【ぶんぶくちゃいな】仕組まれた権力の罠:「一国二制度」下の香港区議会選挙

12月10日に投票が行われる香港区議会議員選挙への立候補受付が10月30日に締め切られた。そこで、香港民主派の「惨敗」が確定した。

区議会議員の選挙は4年に1度行われることになっている。前回2019年の選挙は同年11月に行われ、投票率はこれまで香港で行われたすべての選挙を上回る71.23%を記録した。区議会はこれまでずっと親中親政府的な立場を採る「建制派」が牛耳ってきたが、この選挙で争われた合計452議席のうち86%に当たる389議席を大量の新人を含む民主派が獲得した。

それは、同年6月に始まった政府による「逃亡犯条例」改訂に反対する大型デモからすでに5カ月が経ち、また日を追うごとに警察によるデモ参加者への発砲や大量の逮捕者、さらに投票日当日にも続いていた香港理工大学に立てこもるデモ隊と警察の睨み合いと行動面において激しさが増す中で、市民がそれでも平和的、合法的手段を利用して行った意志表明だった。

今年12月に行われる区議会選挙はその改選選挙である。だが、立候補の受付期間が終了しただけの、まだ投票日前の段階でどうして民主派が負けたとわかるのか。

それは、立候補の意志を明らかにしていた民主派の立候補者候補(わかりにくいが、「立候補を予定していた人たち」のことだ)たちが、誰一人として立候補の届け出ができなかったからだ。ならば、なぜ届け出ができなかったのか。

それは今夏に改定された「区議会条例」で新たに義務付けられた議員選挙立候補への推薦者要件をクリアできなかったからだ。実際には、今選挙よりも前の2021年に最高議決機関の立法会議員選挙が行われたが、やはりこの選挙の前にも立候補のための要件が大幅に書き換えられて民主派の出馬は大きく制約され、議場の民主派はほぼゼロとなった。

その結果、今回の区議会選挙に対しても大した期待は集まっていなかった。しかし、多少なりとも「民主派」の旗を掲げた立候補者が出現した立法会選挙に比べ、今回は民主派からの立候補者がゼロという前代未聞の事態に、市民は不満の声も上げられないまま沈黙を続けている。


ここから先は

6,102字
この記事のみ ¥ 500

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。