まっさかさまに落ちたQuartz:Digiday《Caught in the mushy middle: How Quartz fell to earth》

UZABASE傘下になった米Quartzの惨状に関する最新記事。新型コロナ下で、ほぼ半数の職員を解雇し、ロンドン、ワシントン、サンフランシスコ、香港などのオフィスを閉鎖したとのこと。

個人的に一番響いたのがUBが買収する前の「旧Quartz」のこの姿勢。

The newsroom eschewed “desks” or “beats” and organized around “obsessions.” Africa’s economy is a beat, according to the style guide, but Chinese investment in Africa is an obsession — a phenomenon shaping readers’ lives and industries. “Obsessions” shift, while beats remain constant, in theory making Quartz’s newsroom more agile but in practice also permitting reporters to be more scattered.

残念ながら、わたしがいたときのNewsPicksは完全に“desks” or “beats”追っかけ至上でして、 “obsessions”型のわたしとはソリが合わなかった。というか、事前にそのことをきちんとわたしから話をして入職したのだが、たぶん編集長氏はその意味すらわかっていなかったんだね。まぁ、その結果のこの惨状、あるあるという気しかしない。

あと、もう一つとても大事な点として、

Some reporters balked at the paywall and subscription model, as writers who want their work seen by the most possible people often do.

課金制になってからQuartzの記事が引用されることが激減した。それがQuartzをトップメディアからあっというまに転落させたことは否めない。だが、ここで指摘されていることでもう一つ重要なのは、無償で尖った、あるいは非常に有益な記事を公開するということはある意味、アメリカのジャーナリズム業界にとって非常に重要なエコシステムになっているという点だ。

米国では新卒でNYTやWSJに入る人はほとんどいない(いるかもしれないが、ほとんど聞かない)。ほとんどが小さなメディアやフリーランスや地方メディアから経験を積み、得意分野を磨き、人脈を作って、評価されて叩き上げでキャリアを重ねて、こうした超有名メディアで働くようになる。

そのキャリアパスとして、人に認知される記事を発表するための場としてQuartzや以前のハフィントンポストなどが機能する。

それは日本の無料メディアと同じじゃんと思う人がいるかもしれないが、日本のそういうメディアで書いている人のプロフィールをよく見てほしい。書き手は別に本業を持っており、アルバイト的に書いているケースがほとんどだ。それが悪いというのではない。ただ、そうした書き手は認知されることは意識していても、そのメディアに書くこと自体は彼らにとってのキャリアパスではなく、ただ本業につなげていく「宣伝」でしかないのだ。その執筆で生活するために必要な額の原稿料が支払われないんだから、そう割り切って利用するしない。だからそこを宣伝の場にして自分の本業に注目させる(だが、そういう書き手を多用した結果、書き手が敢えて自分の本業に都合の悪いことは書かないというパターンが散見される。その媒体がメディアとして機能しているかどうか、非常に微妙な状況といえる)。

一方で書き手としてそうしたメディアで食い続けるには、浅く軽く数をこなして書き続けるしかない。それではどうにか食いつなげてもジャーナリストとしてのまっとうなキャリアは磨けない。日本では第一にキャリアをそうやって磨いた人を雇い入れて正社員にするようなメディア(レガシーメディア)はない。つまり、エコシステムが存在しない。だから、ライターはただ話題と記事提供のための使い捨てで終わる。その一方で本業で食っている人はばんばん書きまくるという事態が起きている。

だが、Quartzやハフィントンポストなどは十分に米国のジャーナリストが叩き上げていくのに十分なパスだった。原稿料をきちんともらい、記事を認知してもらい、次の仕事に続けていく。編集者がそういう人の登竜門になる眼力をもっているからこそ、そのメディアは歓迎され、また注目された。

Quartzの課金制導入はそれを閉ざしたことになる。NewsPicksの流儀は自社サイト内でユーザーを囲い込み、課金させるスタイルで、外のエコシステムにはなにも漏らさないというスタイルを採る。そのやり方をゴリ押しした結果、簡単に言えば自らを米国が持つジャーナリズムエコシステムからはじき出してしまった。そこに載せた記事が広い読者の目に触れなくなってしまったメディアに真剣に書くフリーランスはいない。別媒体を選ぶようになる。そうしてQuartzの記事の質は自然に落ちていく。

優秀な編集者が職を去っていったのも、そのせいである。米国人ジャーナリストにとって誇りとも言えるそのエコシステムを支えていない企業にしがみつく必要はさらさらないのだから。

米国の先行メディアに対する憧れはあっていいだろう。だが、それを作り上げたエコシステムへの尊敬や尊重を忘れてしまえば、著名メディアだって一瞬にして崩れ去る。ベゾスに買収されたWapoが続くのはなぜか。ベゾスはWapoを継続させたことで自身の名声も高めた。そういう意味で、最近の「サウスチャイナ・モーニングポスト」(SCMP)は……これは別記事にできればいいな。

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