【ぶんぶくちゃいな】国家安全法:香港政府は「ダーティージョブ」を引き受けた?

今週はまたもやいろいろあった香港だけれども、一番愉快な思いにさせてもらったのがこのニュースだった。

短い記事なのでさっと読めるはずだ。この前提となるのは、7月末に流れた「米国系銀行が香港政府関係者が持っていた銀行口座閉鎖を通告」というニュースだ。

米国政府は、中国中央政府が香港国家安全維持法(以下、国家安全法)の施行を決めたことに対して、その制定、香港の自治を損なう国家安全法の制定に関わったとされる中国政府関係者と米国金融機関との取引禁止という制裁を発表した。

これにより、米国系銀行は中国中央政府主導の国家安全法の制定に協力した関係者との取引をストップし、口座を閉鎖、預貯金はすべて当人に返金することになった。

そして実際に自ら自身が持っていた口座が閉鎖の憂き目に遭ったことを、香港行政長官の諮問機関である行政会議のビジネスマンメンバーが明らかにした。さらにその後8月7日には、米国財政省が具体的に林鄭月娥・行政長官以下香港政府トップ7 人(含む現・元警視総監)、さらに中央政府直属の香港担当機関責任者4人の合計11人を名指しで金融制裁の対象とすることを発表している。

もともと国際金融都市香港には、シティバンクなどに代表されるアメリカ系銀行、あるいはHSBCやスタンダードチャータード銀行などの欧州系銀行、中国銀行などの中国系銀行や南洋商業銀行などの香港系銀行、さらにはシンガポールにDBS銀行、タイのバンコック銀行…などと、さまざまな外国銀行が市民向けに業務を展開している(日系銀行は一般業務は行っていないが)。香港の市民はそれを当然のように自分たちの目的に合わせて、それぞれ口座を開いて利用している。もちろん、政府高官だって同じだ。

「米系銀行に口座を閉鎖されたなら、中国の国有銀行に預ければいいじゃないか」と、口の悪い人たちは笑っていた。

そこに冒頭のニュースが流れた。「頼みの綱」のはずだった中国系銀行も米国の制裁対象になることを恐れて当該人物らの口座申請を受けかねるというのである。その理由は記事に書かれているように米ドル資金の運用のため、さらには米ドルの運用には欠かせない米国の銀行との取引(コルレス契約)をストップされたりすれば、銀行まるごとの国際取引に影響が出るからだ。

…となると、米国の制裁対象になった高官たちはどこに預金を預けるのだろう? タンス貯金だろうか? 想像するだけで、笑いがこみ上げてくる。 

米国財政省の制裁対象となったうち、駱恵寧・中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)は、「わたしは海外には1銭も資産はないのでご自由に。なんなら100米ドル預けてアメリカに凍結させてあげてもいいよ」と皮肉というか、強気な発言をしているが、その他のメンバーからはなんのコメントも流れてこない。

というのも、これが香港政府高官にもたらす影響は小さくないからだ。これまでは普通に海外に旅行したり、資産運用したり、不動産を購入したりしてきたのが、一時的かもしれないが資産を米ドルに換えることができなくなるのだから。特に林鄭行政長官のように夫も息子も外国籍の場合、海外との資金往来は至極普通だったはずだ。

実際に、林鄭長官の次男はちょうど米ハーバード大学の博士課程に在籍中だった。しかし、7月末に「家の用事で急遽香港に戻る」と同級生に告げて姿を消したきり、大学の所在地ボストンにいる人たちは誰も彼と連絡がつかない状態が続いているという。

林鄭長官は、息子をこのまま米国に残しておけば制裁のとばっちりを受けると考えたのか、それともただ「資金繰り」の影響なのか。そう考えると、報道こそされていないものの、9月からの新学期を前に同様の問題に直面している高官家庭は少なくないのではないか。

●ジミー・ライ:アパレル王からメディア王へ

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