【ぶんぶくちゃいな】過失か、過剰か、あるいは正当防衛か

これまでもこの時期に散々書いてきたけれど、3月の中国は「政治のシーズン」である。北京の人民大会堂で年に1度の全国政治協商会議(「政協会議」と呼ばれる)と全国人民代表大会(同「全人代」)が開かれるからだ。中国人はこの2つの会議をまとめて「両会」と呼ぶ。

中華人民共和国は「中国共産党が指導する」ことを玉条とする国家であることは周知のとおりだが、実は中国には中国共産党以外の政党やその党員になることが許されている。ただし、中国共産党の指導に従うことが絶対的条件となっているが。前者の政協会議はそんな「党外関係者」をまとめて「民主の実践」が謳われる組織だ。だが実際には「政協」は立法権や行政権も持たない組織であり、「中国共産党が指導する」政治において発揮できるのは「顧問」的な役割である。

一方の全人代は、中国の最高立法機関という位置づけになってはいるが、全国各地で選出された人民代表が集まるのは前述したとおり、毎年3月に1度だけしか10日間程度しか開かれない。さすがにそれでは間に合わないので、日頃は全国の人民代表(2019年は2980人)の中から選ばれた「精鋭」にあたる常務委員会(174人)が実質的な立法議会の役目を果たす。

政治の顧問委員的な協商会議委員、そして国会議員にあたる人民代表になるためには、中国共産党員である必要はない。特に党外からの人たちを集めて「民主」を謳う協商会議では、全国から選ばれた協商会議委員のうち60%は非共産党員、さらにその「精鋭」(全人代と同じように通年の実質的機能をカバーする)である常務委員は65%が非共産党員であるよう規定されている。

ただ、前述したとおり、全人代も政協会議のどちらもその代表と委員も任期は5年間でもちろん年間を通じて在職していることになるが、実際の運営はそれぞれの常務委員会によって執り行われており、つまり、中国の最高顧問機関、議決機関としてのキモはこのそれぞれ常務委員会にある。この常務委員に選ばれるにはそれぞれの母体会議内部の推薦と選挙によるため、当然のことながら「中国共産党の指導による」色がますます濃くなっていく。

内閣に相当する国務院のメンバー(大臣クラス)も、国家指導者にあたる国家主席も5年に1度、3月に開かれる全人代全体会議で選ばれるというシステムになっているが、実際にはその前の常務委員会でほぼ確定しており、全体会議はある意味、届けられた書類にハンコを押すだけの役割。すべては常務委員会に決まる。協商会議もまた政治権力を持てない存在ながら、やはり常務委員会が日常の運営を行っているために、全体会議は結局のところ、「協商会議」のハンコを押すだけだ。

蓋を取ると、3月の政治のシーズンはいってみれば「つまんねーなー」的政治シーズンでもあるのだが、全国から「人民民主」を謳って北京に集まってくる(その経費はすべて「自分持ち」である。所得税控除項目にはなっているが、みんな「手弁当」参加なのである)人たちを馬鹿にはできない。やってきた代表や委員にはその栄誉を十分に味わってもらうため、また彼らを見つめる人たちがその栄誉を羨ましく思えるよう、毎年この年は政治ショーさながらの話題作りが行われ、華やかさが演出される。

もちろん、メディア報道は大事なツールだ。華やかな衣装や民族衣装をまとった地方代表たちをレンズに納め、もちろん地方メディアは「わが町代表」の姿を各地に送り届ける。人民大会堂入りする芸能関係者や著名企業家たちの表情を捉えようと群がり、押すな押すな状態になる。さらには、女性代表らがまとった最先端の高級ファッションブランドやその価格が逐一さらされ、大きな話題になったこともあった。こうなるともう、アカデミー賞さながらの「イベント」である。だが、さすがに海外高級ブランドを見せびらかすように身に着けた「人民代表」や「協商委員」はあまり都合がよくなかったらしく、メディアに報道規制が下りたときく。

もちろん、イベント的なウキウキした、華やいだムード作りのほかにも、政治的にも「花」をもたせる。前述したとおり、その議決案のほとんどは事前に常務委員会に取り仕切られ、全体会議の議場はただの押印の役割しかないのだが、それでも春節(1月か2月)直後の新しい政治が始まったとばかりに決定事項が華々しく発表され、報道される。

また今回も前置きが長くなったが、今年3月もまた、確実にこの「両会」イベントシーズンのタイミングを狙って発表したな、と思える新施策があった。ここ数ヶ月、いやもっと視野を広げれば、昨年からさまざまな議論を生んでいた、司法による「正当防衛」判断である。今回はそのいくつかの具体的事件をご紹介する。普通に暮らす中国人が日常ではまりかねない危険がそこここに転がっていることを知っていただきたいと思う。

●重傷害罪から一転、表彰へ

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