【ぶんぶくちゃいな】番外編:舛友雄大「感情のもつれを越えられるか、中国とインドネシア アジア二大国の脆弱な関係」
「アジアの中からアジアを考える」に続く、アジアを見据えた国際ジャーナリスト舛友雄大さんによる、インドネシアと中国の微妙な関係をまとめた本編です。インドネシアはもちろん、中国だけを見ているわけではありませんが、中国が進める「一帯一路」政策、そしてそれに協力を示しながらも自身の陣地を固めたい日本にとって、インドネシアの動向は大変気になるところです。
ジャカルタ中心部に位置するスマンギ立体交差は道路の外周にLEDが施されており、夜になると立ち並ぶ高層ビルを背景に虹色のグラデーションが浮かび上がる。この街では珍しくモダンな雰囲気で、今ではちょっとしたアイコンとなっている。この場所が誕生したきっかけは、ある華人系インドネシア人政治家のちょっとしたアイディアだった。
その政治家の名はアホック(本名はバスキ・チャハヤ・プルナマ)。2012年、ジョコ・ウィドド(現大統領)とタッグを組んでジャカルタ特別州の正副知事選に出馬し、副知事に当選した。2014年にジョコ氏が大統領に転じたことで自動的に知事に繰り上がり就任した。汚職を取り締まる姿勢を含め政策実現能力が民衆に高く評価されていた。
長年華人を研究してきたレオ・スルヤディナタ教授はアホックを「一縷の希望」であり「インドネシアのアイコン」だと話した。「彼を嫌う人も多くいるが、多くの華人そして土着のインドネシア人が彼を尊敬している。アホックは新しいタイプの政治家。クリーンで仕事ができて雄弁」と評価していた。
前述の道路は日本の森ビルが建設を担当した。森ビルは東京や上海で成功した後、大きな潜在力があるとジャカルタに目をつけ、2021年にジャカルタ中心部に高さ266メートルの超高層ビルを建てる計画を打ち出した。森ビル関係者によると、もともとはビル建設にあたって容積率がオーバーした部分は政府にお金を納めなければならないことになっていたが、アホックはそれを当該企業にその金額分の公共事業を進めさせるという制度に改革。インドネシアで深刻な腐敗を未然に防ぐと同時に停滞しがちなインフラ整備を進めるという意味で、一石二鳥の措置となった。ちなみに、森ビルは同制度の活用で先日閉幕したアジア大会会場近くの歩道も整備した。
そんな有能なアホックが2017年に行われたジャカルタ州知事選挙で大きくつまずいた。前年9月のスピーチでコーランを引用する形で皮肉を言ったことがイスラム教保守派の反発を招き、何度も数万人規模のデモが起きたのだ。アホックは華人であると同時にキリスト教徒だったため、二つの意味でマイノリティーの立場にあった。2019年の大統領選挙の行方を占うことになるこの選挙で、圧倒的に優位とみられていたアホックは敗北。さらにその後、宗教冒涜罪で2年の実刑判決を受けた。1998年にインドネシアで起きた反華人暴動(後述)の記憶が鮮明に残っている中国では、「また華人への嫌がらせが起きている」という文脈で彼の失脚を大きく報道した。
●華人:差別対象から多文化尊重の象徴へ
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