【ぶんぶくちゃいな】中国の「女性」たち

中国初の冬季オリンピックが始まって約1週間。

中国人にとってのウィンタースポーツといえば、極寒の北部都市ならば毎年冬になると池や河が凍り、そこでスケートやそり遊びを楽しんだりすることはある。北京などの北部寄りの大型都市では海外からの帰国者などが多いこともあって郊外でのスキー場開発も始まっており、ここ10年ほどはレジャーとしてスキーを楽しむ人が増えてきた(かくいう日本の九州育ちの筆者も生まれてはじめてのスキーは北京郊外だった)。但し、全体から見ればそれらはまだまだほんの一部の「豊かな人たち」の愉しみで、雪深い地域に住む人たちを含めて一般庶民のほとんどはウィンタースポーツにはあまり馴染みがない。

それでも、自国での2回めのオリンピック、そして雪の上で展開される競技に新鮮な思いを抱いている人も少なくない。もともと雪深い地域では自分たちが日々格闘している雪景色にこんな可能性があるのかという思いだろうし、雪なんてほとんど降らない、見たことがない地域の人たちの目には、文字通りの雪や氷の祭典はまさに知らない世界への旅行気分である。

但し、夏のオリンピックならバレーボールや水泳やサッカー、陸上、卓球などそれぞれにこれまたそれぞれにうんちくを傾けるファンがおり、いつも競技前にはかしましいのに比べて、今回の冬季オリンピックは、どちらかというとメディア主導のイベントになっている。競技前の予想合戦もそれほど盛り上がらず、ただただ王者が決まるのを見守り、中国選手の活躍に一喜一憂するだけだ。

その分、結果としての「勝ち負け」への注目は高い。

特に話題になったのは、先週末の女子フィギュアスケートに出場した朱易選手。彼女は米国で中国人の両親の下に生まれたが2019年に米国籍を放棄し、中国のナショナルチームに参加。試合前からそのことが大きく喧伝されたことで注目されたが、オリンピック本番で2回転倒し、メダルどころか泣きながらリンクを後にする姿が大きく報道された。

そして彼女はネットで激しい非難にさらされた。「あんたのせいで代表選手入りできなかった人がどんなに悔しい思いをしていると思う?」というオリンピック代表に対してよくある非難から、「米国に帰れ、中国はお前なんか歓迎しない」というものなど、彼女のSNSアカウントのコメント欄には激しい罵りが続いた。

その罵詈雑言にはさすがに「ひどすぎる」という声も引き起こし、新浪微博は2000以上のアカウントの書き込みを禁止し、4万件のコメントを削除したと発表。また、海外では「TikTok」と呼ばれる人気ショート動画サイト「抖音」を展開する「字節跳動 Bytedance」(以下、バイトダンス)も、「オリンピック鑑賞とコミュニティのムードに悪影響」として、7000件近い動画やコメント、罵倒や中傷を繰り返した300以上のアカウントに対して一時書き込み停止やアカウント削除の措置をとった。

英BBCの報道によると、朱選手のような「帰化」選手は今季オリンピックにおける中国チームの「目玉」になっており、なんとアイスホッケーチームは男女ともにほぼ半数をこうした「帰化」選手が占めているという。

冒頭で触れたように、中国国内ではウィンタースポーツはまだまだ市民権を得ておらず、その結果メダルに手が届くような選手の育成も追いつかない。だから、世界に散らばる中国系選手を「帰化」させて中国チームの体裁を整えようとしたわけだろう。

●「帰化」した娘の裏に「成功」した親ありき


ここから先は

6,465字 / 2画像

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。