備忘録:People In The Box「Tabula Rasa」リリースツアーに寄せて

2019/9/29

福岡のVoodoo LoungeでPeople In The Boxのライブを観た。
5月末にTHE NOVEMBERS・People In The Box・tacicaによるスプリットツアーTOMOEの
福岡公演を見たので久々な気持ちではなかったが、ワンマンライブを見に行くのはなんと6年ぶりだった。
(自分で調べた限りでは2013年のツアーぶり)
当時ブログを書くことをやめていたので細かい記録を残していないのだけど、おそらくAve Materiaのリリースツアーだ。
そのときはサポートメンバーを含めて4人でのライブだったことを覚えている。

そのあと、理由は”なんとなく”としか形容のしようがないのだが私はピープルの音楽を聴くことから離れていた。
まあ現代とは便利なもので、音楽を自発的に聴くことから離れていてもSNSなどで情報は絶えず入ってくるし、ラルクのドラマー・yukihiroのソロ・プロジェクトacid androidのライブで大吾さんのドラム見る機会があったけど。

そんな中、不思議な縁で行くことになった今回のツアーは新譜「Tabula Rasa」リリースツアーの位置づけだ。
Tabula RasaはCDはライブ会場限定発売で、かつ、ツアー開始前に配信リリースのみされている少し変わった流通方法がとられていて、私はサブスクリプションサービスを利用しているからリリースされてすぐ聞いた。
アルバムは8曲37分とコンパクトな作りながらどれも粒だった主役級の曲が並んでいて、けれど穏やかな緩急のついた非常に聞きやすいアルバムだと思う。

リード・トラック「懐胎した犬のブルース」PV

さてその曲たちを引っ提げて、(私は)6年ぶりに見たワンマンライブは端的に言うと、とてもよかった。
(これはライブのMCで波多野くんが「端的に言うと、ありがとう。」と発言したことをわざと真似ている笑)

ドラムとベースのリズム隊の低音
ひとりで代わる代わるギターとキーボードを操り波多野君がつむぐメロディ
なにより波多野君の歌がすごくうまくなっていて表現に磨きがかかっていた。
ステージ上で3人で演奏するから、音はミニマルになっているはずなのにサポートメンバーが入っていたライブよりも多彩で鮮やかな音楽が鳴っている。
それでいてピープルの音楽の良さはそのままにして、このタブララ-サの楽曲たちが演奏されることでよりストーリーテリングな雰囲気に磨きをかけている。

新譜の曲だけでなく、色あせない旧楽曲たち。聖者たち、など近年の代表曲はもとよりAlice、そして個人的に一番聞けて嬉しかったヨーロッパ。

ピープルの音楽は不思議だ。
音ざわりは柔らかく、ボーカルはのびのびと響くのに、不穏な気配は常にひっそりと息をしている。
個性ともいえる変拍子と言葉遊びのような歌詞によるものなのかもしれないが、グリム童話に似ていると思う。おとぎ話なのに、それでいて意味が分かると怖い。
(この表現が一番自分のなかで上手くいってるので同じことインスタにも書いた)

そしてMCで波多野くんが「ここには僕たち3人の音しかない」と言っていたのが一番印象的だった。
淡々と事実を述べるような言い回しだったけどそこにはピープルのメンバー3人の、
自分たちの音楽に対する確固たる自信と、
これからもそんな音楽を作り続けるという決意と、
この音楽を愛するファンに対する宣戦布告のように聞こえた。

音楽に限らず、表現を継続させることはとても困難なことで、わたしはそれゆえに、表現者に羨望と尊敬のまなざしを余計に向けてしまう。
(結局なにごとにおいても、もっとも難しいことは「継続」することなのだ)
そしてこんな風に、ファンと一番近い場所でかっこいい姿を見せ続けてくれるひとたちが、私たちに対して決して馴れ合うことなく、よい予感だけを与えてくれることはすごく恵まれたことだなあと思う。

また彼らの音楽をライブで聞けた機会があった幸せに寄せて、ここに記録を残しておく。

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