【ぶんぶくちゃいな】「オミクロンか、政治力か？」 混戦する香港政治新生態

2021年は民主的な政治制度を希求し続けてきた香港市民にとって、悪夢のような1年だった。そして年が変わって改めて振り返ってみると、実は政府は年初から年内に行われることが決まっていた立法会議員選挙に照準を合わせ、民主派潰しの「スケジュール」を組んでいたことがわかる。もちろん、市民は蚊帳の外に置かれて、目の前で起きた事態にただただきりきり舞いさせられただけだった。

その主だった出来事を以下に再録しておく。

1）2021年1月6日 民主派予備選挙関係者55人を一斉逮捕：立法会議員選挙はもともと2020年に行われるだった。民主派はそれに先駆け、議席の過半数奪取を目標にして同年7月に候補者絞り込みのための予備選挙を行い、投票に参加した市民の数は主催者の予想をはるかに超えた。だがこの日「政権転覆共謀罪」容疑で関係者が一網打尽にされ、一部は保釈されたが今も37人が拘置中で公判が続いている。つまり、この55人は年末に行われた選挙には立候補どころか、投票もできなかった。

2）同（以下略）3月11日 中国政府お膝元の全国人民代表大会が香港の新選挙制度を可決：その新制度下では香港市民が長らく求めてきた、立法会議員選挙及び行政長官選挙への直接選挙の導入どころか、逆に一般有権者（約447万人）が手にした1票で選出できる議席数はそれまでの35（50％）から20（22％）にまで減少。一方、社会エリートで1500人で構成される新設の選挙委員会枠では、40議員（44％）選出のために一人あたり40票が与えられるという不公平さとなった。

3）5月12日　区議会議員への忠誠宣誓義務付け決定：政府は2020年に「香港国家安全維持法」（以下、国家安全法）に基づいて公務員及び公職者に、国家や政府、香港基本法への忠誠宣誓を義務付けたが、その対象者が区議会議員にも拡大された。7月には「宣誓後議員資格を抹消されれば、これまでの議員報酬と手当を全額返納しなければならない」という怪情報が流布される。政府高官が噂に曖昧な態度を採ったことで200人以上の民主派区議会議員が自己破産を恐れて続々辞職。

4）5月-9月　労働組合、社会運動団体など民主派組織が政府や親中団体の圧力を受けて次々解散：中国国内の政府系メディアがまず名指しで団体、組織を攻撃し、続いて香港政府がそれに呼応して関係中断や未認可の姿勢を打ち出したことで解散に追い込まれた。また、関係者にさまざまな嫌がらせが行われていたとの証言もある。解散したほとんどが民主派の票田となってきた団体だった。

5）9月-10月　区議会議員の宣誓実施：宣誓終了後、民主派49人が議員資格と今後5年間の被選挙権を剥奪される。今期の区議会議員は2019年11月の選挙で選出された「デモ・チルドレン」ともいえる人たちで、次代の民主派政治家候補だったが、その将来が潰された。

6）9月19日　新選挙制度下の新組織「選挙委員会」委員の選挙：選挙委員会委員1500人は表向きは各業界や公職者などから「選挙によって選出」されることになっていた。実際には、各枠には、全国人民代表大会及び政治協商会議の香港地区代表／香港政府任命の各地区防災関連委員（＝2019年選挙で落選した親中派）／政府が指定する業界団体トップ――などからの横滑り委員が大量に存在しており、この選挙で選ばれたのは全体のわずか24％に当たる364委員のみ。つまり、1100人あまりは政府指名委員だった。

7）12月19日 立法会議員選挙投票日：選挙委員1500人（各人40票）が40議席を、業界団体代表ら約7900人（各人1票）が「功能組」（産業界枠）30議席を、さらに一般有権者約447万3000人（各人1票）が20議席を選出。投票率は過去最低の30.2％となった。

…とこんな具合っだった。詳細は端折ったが、こうしてみると、毎年10月に始まる立法会年度に合わせて9月に行われていた議員選挙を、なぜ中途半端な12月にずれ込ませたのかがよく分かる。まずは民主派を完全壊滅させた上で、選挙を行うことを念頭にスケジュール化されていたのである。

こうして新たな立法会議員90名が誕生した。市民にとってほとんどが知らない名前で、全体のうち89人が親中派で、非親中派を自称する議員がわずか1人という構成となった。

ともかく1年以上をかけてやっと正式な議会が出現したことで、きっと政府も親中派もほっと一息ついたはずだった…なのに、新年早々どえらい騒ぎが持ち上がった。

●庶民の度肝を抜いた大規模パーティ