【ぶんぶくちゃいな】春節:「故郷は遠きに在りて思うもの」ある中国人の帰郷

中華圏は2月16日に春節を迎える。今はメディアも春節前の話題で盛り沢山である。昨日冬季オリンピックが始まった韓国でも、オリンピック会期中にやはりお正月を祝うことになり、これはこれで珍しい光景が日本の家庭にも流れてくるかもしれない。

とはいえ、中国では春節は楽しいばかりではない。日ごろは故郷を離れている人たちが大挙して故郷に戻ってきて楽しいお正月を過ごせる人たちがいる一方で、さまざまな理由で帰ってこない人たちを待つ人もたくさんいる。周りが賑やかなだけに日ごろ待つことに慣れている人たちにとっての寂しさは倍増する。

帰らない人たちにもさまざまな理由がある。お正月にも仕事に追われる人。根っから帰るつもりがない、あるいは帰りたくても帰ることができない理由がある人。そして、帰郷したあとで苦い思いをする人もいる。

今回はわたしの友人、陳双葉さんの帰郷や故郷に関するエッセイをご覧いれようと思う。彼はわたしが北京で知り合った友人の中でも、とくに寂れた農村の痛みと大都会北京のど真ん中で暮らす者としての、二重の思いを常に持ち続けている人である。

彼の故郷は江蘇省の農村にある。北京からの距離はほぼ1000キロ、北京から列車で最寄りの駅まで約8-9時間かかる。その駅のある中心地から故郷の村にある家まではさらに30キロあり、バスで1時間、タクシーでも30分かかるという。

農民家庭出身だが、成績優秀だった彼は北京の大学に進学、あるメディアの編集者の仕事を経て、今は某国大使館に勤めている。誰にでも親切で優しい彼は、しかしお人好しでシャイなところが災いしたのか、未婚のままだ。最近、ガールフレンドが出来たとSNSで宣言して、周りの人たちの大歓声を巻き起こした。

北京での暮らしももう10年以上になり、英語で堂々と大使館の仕事をこなす彼は誰が見ても、都会のエリートである。だが、じっくりと彼と話をしたり、彼が書くものを読めば、大都会のど真ん中で彼がどれほど故郷のことを思い、故郷の寂れ方に心を痛めているかがよく分かる。そして、その話を聞くたびにそれが彼の故郷だけではなく、農村に親兄弟を残し、都会で働く人たちを代弁しているだけなのだ、といつも感じてきた。

近年、彼もやっと北京にマンションを購入し、やっと「拠点」を構えることができたという。それでも彼の都会と農村の巨大な隔絶を巡る思いは止まることがない。そんな彼の、故郷にまつわるここ数年のエッセイから、中国の農村が置かれた現状を少しでも感じとっていただければうれしい。

●2015年5月20日:野場荘

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