【ぶんぶくちゃいな】基本法が先か、国家安全法が先か――決定権は香港市民の心に

香港で正式に「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)が施行されて10日あまりが経った。

この間市民の間ではSNSの名前を本名やそれに次ぐものからまったく別のものに書き換えたり、これまでの書き込み自体をバッサリと削除したりという動きが起こっている。実際にわたしの友人たちの中にも、昨年のデモのときには激しい書き込みをしていた人たちが、今回の国家安全法の施行決定以降、敢えて発言を控えているのを感じている。

メディアの報道も少々抑え気味になっているようだ。たとえば、6月30日に北京で国家安全法の施行が可決された午後、自決(市民の自己意志で未来を決定するという主張)や香港独立傾向を持った政党や政治グループが次々解散を宣言したが、それらについて後続報道もない。思い切って踏み込めない、という苛立ちも伝わってくる。さらには、メディアにフリーランスとして寄稿してきた書き手が自分の名前の入った記事を削除してくれと要求する例すらあるという。

メディアすらも戦々恐々となっているなか、それでも明るい話題といえるのは、9月に行われる立法会議員選挙に、ネットメディア「立場新聞」でたびたび独立志向の強い陣営に肉薄した報道を続け、「立場姐姐」と呼ばれる元記者、何桂藍(グウィネス・ホー)さんが立候補することを宣言したことだろう。

何さんは昨年7月1日に立法会ビルに突入したグループについてビル内に入り、最後の最後まで立法会の議場に居座ろうとしたメンバーたちを担ぎ出すデモ隊メンバーをインタビューし、その動画は見守っていた香港市民に突入グループのイメージを180度換え、感動と賛同を巻き起こした。

また、昨年のデモの分水嶺となった「721元朗無差別襲撃事件」、つまり7月21日の地下鉄元朗駅に居合わせ、自身も襲われて負傷しつつ現場からの生中継を続け、事件のを多くの人たちがネットで目撃するきっかけを作った記者でもある。

実は、わたしも4年ほど前、まったく別件取材で彼女を紹介されてインタビューしたことがあるが、まだ若いながらも正義感が強く、またはっきりと自分の考えを持っている人物だった。当時は「この先、海外に留学してもっと社会学について学びたい」と言っており、実際に2年前に仕事を辞めてデンマークの大学に留学していた。そして起こった香港でのデモに矢も盾もたまらず帰港して、再び「立場新聞」の特約記者として現場を走り回っていたのだ。

だが、彼女は決して「目立ちたい」人物ではなく、逆に「報道する者が注目されるのは決して良いことではない」と言い続け、自分にスポットライトが当たることを避けようとしてきた。その彼女が香港で行ったミニ講演を「ぶんぶくちゃいな」ノオトでも昨年8月、「香港デモの現場から見た運動の現実」の4回連載でお伝えしたので覚えている方もおられるだろう。

●民主のための「民間選挙」実施

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