【ぶんぶくちゃいな】香港返還20週年・その3:本土派の凋落と未来への期待感

7月1日の香港返還20週年から1週間が経ち、各メディアの記事もすでに出揃った。日本の大手メディアは日経やNHKを除いて香港返還後に香港の支局を閉鎖したため、今回の返還報道はどこも北京や上海の支局から記者を飛ばして取材を行った。

その結果、ほぼすべての日本メディアでは、「習近平の香港入り」「閲兵」「返還式典スピーチ」と中国政府のアピールを中心に据えている。そして、2003年から恒例となっている7月1日の市民デモを「市民の声の代表」とし、そこにちょろちょろっと「香港ファースト」を主張する本土派の台頭を絡ませて中国統治を批判するという、わたしが想像していた通りの「出来」である。

だが、残念ながらそこで語られている事情はどれも現地メディアを読めば拾えるものばかりで、記者が現地で足を使って取材した独自性はほとんどない。実際に習近平のスピーチ会場に入れなかった記者はテレビの生中継を見ながら原稿を書いたのではないか。ウソはさすがにないものの、その姿勢が「中国統治が強まった」から始まって「中国の姿勢が問われている」で終わる記事は現地からの報道というよりも、同じように中国の脅威をひしひしと感じている日本人の恨みつらみを代弁させているかのようだ。

香港から支局を撤退した結果、日本メディアには香港を日常も含めて定点観察できる記者が激減した。そのため、中国取材で見慣れた習近平の動向を大きく報道して主権返還20週年の香港を語れると思ったのであれば、「中国脳」といわれても仕方があるまい。

返還20週年を迎えた香港は、そんな中国脳、つまり中国的視点では見えてこない。だからこそ記者を現地に飛ばしたはずなのに、メディアは現地の今を取材することもなく、テレビの中の習近平にかじりついた。

わたしがネットで目にした中では唯一、日経が組んだ特集記事には幅があった。香港の将来に不安を感じ、台湾に移住した人の話など、やはり日頃香港に記者をおいているメディアだけあって現地視点の話題を取り上げている。もう一つ、共産党のオウンドメディアだが「赤旗」も現地に記者を飛ばして違った角度から取材をしていたと読んだ人が褒めていた。同紙の記事はネットにコピペされているようなので、ここでは特に触れない。

その他のメディアはどうだ、まるで庶民の側になって中国に居丈高に物申してはいるが、その記事には香港人庶民の声はない。香港をスケープゴートに中国に疑問を呈したいという思いが先走りしすぎた記事ばかりで、これほど現地をバカにした報道はないだろう。

●凋落に向かう「本土派」勢力

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