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【ぶんぶくちゃいな】民主主義と中国解放軍――中華圏はペロシ下院議長の台湾訪問をどう見たか

米国のナンシー・ペロシ下院議長による8月1日から始まったアジア歴訪がさまざまな事態を引き起こしている。

下院議長は米国政府において、大統領、副大統領に次ぐ3位の地位にある立場。その彼女が8月1日にシンガポール入りして、翌日マレーシアへ向かい、その後出発前の正式な声明のスケジュールになかった台湾で1泊し、翌日韓国を経て日本を訪問後に帰国した。

5泊6日の強行軍でこれだけの地域を駆け巡り、それぞれの要人と会見しつつ、現地の米国政府機関や米軍などの慰問スケジュールもこなしたのはすごい。御年82歳である。時差をものともしない体力と精神力には、ただただ驚くばかりだ。

実は、彼女はもともと議員の家庭の出身ながら、結婚後5人の子どもを育て上げた後、政界に進出したらしい。47歳で下院議員に初当選し、その後下院初の女性議長になった。今回の彼女のアジア歴訪について論ずる中華圏の論評を聞いていると、「自分の政治生活最後に花を飾るために決行した」と論じるものもあるが、調べてみると下院議長再任はすでにその制約(4期まで)に達しているのでありえないが、彼女は今年11月に行われる中間選挙でも引き続き下院議員に立候補する意思を明らかにしているそうだ。

今回、台湾に立ち寄ったことがさざなみどころか、大波を引き起こしたが、彼女はもともと「ガチ」な民主主義信奉者であることで知られてきた。

1989年に起きた天安門事件の2年後、米国議員代表団の一員として北京を訪れた時には、「体調が悪いからホテルで休む」と言って代表団から抜け出し、そのまんま天安門広場に向かい、「民主化のために犠牲になった人たちに捧げる」と書いた黒い横断幕を広げるというパフォーマンスを演じた。

つい最近まで筆者がかかわった翻訳原稿でも、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟に際し、「中国が経済的に豊かになればきっと民主化する」と信じて賛成を説いた香港の政治家であり弁護士のマーティン・リー(李柱銘)元立法会議員に対して、彼女は「あなたとは長い友人だし、心から信頼しているけれど、あなたは今回絶対に間違っている」と言い放ったというエピソードが紹介されていた。だが、当時の米国政府(クリントン政権からジョージ・ブッシュ政権時代)はこれを無視、結局中国はWTOに加盟した。

しかし、ここ数年の「中国のWTOルール違反」議論を振り返ると、当時の彼女をただの頑固者というわけにはいかないことが分かる。また「香港民主の父」とまでいわれたマーティン・リー元議員は、2020年には「違法集会罪」で逮捕され、翌年執行猶予付きの有罪判決を受けている。

そんな彼女の台湾訪問はすでに日本のマスメディアがあれこれ分析、論じているが、ここでは中華圏の庶民レベルでのさまざまな視野を拾ってみたい。

●台湾庶民は「シアダーラ」

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