【ぶんぶくちゃいな】珍説「投票率」まで飛び出す、混迷する香港立法会議員選挙

この原稿を書いているのは12月18日。明日19日はとうとう香港立法会議員選挙の投票日である。立法会は香港の最高議決機関であり、今回の選挙は2019年の大規模デモ(反政府デモ)後初めてその議員を選出する選挙となる。

わたしは、香港の市民権を持ってはいるがまだ「永久居民」ではない。永久居民というのは、ほぼ香港で生まれ育った人たちと同じ権利を有する市民のことで、ある一定の居住期間を満たした上で申請によって認められる。「ほぼ同じ権利」というのは、外国籍を維持したまま永久居民資格を取得した場合、香港を離れて3年以上戻った記録がない場合は自動的にその資格を失うためだ。

だが、香港で生まれ育った人も、またその後移民によって他国籍を取得した場合、この「3年期限」はない。というのも、香港は中国本土と違い、英国植民地時代から二重国籍が認められているため、生まれ育った香港からの「離脱手続き」を取らない限り、その人が香港籍を抜けたことにはならないからのようだ。そしてそんな手続きをとったという人の話は今まで聞いたことがない(なお、元の籍を残したまま他国籍を取ることも「移」民なのかという点は、ここでは暫時横に置いておく)。

わたしのケースは香港を離れる前に永久居民資格を申請すれば取れたはずなのだが、いろいろあってそれをやらずに離れてしまった。そのために、「永久」の一歩手前の「香港居民」というグリーンカード的な立場を続けている。もちろん、永久居民との格差はさまざまにあるのだが、選挙に限って言えば、有権者になるための「選(挙)民登録」(以下、「有権者登録」)資格がないことだろう。

香港では投票したければ、当人が自ら政府にこの有権者登録を行っておく必要がある。そして、日本の投票所では自宅に送られてきたはがきを元に本人確認するが、香港の投票所では香港身分証番号(いわゆるマイナンバーのようなもの)で有権者登録済みかを確認して投票用紙を受け取る。つまり、この有権者登録をしていなければ投票所に行って身分証を出しても投票できないから、香港における投票はまず「有権者登録をする」という当人の積極的な姿勢から始まる。

このため、香港の「投票率」の分母は、日本のような「18歳以上の日本国籍者総数」ではなく、この「有権者登録を済ませた人の数」となる。もちろん、それとは別に、登録資格を持つ人口に占める有権者登録を済ませた割合という(日本にはない)数字も存在する。一度有権者登録しておけばずっと登録に名が残るので、それ以降の選挙で投票できる。

つまり、有権者登録者は当人が死亡しない限りずっと増え続けるスタイルだった。だが、2019年のデモ、特に今年3月に中国中央政府(以下、「中国政府」)が香港の新選挙制度を制定した後に、「有権者登録を抹消したい」という市民が出始め、その時初めてそんな手続きが存在することを知った。そして実際に抹消手続きをした人たちがいたらしい(SNSや報道などから)。

今年10月末の有権者登録数は約447万3千人。この人たちが今回の選挙の有権者となる。昨年(今回の立法会選挙はもともと昨年9月に行われる予定だったものが延期された)の446万6千人より約6000人増えている。「有権者登録数は過去最高」という政府の触れ込みはウソではないが、前述したように累積されていく仕組みだから、必ずしもその数が「選挙への期待感」とイコールではない。逆に、「社会参画に積極的な(だった)人=有権者登録者」を分母に実際の投票者数で算出される投票率は、日本のそれよりも、その選挙の社会的意義を代弁する数値となる。

そのことを踏まえた上で、今回「愛国者による香港治政」を目指して「香港の選挙制度を整備した」と中国政府が喧伝する新選挙制度における初選挙の「前哨戦」をキーワードで拾ってご紹介したい。

●「清一色」vs「非建制」


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