらに中国の急激な覇権拡大は、欧州にも危機感を与えていた。イギリス空母打撃群がアジアまで来るようになり、フランス・オランダ・ドイツ海軍も日本付近に来るようになる。

 中国とアメリカが対立関係になると、台湾とアメリカの関係が良好になった。それまでのアメリカは、中国の立場を優先し、台湾への武器売却に制限を行っていた。それが台湾への武器売却が緩和され、台湾軍の戦力向上が進んだ。だがアメリカは、台湾軍と共同作戦をすることは曖昧になっている。

「米国、台湾を防衛するか」ブリンケン米国務長官、明言避ける
https://www.epochtimes.jp/p/2021/11/81396.html

 アメリカは日本の自衛隊と合同訓練を行うが、台湾軍との合同訓練は行なわれていない。合同訓練は政治的には、仮想敵国に共同作戦行うことを示す。イギリス空母打撃群との合同訓練は、ヨーロッパ世界がアメリカと共に中国と戦う意味を示す。だが台湾軍との合同訓練は行なわれないし、アメリカ政府は台湾防衛に関しても明言を避けている。

https://www.afpbb.com/articles/-/3372262?cx_amp=all&act=all

■曖昧な方針
 台湾とアメリカが接近したのは事実。政治的には台湾への武器売却が緩和され、台湾軍の軍事力が向上。台湾は地政学と軍事戦略の要衝だから、中国が占領するとアメリカの立場を下げるゲームチェンジャーと言える。

 何故なら、人民解放軍海軍は必ず東シナ海を中継し、南シナ海・太平洋に進出する。基地に戻る場合も、必ず東シナ海を中継する。中国共産党は地方の反乱を恐れているので、地方の省には、生産・大規模整備ができる有力な基地を配置していない。だから台湾は、人民解放軍の戦略を一手で左右する運命の島。

 人民解放軍が南シナ海・太平洋に安定して進出するには、台湾は絶対に占領しなければならない。さらに台湾は、沖縄攻略のジャンプ台。この理由で、中国が台湾を占領すると、中国とアメリカの立場を変えるゲームチェンジャーなのだ。

米、台湾防衛 巡る曖昧さ減らすべき=下院情報委員長。
https://www.epochtimes.jp/p/2021/11/81476.html

 それだけ台湾の地勢は重要なのだが、アメリカの歴代政権は台湾とは一定の距離を保ち続けている。20世紀までは人民解放軍の軍事力は弱く、アメリカの敵ではなかった。だが21世紀になると、人民解放軍は急激に近代化する。さらに量まで増えたことで、アメリカ軍の優位性が低下。

 それでもアメリカは、台湾との軍事同盟を選んでいない。米下院情報特別委員会のアダム・シフ委員長は民主党だが、バイデン大統領の曖昧さを批判している。アメリカは1979年の台湾関係法を継承しているが、台湾に自衛手段を提供するが、台湾が攻撃を受けた際にアメリカ軍が軍事介入するかどうかは未定。このことを、アダム・シフ委員長は批判したのだ。
 
 アメリカは台湾を軍事援助することは確定しているが、共同作戦することは未定。バイデン大統領は、アメリカに挑戦している中国の立場を今も気にしているのだ。過去にアメリカは、イラクのフセイン大統領の覇権拡大に対して曖昧な立場を採用した。これでフセイン大統領は勘違いし、クエート侵攻を実行した前例が有る。

 バイデン大統領が台湾の曖昧な立場を続けることは、習近平が勘違いして、台湾侵攻を選ばせる可能性が有る。曖昧な発言でフセイン大統領によるクエート侵攻を選ばせ、後に湾岸戦争を生んでしまった。この悪夢を、バイデン大統領が再現しかねない。

■間接的な戦争を選ぶ可能性
 蔡英文総統がCNNに、アメリカ軍が台湾軍を訓練していると公表したことは記憶に新しい。同時に台湾軍海兵隊が、グアム島のアメリカ軍基地で訓練を行っていることも明らかになった。

40名台军人赴关岛联训 65%台湾民众认为美国可能协防台湾
https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/gangtai/hx2-11022021093009.html

 海兵隊は上陸作戦で使われる。だから台湾軍海兵隊を、離島や台湾本島での防衛戦に使うことは無意味。そうなれば、台湾本島での防御による持久戦ではなく、中国大陸への上陸作戦を意味する。

 アメリカ政府は、台湾軍とアメリカ軍が共同作戦することを明言していない。だが台湾軍海兵隊を訓練している。このことから推測できることは、バイデン大統領は、台湾軍への軍事支援に留め、“台湾単独で中国と戦争させる構想”の様だ。

 それに、台湾軍海兵隊が中国大陸で戦闘するなら、中国の弱体化を加速できる。これは、アメリカは戦争すること無く旨味が得られる間接的な戦争。戦前のアメリカは日本と対立していたが、蒋介石率いる国民党を軍事支援し、日本軍と戦闘させていた。これも間接的な戦争の典型例。それだけ、古典的で堅実な策なのだ。

■アメリカの選択肢
 アメリカから見れば、戦略の選択肢は多いほうが有利。干渉戦略と関与戦略が有るが、台湾軍を軍事支援して、台湾と中国を戦わせることは干渉戦略になる。そして、アメリカ軍が台湾軍と共同して戦争することは関与戦略になる。

 戦略の選択肢から見れば、最初は干渉戦略から開始し、途中から関与戦略に切り替えることもできる。この場合は台湾からの信頼が向上するので、政治としても好ましい。それに対して関与戦略から干渉戦略に切り替えると、アメリカは台湾を見捨てたことになる。

 台湾軍への軍事支援は続けるとしても、アメリカによる裏切り行為と見なされる。だから戦略の採用手順としては間違い。さらに政治としても失敗だから悪手になる。そうなれば、バイデン大統領の曖昧さは、台湾と中国との戦争が始まった時、干渉戦略から関与戦略に変われば成功する。

 だから現段階で関与戦略を明言し、戦争開始してから干渉戦略に変えるよりは正しい判断と言える。だが、曖昧な発言がフセイン大統領によるクエート侵攻を呼び込み、後に湾岸戦争に拡大した戦例が有る。この視点から見れば、曖昧な発言は危険なのだ。

■明言すべき
 アメリカ軍は、日本の自衛隊と合同訓練を公にしている。さらにイギリス空母打撃群との合同訓練を公にしている。これは連合して戦争する意思表示だから、関与戦略を中国に教えている。

 この状況では、台湾の曖昧な立場は危険な行為。中国による台湾侵攻のリスクを高くするだけだから、戦争回避を狙うなら、台湾との合同作戦を明言すべき。仮に明言すれば、台湾軍はアメリカ軍を中継し、イギリス空母打撃群・自衛隊との連合作戦を可能とする。台湾軍は複数の国との軍事同盟が実現し、中国は容易に台湾侵攻を行えない。

 選択するのはバイデン大統領だが、日本の政治家も台湾軍と合同作戦を行うことを明言していない。それだけ中国の面子が大事なのだ。だが戦争回避を狙うなら、明確にすべきなのだ。

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