【ぶんぶくちゃいな】ある「和理非」青年の死:当事者たちにやれること

11月8日、香港時間の午前8時9分、香港科学技術大学2年生の周梓楽さんが亡くなった。4日未明に郊外の住宅地、将軍澳の自宅近くのマンションの駐車場2階に倒れているのが見つかって以来、まったく意識を取り戻さないまま、脳死状態となり、この日朝に心臓が停まり、心臓マッサージを続けたが心拍は戻ることがなかった。

周さんは発見当時、脳を損傷するほど激しく頭を打っており、頭蓋骨内の血塊を取るための手術、そして上がり続ける脳内圧を下げるための努力などが続けられた。駐車場の3階から何らかの理由で落ちたのは間違いないのだが、詳しい報告はまだどこからも出ていない。

周さんが発見される直前、3日の日曜日夜には将軍澳ではデモが行われ、警察が大量の催涙弾を放っていた。市民はもう、デモと同じように催涙弾の発射には慣れっこになっており、「またか」という表情で催涙ガスが漂う先を避けて歩こうとする。

当初、周さんもその催涙ガスを避けて駐車場に逃げたのではないか、そこで足を踏み外して落下したのではないか、と言われていた。だが、周さんがいた3階から足を踏み外す前には駐車場の手すり(壁)を超える必要がある。ならば、なぜそれを乗り越えたのか。子供じゃあるまいし、分別をもった大学生が、空気中に漂う催涙ガスを避けるためにわざわざその壁を乗り越えるなんてありえなかった。

現場に駆けつけたメディアによると、周さんが落下した現場は複層階の駐車場になっており、2階には駐車場外に人が歩ける廊下がある。周さんはそこに倒れていた。3階には廊下がなく、2階廊下は吹き抜け状態になっている。そのために3階から転落した周さんはそのまま2階の床に激突したと見られる。でも、なぜ?

駐車場を管理する会社は、6日にになって事件当日の駐車場内の防犯カメラの映像を公開した。そこには周さんが一人でスマホを手に駐車場内を行き来する様子が映っていた。映像の人掛けはシャープで、催涙ガスが漂っている様子もない。しかし、管理会社は周さんが落下する瞬間を捉えた映像はなかったと明らかにした。

周さんの死はすべてにおいて「意外」な事件である。

彼はデモの先頭に立っていたどころか、デモ現場にいたわけでもなかった。すぐそばでデモが行われていたものの、ガスマスクやヘルメットを身に着けていたわけではないので、直前まで参加していたようでもない。だが、それでも周さんの死はデモとは切っても切れない関係にあること、それが衝撃的なのである。

●なぜ彼は壁を飛び越えたのか?

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