【ぶんぶくちゃいな】「香港独立」に揺さぶられるキャンパス

先日ふと気がついたのだが、昨年の今頃、香港は月初めに行われたばかりの立法会選挙で、2014年以降に出現した「民主自決派」と「香港自決派」と呼ばれる若い政治勢力から6人の候補者が当選したことでちょっとした興奮状態にあったんだった。

初当選した顔ぶれのうち、「民主自決派」に属する「香港衆志」主席の羅冠聡(ネイザン・ロー)さんは24歳で歴代最年少の立法議員となり、同じく初当選した朱凱迪(エディー・チュー)さんは8万4000票あまりを集めてトップ当選した(念のためだが、香港の人口750万人のうち投票者登録を済ませた有権者は378万人で、この時の投票者数は220万人だった)。さらに、もともと測量士である梁振英行政長官(当時)のお膝元である「建築・測量・都市計画及び環境業界」から、業界枠議員としてやはり民主自決派の姚松炎氏が現役や親中派候補らを抑えて当選するという大波乱も起きた。

その結果、香港独立を主張する傾向にある「本土派」から3人、そしてそれまでの既存民主政党とも違う「民主自決派」4人が香港の最高議決機関入りした。これは、2014年に中国中央政府が香港行政長官選出のための直接選挙細則を一方的に定めたことに抗議した市民らが79日間も主要道路を選挙した挙句、強制排除されてしまった「雨傘運動」での挫折以来、香港の自由や民主を求める人たちにとって最も明るいニュースだった。

香港は新しい政治の時代に入った。誰もがそう思っていた。もちろん、中国の反発ぶりを見ると前途多難なのは誰もが理解していた。

しかし、それからわずか1年後の今、あの選挙で注目を集めた7人のうち、議場に残っているのは朱議員ともう一人、本土派の鄭松泰議員のみ。昨年10月の初登庁日に行われた議員の就任宣誓であらかじめ決められた語句をそのまま用いなかったとして、5人、さらにはすでに4期目に入っていた民主急進派議員の梁国雄議員が議員資格を剥奪されてしまった。

その剥奪は、明らかに中国中央政府が仕掛けたものだった。10月の異例の宣誓が問題となってから開かれた中国政府下の議決機関、全国人民代表大会常務委員会が新たな法解釈を下したのだ。そして一方的に「過去の事例への遡及効果」を謳った新解釈は香港議会を経ないまま適用され、法廷で6人の議員資格剥奪が言い渡されたのである。

つまり、香港はここ1年、「過去最高の投票率の議員選挙」→「新しい政治主張を持った、若い世代の議員登場」→「中央政府下による法解釈」→「民主選挙で選ばれた議員の資格剥奪」という激しい「政治の洗礼」を受けてきた。

さらに、羅冠聡元議員は、議員資格剥奪からわずか2週間後、2014年の「雨傘運動」前夜の行為を巡って香港政府の司法長官が求めた再審請求によるやり直し裁判で、他の2人の若き学生リーダーとともに有罪判決を受けて入獄してしまった。

自分たちが投票で選んだ議員が中国共産党の政府によって資格を剥奪されたことに怒った市民は、羅氏らの判決直後に「雨傘運動」以来最大の抗議デモを行った。だが、それでも香港政府も中央政府もその怒りの声にはなんら反応せず、「法の裁き」をタテに無視する態度を採った。

香港社会は再び香港の政治環境に絶望感が広がり、「これは白色テロだ」という声も聞こえてくるようになった。

●キャンパスに噴き出した「香港独立」主張

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