【ぶんぶくちゃいな】中国政府の対香港人事「シャッフル」は何を意味するのか

「寂しい香港コロシアム、コンサートのキャンセル、そして待ちわびるかつての栄光復元」
「香港オーシャンパーク、連続4年の赤字 観光客6割減」
「香港ホテル業界、過去最悪のクリスマス」
「今年の冬は辛い香港商業界」
「歴史的最高価格から下落 悲喜こもごもの香港不動産業はどうなる?」

昨年末から今年初めにかけて、ニュースチェックをしていたわたしの目に止まった、中国のニュースメディアの香港報道のタイトルである。わたしは新華社などバリバリの政府系メディアは見ないので、これらはすべてわたしがいつも「中国NewsClip」でご紹介している(それなりに役に立つ)中国メディアに掲載されたものだ。

もちろん、こうしたメディアも政府のメディア指針には従わなければならないので、香港のデモ参加者側の視点で書かれた記事などは決して掲載されない。それでもご覧の通りの様子で、特にこだわって壁越え(アクセスブロック越え)する必要がない人はこうした論調だけを見せつけられ続ければ、「徹底的に香港経済はダメだよね、こりゃ」と誰しもが自然に思うことだろう。これが今、中国当局が中国国内に住む人たちに植え付けようとしている香港イメージなのだ、という意味では観察のしがいはある(わかりやすすぎだけど)。

そして、この延長線上に大陸の人たちの香港視点が作られる。わたしはちびちびと、中国の人たちがよく知る面での「不振」を強調することで、中国政府は徹底的に「半年間続いたデモのおかげで経済が大きな打撃を受けている」ことをイメージ付ける作戦なのだな、とそれを読んだ。

つまり、かつて中国の人が仰ぎ見た「国際都市香港」で、「民主だの自由だの」を振り回した結果、「経済が没落したよ、不況だよ」を強調することで、中国国内の人たちに自分の身にそれが降り掛かったらという不安を煽り、「だから民主だの自由だのと振りかざす前に、やっぱり経済発展が大事でしょ」という潜在意識を植え付けようとしているのだ。だからこそ、ますます香港を語る中国国内関係者は「中国経済の優位性」を声高に語るのだ。

だが、実際にわたしが見た香港は、たしかに経済が受けた影響と観光業界、及び小売業界(それも高級品ビジネス)へのマイナス影響は明らかだったが、街全体はそれほど暗い表情ではなかった。それを、「もともと持てる者だったビジネス業界トップはともかく、庶民はなにも失うものはないからね」と説明してくれた友人もいる。

ただ、旧暦正月以降職を失う人が増えるはずだという予想は、ビジネスの上層にいる人も下っ端にいる人も一致していたのだが、それでもフツーの庶民は眉をちょっとひそめるだけで、いつもの調子に戻っていた。深刻そうに語っていたのはやはり、上層にいる人たちだった。上層にいる人たちはそれなりに蓄えてきているはずで、下っ端よりも生命維持力は高いと思われるのだが、それはなぜなのか? 一番に大量にクビを斬られそうな下っ端のフツーの庶民が「浅はか」で何も考えておらず、上層部はクレバーで目が利き、深く考えているから? 

わたしがいう「フツーの庶民」の方には、今回のデモとは関係なく、ここ数年のうちにクビ斬りにあったり、辞職したりして、フリーランスで食いつないでいる人も含まれているのだが、彼らは「失業が増えるだろうね」と言いながらひょうひょうとした表情を見せるのが不思議でならなかった。

逆に言えば、それはつまり、やはり今回の運動は彼らにとって、仕事や経済よりも大事な、支持し続けるべき価値を持っているということなのだろう。お金や経済指標は目に見える基準だが、彼らが求める民主や自由や尊厳は形で示すことはできないが、今の彼らにとっては大事な宝物であるのは間違いなさそうだった。

友人夫婦が住む市街地のマンション団地でそんな話をしていたら、夜10時になって、外からデモの「五大要求」を叫び、それに呼応するようにまたスローガンを叫ぶ声がこだました。ベランダからのぞくと、ちょこちょことマンションのベランダに人影が見える。彼らが叫んでいるのか、それとも彼らもわたしのように眺めているだけなのか。友人によると、それは毎晩の恒例行事になっており、団地の階下で中学生くらいの男の子が叫んでいるのによく出くわすという。家族にデモ反対者がいて家から叫べないから「コンビニに行く」などと口実を作り、団地の庭に出てきて叫んでいるのだそうだ。彼はその子に、「気をつけろよ、デモ反対者が通りかかったら危ない目に遭うかもしれないぞ」と声をかけておいたのだが、たびたびその子が叫んでいるのが聞こえるという。

そこに、すでにしっかり根付いてしまった、今回の運動の価値観を見た。だが、事態、そして交渉や要求はすでにデッドロックに乗り上げているように見える。お互いにこのまま一歩も譲らない状態が続けば、香港だけで事態を打開できるわけではないために、外壕を埋められた香港は坂道を転げ落ちていくことになってしまう。次になにが待ち構えているのだろう、と思っていたところに、大きな動きがあった。

1月4日夜、中国の「中央政府駐香港連絡弁公室」(以下、「中連弁」)の主任(責任者)だった王志民に代わり、元山西省党委員会書記だった駱恵寧・全人代財政経済委員会副主任が今後、担当するという発表が行われたのだ。あまりに突然の発表だった。

●香港事務から完全に姿を消した中聯弁前主任

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