【ぶんぶくちゃいな】中国に賭けたギャンブルシティ、「ハト」に屈服す
今月初めのメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(194号)の冒頭で、「直撃もしない台風で東京は騒ぎすぎる」と書いた。まぁ、今や人口も産業も国の中枢昨日も首都に集中している日本で、東京へのダメージを心配する気持ちはわからんでもない。だが、地震にはあれほど落ち着いた態度を見せる(それは外国人の目にはかなりの驚きに映る)のに、台風になると不釣り合いなくらい大騒ぎするのが不思議でしょうがない。
このバランスの悪い騒ぎ方はたぶん、メディアに増幅された部分が大きいと思う。地震と違って台風はほぼ2日ほど前から警戒予報が出て、メディアが繰り返す「念のために」が独り歩きして必要以上に人々に不安をもたらし、人の心を疲弊させる。毎年のことなんだから、一人ひとりがもうちょっと落ち着いて事態をきちんと把握、判断できるようになれば一番ではないかと思うが、一旦コトが過ぎてしまうと、一人ひとりが、そしてメディアもきれいさっぱり忘れてしまったかのようだ。
なんどか、メルマガで取り上げたことがあるが、台風の多い九州育ちのわたしが香港で暮らすようになって大変印象に残った制度に、「台風シグナル制度」がある。
正式には「熱帯低気圧警告シグナル」と呼ばれるこの台風シグナルが始まったのは、Wikipediaによるとなんと19世紀。当時はのぼりを立てて熱帯低気圧の接近を知らせていたのが、1907年からは大砲を鳴らして香港の住民に熱帯低気圧の到来を知らせるようになった。
1937年を最後に大砲によるシグナルは、天文台が発表する数字にとって変わられた。現在に続く1から10までの数字で表すシグナルは1931年から始まったが、現在は1、3、8、9、10のシグナルのみ使われている。
たとえば、「1号(警戒)シグナル」は、近海に香港に影響する可能性のある熱帯低気圧が存在していることを知らせるものだ。「3号(強風)シグナル」が出ると、幼稚園や特殊学校が休校になる。また、今後の低気圧の動きを勘案し、教育局が小中学校の休校を宣言することもある。観覧車やケーブルカーなども運休になる。
また、3号が出た時点で、天文台は次の8号シグナルを発令する可能性があるかないかも予測する。台風の進路によっては、3号が出た時点で「8号発令の可能性はなし」となることもあり、これもまた、市民が心の準備をする大事な情報となる。
「8号(烈風または暴風)シグナル」が出ると、すべての学校が休校になる。また障害者活動施設も閉鎖。観光地や銀行、一般のオフィスなども含めてほとんどの活動も閉鎖され、企業は職員を安全な場所に安置させる義務を負うため、多くの場合、労働者はすぐに帰宅することができるる。金融や株式市場も休止になる。鉄道やバスは様子を見て、運転状況を休日運転に切り替える。船はシグナルが出てからだいたい1時間以内に運休するので、離島居住者は大急ぎで帰り支度をすることになる。
8号になると、病院、警察、消防署などは休日返上のシフトを組み、休むわけにはいかないニュースメディアも公共交通が使えなくなることを考慮してタクシー代が出るところが多い。
その上の9号、10号が出た時点で、まず公共交通が最小限に抑えられる。特に地下鉄は一部高架上を走る郊外の路線はほとんど運休になり、地下を走る路線のみ、通常より本数をぐっと減らして往復運転が続けられる。
…と、基本的にこうした情報が住民の頭に叩き込まれており、シグナルの動きに基づいて判断して行動できるようになっている。たとえば、幼稚園や小中学校に通う子供を持つ親たちは、シグナルを見て自分の行動を考えることができ、香港中の親たちが同じ状況に置かれているため、例えば在宅ワークに切り替えるにも理解を得やすいという利点もある。
わたしが香港に住んでいた1990年代で面白かったのは、路面を走る2階建て電車とイギリス風のバス「ダブルデッカー」には、「台風のときは窓を全開にする」というルールがあった。横風を受けて倒れないための措置だったのだろうが、台風の中を走る電車やバスが窓を開けっ放しにして走る姿はそれなりにシュールだ。
実際に何度かそんな場面に出くわしたが、乗客の少ない車内でそれぞれが雨を避けながら、「自然の脅威には逆らえないよねー」みたいな諦めを皆が共有していて、それはそれで面白かった。
それにしても、今やバスは全車クーラー完備になっているので、窓を開くことができないはずだ。それでもバスが台風で横倒しになった、というニュースは聞かないので、香港の台風「耐性」は相当なものだ。
●「ハト」に襲われた街
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