【ぶんぶくちゃいな】香港新選挙制度スタート、その深い罠と暗い闇

秋。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、わたしの順番はこのとおり。そして、今年はこれに、「選挙の秋」が加わった。

とはいえ、今わいわいとメディアが伝えている自民党総裁選は、我われほとんどが眺めるだけで、投票どころか口を出すチャンスもないわけで。ただひたすら眺めているだけ。

先日、香港でも750万市民の749万5000人以上が眺めるだけの選挙が行われた。投票率はほぼ90%で、香港特別区政府は「香港特別区政権が愛国愛港者の手に確保された。ここから香港における良好な政治の実現が推進される」とコメント。また、中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)は「香港社会の各界、各階層が参加し、広範で代表的なもの」と絶賛。また、中国国務院(内閣に相当)の香港マカオ弁公室(以下、「香港マカオ弁」)も、「社会がさらにバランスよく参与し、民主の質を引き上げた」と述べている。

だが、香港で今回選出されたのは、特区長官でも最高議決機関の立法会議員でもない。「選挙委員会」の委員である。間違えないでほしい、あくまでも「選挙委員会」であって、「選挙管理委員会」のメンバーではない。

この選挙委員会とは今年3月に中国政府が決定した香港の新選挙制度の特徴で、「香港の特色ある『民主』実現…そして誰もいなくなる?」で詳しく書いた。全体像の理解はまずバックナンバーをご参照していただくとして、簡単に言うと、有権者と被選挙者の間に横たわる機関である。

選挙委員の定員は1500人。そしてその主要な役割は主に以下の2つだ。

- 立候補者の推薦(立法会議員被選挙人は10人から20人分の推薦、行政長官非選挙人は188人分の推薦がそれぞれ必要)
- 立法会議員(総議席90)40人の互選

これにより、行政長官選挙にも立法会議員選挙にも、出馬する人はまず選挙委員会メンバーの推薦を受けなければ出馬できない。実際には推薦条件をクリアしても、その後さらに政府が任命したメンバーによる「資格審査」を受けることになっている。

つまり、立候補前の被選挙人のふるい落としを、選挙委員会が行う。場合によっては、有権者が期待する被選挙人が、選挙委員会の推薦を取れずに立候補できないという事態も、当然起こりうる。

また、これまでは行政長官選挙のためだけに存在していた選挙委員会(以前の定員は1200人)の選挙では25万人余りが有権者として登録し、投票した。だが、今回の登録済み有権者はわずか4889人。今回の投票ではこのうち4223人が投票を行い、364人を選出した。現実には残る1000人あまりの定員は、政府指定組織のトップが横滑りしたり、業界別選出枠の立候補者数が定員数以下だったために自動当選する形で埋まっている。

つまり、選挙委員会選挙は99.9%の市民には投票権すら与えられず、また選出されたのは議員ですらない「選挙のお目付け役」で、さらにそのうち3分の2以上は政府任命の役職者やご指名組織のトップという構成。なのに、「良好な政治のスタート」「広範で代表的」「良質な民主」と形容したのである。

市民のどっちらけ度は推して知るべしだが、当然政府にとってこれはただの「始まり」でしかない。

●定員の3分の2以上が政府指名か自動当選


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